セカンド ファンタジー (第5章 第18話)
小話――独立の兆し 一五 邂逅する二人(下)
レイピアから受ける印象と、容姿からのそれとでは、まるで不釣り合いだ。
フビジが女に対する感想を、反芻するかのようにして思い返していると、階上にいた男が軽やかな足取りで、フィリップの横を通りすぎていった。
原型を、ろくに留めていない男の死体を見るにつき、彼は呆れるように肩をすくめた。表情が波面でわからないのは、ほかの者たちと同様である。
(……。これ、一応お忍びなんですけど~。こんなにしちゃって~、まあ。……うちの姫様って、その辺のところ~、ちゃんとわかってくれているんすかね~)
その立ち振る舞いに、怪しさを感じ取ったフビジは、男の手がかりを得ようと顔を凝視したが、水面の波が大きくなるばかりで、ついには輪郭さえもわからなくなった。
「……」
フビジの視線に気がついた男もまた、歩くのをやめて彼女を見返すが、やがては興味を失ったように、再び戸口を目指す。
(仮面の女剣士……。なんか、聞き覚えがあるよ~な。……まさか~ね)
そうして建物の外から、女の叱りつけるような声が聞こえて来ると、男は慌てて駆けだしていった。だが、肝心の女もまた、四人目の対応に苦難していた。フビジに愛想よくふるまったことが、大層気に入らないらしかったのである。
『アンジェリカ様! 何なのですか、さっきのアレは!』
『そう向きになるな』
『ひどいです……あんまりです。あんなことは、あたくしにだってしてくださらないというのに……おろおろ。悲しくて泣いてしまいます、しくしく』
『……。わかった、今度してやる。だから、何度も耳元で叫ぶな』
『わかりました! 約束ですからねっ』
姿の見えない女との会話は、当然ながらドウキョウには伝わらない。これはアンジェリカの魔法ではなく、ペルフィナのものである。
ようやくのことで政治の館から出た男は、遅れて憤っているだろうアンジェリカに対し、へこへこと何度も頭をさげた。
「すいませんね~、待たせちまって」
「かまわん。次は貴様の首を飛ばす」
「……ちょっと、姫様~。全然、笑えませんよ~?」
冗談とも本気ともつかない、アンジェリカの返事に、頬を引きつらせた男は、話題を変えようと、思い出したように手を鳴らした。それは、フビジの仮面を見たがゆえに、想起した内容だった。
「そういえば姫様~、この前の戦いでは、面白い人物を見かけましたよ~。俺の炎に耐えた老将がいたんですわ~」
だが、男の期待とは違って、アンジェリカの反応はいたく連れない。いかにも興味なさそうに、鼻で軽く笑っただけだった。
「ふっ。ゼルフーロ、お前また手を抜いたのか」
「嫌だな~、勘弁してくださいよ。ちゃんと、全力でやりましたって~」
「ほう……それはすごいな。名はなんだ? 連れて帰ろう」
「……ああっと、わかりませんね~」
ゼルフーロがそう言うと、途端に関心を失ったようで、アンジェリカは、またいつものような能面に似た表情を、水面の下に浮かべた。それを見るにつき、慌ててゼルフーロが言葉をつなぐ。
「そ、そういえば~、なんでマルゴディーの旦那に、ルフランの話をしなかったんです? 相手のアジトにも目星をつけているからこそ、うちらがこうして出張って来たんでしょう~? 元々、そのつもりだったんじゃないんですか~い?」
「……少し気になることがあってな。……ルフランであることは、いずれ向こうも気がつく。さすれば、遅かれ早かれ、本拠地は自力で見つけるだろう。あるいは、我が正式な使者として訪れる時の、ついででもかまわん。その前に、確認したいことがある」
『ペルフィナ、いるか?』
『はい、お側に。なんでございましょう?』
『今から指示する場所へ行って、少し様子を探って来い。戦いは無用だ。事情を知りたい。……どうにも、我の計画を逆用した者がいるようだ』
『ッ!? まさか、そんなはずは……』
『そうでもなければ、この茶番に参加した民衆の数を、説明できぬさ。何者かは知らんが、面白い。我を出し抜くとはな……。行って、確認するのだ』
『承りました。でも、アンジェリカ様? 約束の件は忘れないでくださいねっ』
『……早く行け』
頭痛の種であるかのように、アンジェリカはこめかみを軽く押さえた。
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