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癌で余命宣告された私が時を遡って、美少女を助けたり、仲間と一緒に怪獣と戦ったりするお話 ~ RETROACTIVE 1990  作者: TA-MA41式
1990年に時間遡行した私が、初めに巻き込まれた事件と出会いのお話
11/82

2027年11月26日、金曜日 17:30~ 

 『人の成長とは、自らの可能性を縮小し、限定していく過程のことだは思わない? 』


 それは随分後ろ向きな意見だと思う。

 そんなこと間違っても学生相手には言えない。


 「確かにそうかもしれないけど、それを言葉にしたら悲しすぎるんじゃないか?」


 軽く窘めただけのつもりだが、


 『でも、それが正しい理解の仕方だと思うよ。』


 意外に頑固な言葉が返ってきたので、少しムキになって言い返した。


 「可能性を狭めていくんじゃなくてさ、経験を重ねながら自分の適性を探って、歩む道を厳選していくと考えた方が前向きだと思うんだけど。」


 『その言い方を変えれば、何度も挫折を繰り返し、諦めながら歩むべき選択肢を少なくしていく者だっているということだろう。』


 「いやいや、そうじゃないって。様々なことに挑むことで、それまで知らなかった新しい選択肢が見えてくると考えなきゃ。」


 些か建前論っぽくて恥ずかしいが、長く教育者などやってると、こういうことがサラッと言えたりするようになる。


 『ふふっ、なるほどね。それも正しい見方だと言っておこう。ところで、君自身は、そんな生き方をしてきたのか? 』


 「え? 私? 」


 答えに詰まって顔を挙げると、ブランコの真正面に見える柳の木に重なった夕陽の木漏れ日に目を射された。

 コーヒーと歌舞伎揚げで両手が塞がっているので陽を遮ることができず、私は目を細めながら視線を右に反らした。

 すると、そこには、いつの間にか、私が座っていた2連ブランコの右隣に一人の男性が腰を掛けていた。


 (私は、この男と会話していたのか? )


 いつの間にやってきたのか、全く気付かなかった。

 気付かずに、会話の相手が誰なのかも分からないまま、確認しようともせず、極自然に言葉を交わしていた。

 私はコミュ症ではないが、けっこう人見知りをする方なので、人と馴染むのに時間が掛かり、初対面の相手と会話がスムーズに運ぶなんてことは滅多にない。

 それなのに、多少驚いたぐらいで、警戒心を持つとかは一切無く、当り前のように男との会話を受け入れていること、我ながら奇妙に思えていた。

 これらの点について、今朝の研究室で遭遇した出来事に対したときも似たような感じだったのだが、今回は相手の姿があって、穏やかな会話から始まったので、一方的な問い掛けで感情が乱された朝の出来事などと違い、受け入れやすくはあったのだと思う。

 まあ、そう考えておくしかないだろう。

 ちなみに、その男は一見して、街中を歩けば普通に見掛ける中堅どころのサラリーマンのようで、品の良いグレーのスーツに、白いワイシャツ、紺色のネクタイ、キレイに磨かれたエッグトゥの革靴という装いで、ブランコに足を揃えて行儀よく腰掛け、膝の上には黒のブリーフケースを抱えていた。

 何となく違和感を覚えたのは、すぐ隣に座っているにも関わらず男の顔が良く見えなかったこと。

 身体の他の部分は、ハッキリと見えていたのに、男の顔だけが霞が掛かったようにボンヤリとしか見えていなかった。

 西日に目をやられたせいだろうと思っていたので、この時は大して気にもしなかったのだが、そんなことよりも、


 「私に何か大事なお願いがあって来たんだろう? 」


 テレパシーとかじゃなく、直感のような曖昧な感じだが、その男の考えていることが何となく伝わってきたような気がして、そう返してやるべきだろうと思った。

 どうやら、それで当たりだったらしい。

 ボヤけて表情は見えてはいないが、男が微かに微笑んでいるのを感じた。

 そして、唐突に、


 『我々の未来を助けて欲しい。』


 そんな、“お願い” とやらを口にした。

 未来とは、ずいぶん大きく、しかも漠然とした話である。


 「良く分からんけどさ、君たちの未来なんて、そんなの私には何のことやらさっぱりなんだが? 」


 あまり面倒なことには関わりたいとは思わないので、返事をしながら、ついでに「私には無理なんじゃないか? 」とも付け加えておいた。

 すると男はブランコから立ち上がり、二、三歩前に踏み出してズボンについた埃を軽く叩いて払いながら、


 『いや、君でなければ無理なのさ。』


 そう言い切ってから、私に背を向けたままで語り始めた。


 『君はこれまで人生の中で、沢山の運命の分岐点を通過して今に至ったのだろうけれど、分岐した道のどれを選んだかに因って、自分だけではなく、他者の運命にも影響を及ぼしていたり、社会全体に大きな影響を及ぼしたことがあったかもなんて、振り返ってみたことはないかい? 』


 「いきなりだな。そんな哲学的なことは滅多に考えないぞ。」


 『直接的な影響とは限らないさ。例えば、君がブランコの左側に座ったことで、私は右側に座る。もし君が右側に座っていたなら、私は左側に座ることになった。さらには、それが発端になって、後々もっと大きな展開が私に起こるかもしれないだろう。小さな切っ掛けが因果関係で大きな結果と繋がる、所謂バタフライエフェクトってやつさ。』


 (バタフライエフェクトって、 “南米でチョウが羽ばたくと北米で嵐が起こる” とかいう話だったっけ。 “風が吹けば桶屋が儲かる” と同じだな。)


 だが、チョウと嵐の間にある因果関係は膨大過ぎて辿りようが無く、チョウには自分が嵐を起こしたなんて自覚は持ちようが無いだろう。

 その点について、男は「確かに」と頷いた。


 『でも、これは理解して欲しいな。君がブランコの左に座ったことによって生じる未来と、右に座ったことで生じる未来は全く別物になるだろうってこと。これが正しく分岐点というヤツだよ。』


 「今度は、“分岐する時間” ってやつ? 」


 分岐した分だけ無数の世界が同時進行しているという仮説、パラレルワールド系のSFでは使い古されたネタであり、今どきのアニメやマンガ、ラノベでも、ご都合主義な設定として重宝されているが、


 『そうか、そう言えば君は、所謂オタクという種類の人間だったっけ。』


 それは確かにその通りなのだが、今日初めて会った男に推測だけで言われる筋合いのことではない。


 「君は、いきなり失礼だな。現代カルチャーは私の専門研究分野でもあるんだよ。オタクなんて軽々しく括らないで欲しいんだが。」


 そう反発しつつ、自分は初対面の人間に指摘されるほどオタクっぽく見えるのだろうか? と、軽いショックを受けていたりする。

 男はオタクに関して、それ以上言及することなく、私の反発もスルーした。

 おそらく、気づかいではなく、オタク云々で、話を脇道に反らしたくなかったのだろう。


 『残念ながら “分岐する時間” というのは、あくまでフィクションの話だよ。実際のところ、時間は一つしかない。パラレルワールドなんて存在しない。ニュートン力学で言う、過去から未来へ無限に続く1本の道だけなんだよ。

 その道を先へ進めば分岐は無数に発生するけれど、選ばれなかった道は決して発生したりしない。消えてなくなるだけ。同時進行する複数の世界なんてものは存在しやしない。

 分岐を通り過ぎた後に別の可能性があったかもしれないという推測が生まれるだけさ。』


 正直に言って、私は男に、ちっとも面白くない話を随分熱心に語る奴だなと些か呆れ始めていた。

 だから、ついつい否定意見を述べたくなるし、話に水を差したくなる。


 「そうは言うけど、別の道が発生しているかどうかなんて認識できないじゃない。」


 そもそも3次元世界に住む我々には時間の進み方を俯瞰で捉えることができないわけなので、どうやっても証明しようのないことなのだと思うが。


 『それを証明するのが私の専門でね。』


 「専門? 」


 『時間の構造を研究し、過去から現在までの直線上にある分岐を解析し、それを基に未来を予測する。それが私の仕事だよ。』


 そう言われて、真っ先に頭を過ったのは、占いや新興宗教の類い。

 唐突に現れて、親し気に接してきたと思ったら、運命の分岐だのバタフライエフェクトだのと、こちらの気を引くような話をしながら、実のところは勧誘目的ではないのか? と、私が男に胡乱な目を向けたのも当然であろう。

 男は背中を向けているにも関わらず、私の疑念を敏感に感じ取ったらしい。


 『今、新興宗教の勧誘じゃないかって思っただろ? 違うよ、私はこれでも理論物理学をやってる人間だから。』


 と、即座に訂正してきた。


 「はあ? 理系の人。ホントに? 」


 私のステレオタイプな見方によると、理系人とは難解な専門用語を多用し、何でもかんでもロジカルに纏めてしまう、堅苦しい人種というイメージである。

 これまでの、この男の話しぶりからは、それがあまり見えず、どちらかと言えば、哲学や心理学が専門だと言われた方が未だ納得できる。


 『それはねぇ、難しい専門用語を交えた話だと君に理解してもらえないだろうから、できるだけ分かりやすく、イメージで捉えられそうな話にしなきゃって、努力しているからだよ。』


 この男、先ほどのオタク発言に引き続いて、またもや失礼なことを言った。

 お互い初対面なのに、まるで既知の相手と話すように、言葉を選ばず、妙に馴れ馴れしく気安い態度で接してくる。

 私はイラっとしながら、

 

 「まあ、こっちはどうせ文系の人間だからさ、そうしてくれると、とっても有難いんだけどね。そろそろ、本題に入ってもらわないと、飽きてきちゃうんだけど。」


 と、嫌味を言ってやった。

 実際、男の話は前置きが長くて、そもそも本題が何なのか未だ一向に分からない。

 “プレゼンは、まず結論から”という、広告業界に入りたての頃から耳にタコができるほど聞かされてきたビジネスの鉄則を教えてやりたくなった。

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