セカンド ファンタジー (第5章 第12話)
小話――独立の兆し 九 からめ手と、奇妙な予感
迫り来る無数の暴徒に動じることなく、冷静に身構えたフビジであったが、途端に猛烈な白銀の光が彼女を襲った。
銀世界。
とてもではないが、目を開けていられない。これは魔法だ。発言からして、先ほどの男によるものに違いない。
(狙いはこれか!)
どこからともなく襲って来る、殺意がこもったいくつもの得物たち。研ぎ澄まされたフビジの感覚は、かろうじて、急所への攻撃だけは教えてくれるが、されども血を流すことまでは止められない。生温かな体液が、いたるところで皮膚を這うようにして、ぽたぽたと滴り落ちていく。
まずい。
血を失いすぎている。このままでは、いずれ戦えなくなってしまうだろう。
「なっ――!」
今度は何事か。足を取られて身動きが利かないではないか。
(流砂……。土の魔法か!)
おそらく、直前の目くらましは、流砂に気がつかせないための布石であろう。この男、ふざけた格好のために油断していたが、見立て以上に厄介な相手である。自分たちに数の有利があると見るや、それを存分に使って来ているのだ。卑怯だとは決して言わせない。そんな覚悟のこもった戦術であった。
万事休す。
ことここに至っては、フビジにはなす術がない。斬鉄波の余力こそあるが、それをここで使ってしまってはリーダーを倒すスタミナが完全になくなる。
一人で逸ったことを悔やんだ刹那――声がした。
「お姉さま!」
間違いない。あれはマリーだ。仲間が助けに来てくれたのだ。
こうなれば話は変わる。多少の無理をしても、平気であろう。力任せに剣を振るって、フビジは前方を指し示す。
「私のことはいい! リーダーの男を殺せ!」
その命令に応じるかのようにして、そばまで近寄って来た足音の主が、必死に砂を切り崩しているのがわかる。
「ギルバートか!? すまない。だが、指揮官をやれ」
だが、返ってきた声音は、困惑と呼ぶにふさわしいものであった。
「それは……どいつのことを指しているんですか?」
「何を言っている! あんなふざけた格好の奴を見落とすな!」
魔法の効果が切れたらしく、徐々にフビジの視界は戻って来る。いまだぼやけるその中で、フビジもまた決死に男の姿を探してみると、結果はギルバートの言うとおりであった。消えたかのように、あの男はそこからいなくなっていたのである。
(クソッ! やられた。着ているものを脱ぎ捨てたのだ! ……派手な飾りは、こちらに自分の姿を印象づけるための、巧妙な罠だったか!)
自分は一切直接的な戦闘には参加せず、徹底的に部下に攻撃させるという戦法。加えて、不利な状況と判断するやいなや、即座に逃げだすスタンス。とことんまでからめ手で、絶対に危険は冒さない。それらに対してフビジは、こたびの騒動とはまた違う、策略の気配を感じざるを得なかった。
「とにかく、無事でよかったです。ここは俺たちに任して、フビジ様は少し休んでいてください」
暴動はこれでおわりではない。本命は政治の館にあるのだろう。そうであるならば、今は失った体力を少しでも回復させるのが、指揮官としての賢い選択だ。
ケイジの言葉に、フビジはうなだれるようにしてうなずき、反乱軍を押し返していく部下らの背中を、悔しそうにただじっと眺めていた。
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