13.それぞれの今②
シローの今。
シローは困っていた。
「シロー、お買い物に行きましょう」
ドス、ドス、ドス…。床が割れそうな足音。シローの雇い主、大商人フックの一人娘のカンナだ。
ハンナはシローの3倍くらいありそうな大巨漢だった。シローはカンナに気に入られている。それがシローの悩みの種だった。
「申し訳ありません。仕事がありますので」
「仕事って?何をするの?」
「ドラゴンの世話です」
「そうよ、シローはドラゴンを連れ帰ってきた英雄なのよね」
「というわけで、すみませんが買い物には…」
「買い物はいつでもいいわ、それよりもドラゴンよ」
「ドラゴンがどうかしましたか?」
「私もドラゴンに乗りたい)
「いえ、ずっと申し上げている通り危険ですので」
「気を付けるわよ」
「いえ…」
「私もドラゴンに乗って空を飛びたいのよ」
「では、フック様の許可を…」
「父上の許可があればいいのね。許可をもらってくるわ」
カンナは豪邸に入って行った。豪邸の庭に、ドラゴンの飼育スペースがある。
シローがドラゴンを連れて帰った時、フックは大喜びだった。運輸業務が格段に安全になるからだ。
ドラゴンは食費がかかる。フックはそれを惜しまない。ドラゴンを商売の“売り”にしている。
少しして、カンナはフックを連れて来た。
「フック様?」
「シロー、娘をドラゴンに乗せてやってくれ」
「よろしいんですか?」
「いいから、いいから」
「危なくはないですか?」
「いいから、いいから」
「わかりました」
僕はドラゴンに先に乗った。
「どうぞ」
カンナに手を伸ばした。重い。重すぎる。シローはドラゴンから転落しそうになった。
なんとかカンナがドラゴンの背に乗った。
「行きますよ」
ドラゴンが羽ばたいた。
飛行中、カンナはずっとキャーキャー騒いでいた。はしゃぐカンナを、シローは“うっとうしい”と思っていた。
早々に着陸した。
「もう終わり?」
「はい、これくらいにしておきましょう」
「じゃあ、また乗せてね」
「はい」
その晩の夕食、シローはフックの横に座らされた。ドラゴンを連れ帰ってから、横に座らされることが増えていた。
「なあ、シロー」
「はい」
「カンナをどう思っている?」
「雇い主であるフック様の大切なお嬢様だと思って接しておりますが」
「女性としてどうかを聞いているんだ、カンナはいい女だろう?」
「大切なお嬢様を女性としてみておりませんでしたので」
「女性として見てくれ。急ぎはしない。だが、カンナはシローのことを愛している。覚えておいてくれ」
シローはやり場の無い怒りに困った。
(なんでレンがソフィア様で俺はカンナなんだ?)
(なんでロウがエリザベス様で俺はカンナなんだ?)
(不公平じゃないのか?)
確かに給料はいい。ドラゴンを連れて帰ってから更に給料はアップした。
だが、シローは“軍隊に入ろうかなぁ”と迷っていた。
レンやロウやライは今頃どうしているのだろうか?
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