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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1990年に時間遡行した私が、初めに巻き込まれた事件と出会いのお話
18/82

1990年11月27日、火曜日 20:05~

 (あの未来人め! 次に会ったらただじゃおかないぞ! )


 次に会うことなど無いはずだったが、そうでも思わないと、この不条理に対する怒りのぶつけどころが無い。


 (なんてこった! )


 ギガマウスが目撃された海難事故では、船内に大量の血痕と人間の身体の一部が散乱していたというが、今正にその惨状が目の前に出来上がりつつある。

 車内は人間の血液や内臓、体内から零れ出た汚物の臭いで溢れかえり、吐き気と眩暈で気が変になりそうだった。

 私の下にいた少年も辛かったのだろう、怖いもの見たさというのもあっただろうが、私の腕の隙間から辺りを見てようと顔を上げそうになった。


 「見ちゃだめだ! 」


 これ以上ボリュームを絞れないほどの小声で制止したが、なんとか伝わったようで、少年の動きが止まった。


 (こんな惨状、子どもが見ちゃいかん。)


 見てしまったら、絶対にトラウマになる。

 こっちは大人だが、この場を何とか無事に切り抜けられたとしても、一生悪夢に悩まされるであろうことは間違いない。

 日本で普通に生活していたら絶対に見るはずの無い地獄絵図の中で、恐怖に震える身体は音を立てないようにするだけで精一杯。

 とにかく、悲鳴や泣き声は絶対に出さないようと、顎が壊れそうなほど強く奥歯を食いしばり必死で耐えた。

 音を立てず、動かないようにしていれば、この場は切り抜けられる。

 初めて遭遇した化物たちの生態なんて知るはずもなく、これは一種の閃き、根拠の無い勘に従っての行動なわけだが、これが最善策であるということを私は確信していた。

 実際に、私と少年は未だ襲われずに済んでいる。

 化物たちは手の届くほど近い距離を何度も通り過ぎて行ったし、二、三度ぶつかってもいたが、全くこちらの存在に気付いた様子は無い。

 どうして確信できたかなどは、助かったら改めて考えれば良い。


 (それに、この化物は、もう直ぐ車内から出ていくし。)


 これも勘。

 化物たちが立ち去った後の車内の風景が頭を掠めるのである。

 間もなくして、


 ヴォーッ! 


 電車をビリビリと振動させるほどの重低音が轟いた。

 音の出何処は分からないが、割れた窓の外から聴こえていたことだけは確かだった。

 それまで、乗客の遺体に群がっていた化物たちが、一斉に移動を始めた。

 決して素早い動きでは無かったが、僅か1分ほどしたら一匹残らず車外に出て行ってしまっていた。

 まるで、集合の合図が掛けられた兵隊のようであった。


 (今のは何だったんだ? )


 化物の気配が無くなってからも直ぐには動かずじっとしていたが、このままでいるわけにもいかないので、意を決して動き出すことにした。

 ゆっくりと身体を起こし、下になっていた少年の肩を持って身体を起こしてやる。


 「大丈夫? 怪我無い? 」


 少年が頷きながら車内を見回そうとするので、


 「見ない方が良い。」


 と、注意した。

 車内全域が地獄絵図なので、全く見るなと言っても無理なのだが、それでも凝視してしまうよりは意識的に目を背けていた方が良い。


 「ちょっと、ここで待ってて。」


 そう言って、私は少年をこの場に座らせたまま、自分は車内の様子を見て回り、他に生存者がいるかを確かめようとしたのだが、


 「一緒に行く。」


 少年が私のジャケットの裾を握っていた。

 この異常な状況にあっても泣き出さず、こちらの指示に黙って従うような気丈さをもった子どもなのだと思っていたが、怖くないわけではないようだ。

 たとえ、一刻であっても一人にされるのは嫌だと訴えているようである。


 「んじゃ、静かについてきな。姿勢を低くしたままだぞ。」


 私たちは中腰になって移動を始めた。

 本当は四つん這いになりたかったのだが、床にはガラスの破片が散乱しているので素手をつくわけにはいかなかったし、暗くてよく見えないが大量の血と肉片が転がっているはずなので、できれば触れたくないと思った。


 (生存者は無し、だな。)


 自分が乗っていた車両だけだが、端から端まで見て歩き、生きている乗客は見つけられなかった。

というよりも、人の形を保っていた者は一人もいなかった。


 (正しく、ギガマウスだな。)


 これまで私が目にしたネットロアで語られていた、“ギガマウス”、“口だけ蛇”、どちらでも良いが、その被害にあった惨状を実際に目にすることになるとは、それも1990年で当事者になるとは思いもしなかった。


 (さて、これからどうしよう? )


 男に託された依頼を思い出した。


 (37年前の私がいる場所に大事な人物がいるから、助けてやれってか? )


 何から助ければ良いのかは十分過ぎるほどに分かったが、誰を助ければ良いのかが分からないままで、


 (みんな死んじゃいましたよ。)


 で、依頼達成ならず。

 決して自分の意志ではなかったが、わざわざ1990年までやってきて、何の成果も無しとは、流石にやり切れない。


 (もっと、詳細な情報をくれさえすれば、他に対処のしようがあっただろうに。)


 だが、あんな化物集団を相手に、どんな対処ができるかはさっぱりだし、事前に聞いていたら全力で拒否していただろうから、言うわけにはいかなかったのかも知れない。

 深く溜息を吐きながら、車両の進行方向右側で未だ原型を留めているドアにしゃがんだままの姿勢で背をもたれた。

 そんな私の隣で、同じくしゃがんで溜息を吐きながらドアにもたれる少年。

 その姿を何の気なしに眺めていたら、とある可能性に思い至った。


 (案外、この子だったりして? )


 確率は高くないが、可能性がゼロではない。

 乗りかかった船ということもあるし、この少年を全力で守るというのは年長者として正しい態度だし、この場を切り抜けるための行動をする際の指針ともなる。


 (もう他にできること無いし。)


 そう決めて、まずはコミュニケーションからと思ったのだが、日頃18歳以上の大学生とは、それなりに会話を進めることができていても、接する機会の殆ど無い小学生相手となると、何を話して良いやら、何を考えているやら全く分からない。

 そこで、まずは基本中の基本から、

 

 「君、名前は? 」


 名前を聞くこと自体に大した意味は無いのだが、会話の切っ掛けだけではなく、自分が1990年で誰を助けたのか憶えておかないと後々困るかもしれないので、一応名前ぐらい聞いておくべきだろうと思った。

 私の問い掛けに、少年は口を開いたが、


 「人に名前を聞くときは・・・ 」


 「ハイハイ、自分から名乗れってね。」


 思わず、マンガやドラマなどで初対面同士が良くやる定番の会話をしてしまった。

 現実に、そんな切り返しをしてくる子供がいるとは思わなかった。

 けっこう面倒臭いやつかもしれない。


 「俺は阿頼耶識あらやしき みのる。名字で呼ぶと長くて呼び辛いから、ミノルとか、アラさんとかで良いよ。友だちは、みんな、そう呼んでるし。」


 なんとなく一人称を私ではなく、俺にした。

 25歳で一人称が私というのも変な気がして、若い頃はそうしていたのを思い出して使ってみたのだが、多少の違和感を感じる。

 まあ、我慢して使っていれば、そのうちに馴染むだろう。

 それと、私をミノルとか、アラさんと呼んでいたのは、過去に付き合っていた女性か、大学の教え子たちであり、そんな親し気な呼び方をする友人など、2027年にはいなかった。

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