セカンド ファンタジー (第5章 第5話)
小話――独立の兆し 二 アンジェリカという女
大通りの中を三人組が歩いている。全員が同じようにひっそりと動いているので、おおかたは何か訳ありなのだろう。露店を楽しむような客の類には、とてもではないが見えない。一方で、その割には周囲への警戒を、ずいぶんと怠っているようにも見えるのだが、それは気のせいだ。一瞥しただけでは、不用心な歩き方であったとしても、それを一廉の武人が見れば、尋常ではない立ち振る舞いに、心底肝を冷やしたことだろう。
先頭に立って歩いているのは、彫刻のように美しい顔の女である。
返り血を浴びたかのような、深い紅色の髪。波打つソバージュも天然ものらしく、ナチュラルに均一でおろされている。だが、そのこだわりは彼女の意図に反し、機械のような公平さゆえに、かえって見る者に対し、神経質そうな印象を与えていた。ややもすると、無造作なヘアスタイルというものは、野性味を感じさせるはずだが、彼女の涼しげな目元のせいか、それはどこか異様なまでに凛々しく見える。
そんな彼女に従うように、ぴったりと後ろを歩いているのは、中年の男二人である。一人はいかにもといった、堅苦しそうな顔つきで、髪はすべて剃ってしまったのか、一本も生えてはおらず、代わりに中年とはとても思えないほどに、たくましくて健康的な肉体を有していた。
ひどく退屈そうに露店を冷かしているのが、もう一人の男である。せっかく、カッコいい顔をしているにもかかわらず、伸びっぱなしのぼさぼさとしたひげは、見る者に台無しという印象を与えるが、それこそが彼のこだわりなのだろう。やつれたような瞳に帯びた光は、何かを期待するようなものでは決してない。坊主の男とは対称的に、その体には余分な肉がつきすぎていたが、その動作一つ一つには、達人のそれが隠しきれていなかった。この男もまた、尋常ならざる使い手である。
ふと、彼らの前で、買い物をおえたばかりの子供が転んだ。かわいそうに、派手に転んだがため、買ったばかりのお菓子は地面に広がり、とても食べられる状態にない。
それを見て二人の男は、子の親を探すように辺りを見回したが、一方の先頭を歩く女は、それに一切の注意を払うことはなかった。文字どおり、彼女は見向きもしなかったのである。
「おい――」
ぞくりするとほどに、美しい声だった。
だが、そこに婦人特有の艶やかさなぞまるでない。およそ、温かさと呼べるものが欠落しているのだ。ただただ、一方的に畏まるだけの美しさであり、崇拝か、あるいは恐怖そのものである。
「――行くぞ」
振り返りもせずにいったいどうやって、二人が立ち止まったのを知ったというのか。彼女が声をかけると、慌てたように二人の男はまた歩きだした。
時刻は正午より少し手前。季節外れに、やたらと日差しの暑い日であった。
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