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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1990年に時間遡行した私が、初めに巻き込まれた事件と出会いのお話
24/82

1990年11月27日、火曜日 21:55~

 「アキラ! もう一度、走るぞ! 」


 「はい! 」


 私たちは歩道橋を日野駅側に下りて、再び走り始めた。

 間もなくバリケードは次々に突破されるだろう。

 警察官も消防隊員も、ギガマウスの大群に飲み込まれてしまうに違ない。

 そんな悲惨な状況を予感しながらも、私にできることは何もない。

 バリケードが支えられているうちに、少しでも遠くへアキラを連れて逃げるしかない。

 何処を目指すのが正解か分からないが、只管道なりに真っ直ぐ走って、少しでもギガマウスたちから離れることが最善と思われた。

 だが、走り始めて10秒も経たないうちに、バリケードが壊されたらしい衝撃音と警察官や消防隊員の悲鳴が聞こえてきた。


 (奴ら、絶対にこっちに来るぞ! )


 数百匹のギガマウスの飢えが、僅か20人程度の獲物で満たされるはずがない。

 この辺り一帯には私たち以外の人影が見えないので、住民は皆が避難したか、家に閉じ籠っているかだろう。

 だから、ギガマウスたちは、もっと多くの獲物を求めて市街地を目指すに決まっている。


 「アラヤシキさん! 行き止まり! 」


 住宅街の細い迷路のような道は、所々が突き当りの行き止まりになっている。

 土地勘さえあれば、そんな道に入り込むことは無いのだが、これで2度目である。

 焦る気持ちで、少しでも市街地までの最短距離を選んで走ろうとするのだが、不用意に迷い込んでしまう。


 (なんてこった! またまた無駄な時間を! )


 通り抜けられるかどうか分からない他人の家の敷地に入り込むのは、更に危険なので全速力で後戻りして、別な道を走る。

 そして、住宅街を抜けて、甲州街道を目前にしたところで、


 「くそー! 」


 追いつかれたのではない。

 先に突破されていた他のバリケードがあったのだろう。

 先回りして日野駅前の市街地に入り込んでいた10匹ほどのギガマウスがいた。

 そのうちの1匹に、私たちの存在は察知されてしまった。


 ジャッ!


 頭部に備わったシンバルを合わせたような大口から発せられる一声で、他に2匹のギガマウスが反応した。

 合わせて3匹が、私たちを獲物として認識した。


 「アラヤシキさん! 後ろから! 」


 私たちのいたバリケードを突破してきたギガマウスたちも迫ってきている。

 彼我の距離は30メートルほど。

 数は分からないが、とにかく沢山いる。


 (逃げられるか? 逃げ込めるとこは? )


 前方に立ち塞がる3匹の反応速度次第だが、道幅が狭いので横を擦り抜けられるかどうかは五分五分の賭けである。

 左右にあるのは木造の一般住宅なので、逃げ込めたとしてもギガマウスが大挙して押し寄せたら簡単にドアや窓を破られてしまうだろう。

 もし、中に隠れている人がいたなら、巻き添えにしてしまう。

 頑丈そうな鉄筋コンクリート製の建物は、もう少し先に進まなければ無い。


 「ここは強行突破しかないぞ! 進めるだけ進んで、逃げ込めるとこを見つけたら飛び込むぞ! 」


 「は、はい! 」


 背後に迫る大群に追いつかれる前に先へ進むしかない。

 腕力には、それなりに自信のある方だったが、この場に関しては火事場の馬鹿力が最大限発揮されることを期待する。

 強行突破するには武器がいる。

 武器になるモノは無いかと見回した先に、ママチャリが2台並んで停まっているのが見えたので、殆ど衝動的にそのうちの一台に手を掛けて、思い切り遠心力で勢いをつけると前方に立ち塞がる3匹目掛けて投げつけてやった。

 4メートルか5メートルぐらいは飛んだと思うが、1匹に直撃した。

 何も考えず、さらに1台に手を掛けると、これも遠心力で放った。

 残念ながら、これは地面の上を滑って残りの2匹を怯ませただけだったが、ほぼ同時に走り出していた私たちは、その横を擦り抜けるのに成功した。


 「右手のビルに入れないか? 」


 僅かに先行したアキラが、進行方向右手に見えた雑居ビルのガラスドアを叩いたが、鍵が掛かっているらしく、直ぐにダメだと首を振った。

 左手にもビルはあるが、こちらはシャッターが下りている。


 「危ない! 後ろに来てるぞ! 」


 「気をつけて! 」


 頭上から幾つかの声がした。

 確認する余裕は無かったが、雑居ビルに立て籠もっている者たちが上階の窓から私たちを見下ろして、警告を発してくれているのだろう。

 だからと言って、1階のドアは誰も開けてはくれない。

 それで正解である。

 ギガマウスに雪崩れ込まれたら、立て籠もっている全員の命が危うい。

 こちらは声を出してくれるだけでも十分に有難かった。

 ギガマウスたちが、届くはずの無い高さにいる獲物に向かって気を取られるから、こちらに向かってくる数が多少は減ってくれる。


 結局、逃げ込めるところが見つからないまま、甲州街道まで出た。

 街道沿いには、警察官や消防隊員も含めて人の姿は見えず、私たちが堤防の上にいた時に聴こえてきていたギガマウスたちの第一波によって荒らされたらしい街の惨状がそのまま残されていた。

 付近のマンションの上層階の窓ではチラチラと動く人影が見るので、生き残って自宅避難中の人数はソコソコいるらしい。

 だが、殆どの建物の低い階はギガマウスの襲撃を受けているようで、不動産屋、煙草屋、飲食店など、路面店は尽く破壊された跡が見られた。

 交通事故も多かったようで、車同士の追突、ガードを突き破って歩道に乗り上げた車、店舗のシャッターに突っ込んでいる車、事故に巻き込まれたギガマウスの死骸もちらほら見える。

 どの事故も処理などされておらず放置されていたが、一帯に放水の跡があるので火事の心配は無さそうである。

 どうやら、第一波のギガマウス襲撃が去ってから、警察や消防は多摩川と住宅街の間にバリケードを設ける作業を最優先したため、この辺の後始末に割く人員は無かったと見える。


 「このまま、真っ直ぐ走っても隠れられそうなとこなんて無いから、右に曲がって駅前をめざそう! 」


 この時既に、全てのバリケードは突破されてしまっていたようで、甲州街道沿いに見える日野市街地では、ギガマウスの白い姿が彼方此方に散らばって見えていた。

 多少の数の差はあれ、ギガマウスは四方にいる。

 どの方角なら安全か? という判断基準は完全に失われていた。

 私は充てが無いままアキラを先行させ、時々振り返っては間近に迫った数体のギガマウスに対して、逃げる途中の店舗の前で抜き取った2本の宅配便の幟を武器にして応戦していた。


 (凶暴な割には貧弱な奴らめ! )


 ギガマウスは数の暴力で攻め寄せてくるだけが身上のようで、その柔かい体表はステンレス製の幟のポールが容易に突き刺さるし、何処が急所か分からないので滅多刺しにしていれば意外と簡単に絶命してくれた。

 ちなみに先ほどママチャリの直撃をくれてやった個体は、衝撃で頭部が千切れ飛んでいたほどに脆かった。

 だが、数の多さには敵わない。

 どんなに戦ってもキリが無い。

 さすがに、これ以上戦いながら走り続けるのは25歳の体力でも厳しい。

 アキラは、そろそろ限界である。


 「アキラ! 右! 」


 雑居ビルと雑居ビルの隙間に金属製の格子戸があって、その向こうに非常階段が見える!

 あても無く走り続けているよりは、非常階段に上って応戦する方が多少はマシに思えた。

 途中の階でビルの中に入れる可能性もある。


 「鍵開いてます! 」


 高さ2メートルほどの格子戸は、回転式のフックが掛かっているだけで錠の類いは付いていない。


 「良いぞ! 中入って! 」


 アキラが格子の隙間から手を突っ込んでフックを外し、そのまま二人してビルの隙間の中へ転げ込んだ。

 数体のギガマウスが後を追って中へ入ろうとしてきたので、半分折れかけた幟のポールで必死に突きまくる。

 その間に、アキラが外開きの格子戸を引っ張って閉じようとする。

 いつの間にか、2本持っていたポールの1本が大きく曲がって使い物にならなくなり、もう1本もギガマウスの一体に突き刺さったまま手から離れてしまった。

 全身疲労困憊で握力もかなり弱っているようだ。


 「キャーッ! 」


 アキラが悲鳴をあげた。

 非力なアキラが必死で奮戦してくれたおかげで格子戸は閉じられ、あとは回転式フックを掛ければ良いだけになっていたのだが、その寸前で格子の隙間からはみ出したスタジャンの裾をギガマウスに食いつかれてしまった。

 ギガマウスの身体構造は貧弱だが、力は強い。

 人間を食いちぎるぐらいなので顎の力も相当なモノである。

 そんな化物力でスタジャンを引っ張られたので、アキラは格子戸に張り付けられて身動きが取れなくなった。

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