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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1990年に時間遡行した私が、初めに巻き込まれた事件と出会いのお話
14/82

2027年11月26日、金曜日 19:00~

 「ところで、ここにあるシステムは、その某国で完成したシステムじゃないんだろ? これと同じようなモノが、もう一つあるってことか? 」


 『同じモノではない。某国で完成したシステムはね、私のモノと同じ理論を基にしているけれど、切り口と結果は全く違うモノになったんだ。

 今、某国で稼働しているシステムは、Time transfer device とでも言うべき、とんでもない代物だよ。』


 Time transfer device 、そのまま日本語に訳すと時間転送装置になるが。


 『まさか、時間を超えて人や物を送れるってのか? 』


 それならば、某国にあるモノは正しくタイムマシンということになる。


 『所謂、タイムマシンには至っていない。送れるデータ容量と送った先での再構築能力に限界があるんだよ。ここのシステムよりは大きな送信容量を持っているようだが、例えば人間は送れなかったらしい。』


 タイムマシンという名称の定義条件が、人を送れるということだとしたら、確かにそれはタイムマシン未満ということになるわけだが、それを某国では人体実験で確かめたということなのか?


 『これまでに我々が入手した情報によると、人体実験は行われている。』


 そう男は言い切った。

 主語を我々としたからには、組織だった情報収集を行った結果という意味なのだろう。

 いったい何処の何という組織が関与しているのか、絶対に知りたくない。

 半年の余命を静かに平和で過ごしたいのに、世界的な陰謀や事件になどに巻き込まれたくはない。


 『人体実験の結果についてだが、不完全なデータ送信、送信先での誤った再構築。被験者がどうなったかは、何となく分かるだろ? 』


 「分かった。もう良いわ。」


 それ以上、言われなくとも十分だった。

 ついつい想像してしまったので、十分に気分が悪くなった。


 『人間以外にも様々な動物実験が行われたようだが、脊椎動物の全てで失敗しているようだ。成功したのは両生類や魚類の幼生体と昆虫の一部だけ。植物ではシダ類やコケ類の一部で成功。藻類や菌類も成功しているようだ。』


 「複雑な構造を持つモノは送れないということか? 」


 『そうだね。精密な構造を持つ機械もダメらしい。送れたとしても再構築できないんだろうな。例えば兵器については刃物や鈍器、爆薬のように仕様が単純なモノなら送れるモノがあるらしいが、近代兵器はもちろん無理。砲弾なんかは炸薬と発射火薬が再構築時に混在してしまって意味を為さなくなったという記録を読んだ。』


 だが、そういう技術的な問題ならば、時間を掛けさえすれば、いずれは改善されるのではないだろうか?


 『米国、中国、ロシア、EUや日本とか、大国でならば可能だろうけど、某国の技術力と設備じゃ限界があるのさ。おそらく、今以上の完成度には成りようが無い。』


 ここまでの話を聞くに、随分と不完全なタイムマシンらしい。

 だが、そんな不完全なタイムマシンでも、人類の脅威には成り得ると男は言う。


 『現状でも、過去と情報通信しかできない私のシステムよりは、遥かに直接的な干渉ができる。過去に置き石するには十分な機能を有しているということだ。』


 確かに、過去に送るモノが何かによっては、核兵器どころではない大量破壊、大量殺戮も可能だろう。


 「過去に化学兵器や細菌兵器を送るとか? 」


 さすがに、それは無いだろうと男は言った。


 『某国の目的は過去を自分たちの都合の良いように書き換えることさ。人類滅亡じゃない。化学兵器や細菌兵器を使ったら、彼らの祖先たちの生存も危なくなるだろう。そんな危ないことをしなくても、過去の要所々々でテロを働くだけで良い。邪魔な人間を排除し、未来に関わるような出来事には妨害をする。』


 そんなようなネタを扱って、世界的に大ヒットしたSF映画のシリーズが思い出された。

 ついでに、頭の中で、その映画のオープニングテーマのイントロが鳴り始めていた。

 よって、これを理解するのは特に難しくなかった。

 一旦理解してみると、男が使った置き石という例えは言い得ている。

 時間の線路上に石を置いて列車の遅延やコースの変更を図れば良い。

 未来を都合よく変えるのに列車を破壊する必要は無い。


 『都合の悪い現状について、その因果関係を過去に辿って、置き石をすべき要所を見つけて、そこに本来あってはならないモノを置く。それで現状は書き換わるのさ。』


 その通りだと思うが、送れる容量が限定される某国のシステムでは、何を送れば過去に干渉できるのか、その戦術がかなり限定されてしまいそうな気がするが?


 『その問題は、別のテクノロジーによって解決されたよ。』


 「別のテクノロジー? 」


 『 “何を送れば用が足りるか?” ではなく、用が足りていて、尚且つ送ることが可能なモノを作ったということなんだが。』


 それまで、けっこうスラスラと未来のテクノロジーについて語っていた男の口が、この件に関してはやや言い辛そうであった。


 「作ったって何を? 」


 と、聞いたが、

 

 『限られた情報量で構造的に再構築が容易なモノ。』


 具体的に何を作ったのかは言おうとしない。

 それでも、やはり気になるので、


 「機械? それとも生き物? 」


 それぐらいは答えてくれるかと思ったのだが、


 『残念ながら、それは言えないんだ。それを君に伝えることで影響を受ける未来もあるんだよね。』


 なんとなく未来人らしいことを言う。


 『未来を変えてしまう切っ掛けは其処彼処にあるんだよ。この件について、君が知る場合と知らない場合では、別の未来が生じてしまう。』


 だから、答えられないと言う。

 釈然としないが、それ以上聞いても無駄ということは分かった。

 知りたい気持ちを自制することはできても、不満は抑えきれそうにないと思った。


 『話は、こいつに移ろうか。』


 男が光学繊維の柱を、軽く二、三度叩いた。

 拳で撃った時にもチラっと思ったが、これが機械の一種だとしたら、衝撃は拙いのではないだろうか?


 『君たちの時代の精密機械のように軟弱な作りはしてないよ。』


 そう言いながら男は、今度は少し強め、鈍い音がするくらいに叩いた。

 自分の発明にも関わらず、「このシステムに好意を持っていないのだ」ということをハッキリと示そうとしている行為のように見えた。


 『某国が、Time transfer device を完成させ、実用を開始したことを最初に掴んだのは、当然のことだが米国や中国を始めとする各国の対外情報機関だった。

 だが、掴んだ時には既に、過去は幾度かの干渉を受けた後だったらしい。

 それがどのような干渉だったのか、変わってしまった結果を受け取るしかない我々には知る由もない。

 しかし、その時点で各国が事の重大さを知り、某国の野望を阻止する動きに出たということは、某国が未だ自らに都合の良い世界改変を完成させていないという証でもある。

 だから、未だ間に合う! ということで、このシステム、Time communication device とでも名付けるべきなのかな、某国の野望に対抗するため、米、中、ロ、EU、日本、その他諸々の国が出資して、私の理論を実現させたものなのさ。』


 なるほど合点がいった。

 そういう柵によって、不本意だが作らざるを得なかったということなら男に罪はない。

 但し、本人が抱え込む自責の念は別物だと思う。

 Time communication device に好意が持てない気持ちは分かる。


 「それにしても、過去に物を送れる装置に、通信機で対抗できるものなのか? 」


 素人意見だが、Time communication device に対する尤もな疑問であろう。

 既に始まっているらしいDevice戦争では、明らかにこちら側の分が悪そうだと思うが、


 『できるさ。実際に君が動いてるじゃないか。』


 男は自信を持って言い切った。


 (よく言うよ。)


 私は心の中で舌打ちした。

 今朝の騒動については、声だけとはいえ不法侵入だし、今のこの状況は、殆ど拉致られて監禁されているようなものである。


 「こんなの効率悪過ぎだろ。突然、声やら立体映像やらで話しかけられても普通の人なら、幽霊の仕業か、自分の正気を疑って終わりだぞ。」


 『でも、そうはならなかっただろ? 君が警戒心を抱かないような工夫もしたはずだ。』


 そう言えば、とんでもなく異常な事態に遭遇したにしては、朝夕共に慌てず騒がず冷静に対処している自分を奇妙に感じていたが?


 「私の感情を操作したのか? 未来じゃそんなこともできるのか? っていうか、許されてるのか? 」


 心を操作されるなんて、あまり気分の良い話じゃない。

 要はマインドコントロールの類いではないか。


 『話をスムーズに進めるには、やむを得なかったんでね。』


 男は一応の謝罪をしたが、これについて大して意に介すつもりは無さそうだった。

 私は、やれやれと一つ大きな溜息をついてから、そろそろ話を最終段階に進めて欲しい旨を伝えた。


 「ここまでの話は理解した。未だ完全に信じちゃいないけどね。で、そろそろ話してもらえないか? 君は私に何をさせたいんだ? 」


 60歳を過ぎた老大学教授(美術・デザイン系)にできることなど限られているので、どうせ大した依頼ではないだろうと思っていた。

 どうにも信じ切れていないが、長々とした話の末、未来人が私に頼みごとがあると言うのなら、


 (引き受けてやらないでもないぞ。)


 ぐらいの気持ちになってきてもいた。

 それに、もしかしたら半年後、冥途の土産に持っていけそうなネタになるかもしれないと、そんな軽々しい雰囲気になりかけていた私だったが、次に男が語った依頼内容により想像もしなかった深刻な状況に立たされてしまった。

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