セカンド ファンタジー (第5章 第4話)
小話――独立の兆し 一 レイラの屋敷 貿易の館。
その日の夜、フビジは泊まった宿屋にて、フィリップから情報を受け取っていた。曰く、レイラが住んでいた屋敷は、人々から貿易の館と呼ばれており、やはり行けばそれとすぐにわかるほどに有名である、と。治安については、カルデア領というのもあって良好と言えたが、一方で不思議と、独立の機運が高まっているとも聞く。
「なるほどな……。ご苦労、助かったぞ」
「いえいえ、お役に立てたのでしたら幸いでございます」
「それからな、フィリップ。すまぬのだが、もう一つだけ頼まれてくれるか?」
「なんでしょう?」
奇妙な依頼にフィリップは眉をひそめた。ほかでもなく、フビジは彼に、ゼルフーロの調査を頼んだからである。
※
厩に馬を預けた一同は、プティー内を身軽に移動することができた。向かった先は、貿易の館がある南部である。行けばそれとすぐにわかるという、フィリップの言葉に嘘はなく、そこには無残な姿のままに保たれた、古めかしい屋敷があった。
ゆっくりと、フビジは緊張した面持ちで、焼け落ちた館へと視線を向けた。基礎の一部こそ残してはいるものの、あとのすべては失われてしまっている。この館こそ、フビジの母であるレイラが、幼年期を過ごした建物にほかならなかった。
「……」
みな、沈黙を保ったままで言葉を発さない。何かを話すような気分になれないのだ。概ね、それはフビジだけに限った話であったが、残りのメンバーも、彼女に気を遣って口を開くことはない。
この館が今のような有様となったのは、もうだいぶ昔の話だ。当時から、この国のシンボルだった館である。それなのに、修復される見込みがないというのも、一見するとおかしな話であったが、亡国の象徴――すなわち、負の遺産として心に刻みつけるため、このような形になったと、そういえば以前、レイラから教えられたようにも思う。
いったい、館の中はどのような状態なのだろう。母たちの面影がわかるようなものが、少しくらいは残っているのではあるまいか?
そう気になってフビジが踏み込もうとすれば、慌てたように、マリーがその背中へと声をかけるのだった。
「お、お姉さま。『危険だから、中には入らないように』と、そこの案内に書いてありましたよ」
「そう……そうか」
寂しさを感じながら、フビジは踏み出した足を、ゆっくりと元に戻していく。いくら、この国のためとはいえ、もはや母の思い出は、危ないものとして扱われる始末なのか。そのことに、フビジはもの悲しさを覚えずにいられない。
(だが、幸いにして、目に焼きつけることだけは叶った)
今はそれで十分だろう。
いつか、全てがおわったら、往年の姿に修復してあげよう。そんなことを、フビジはぼんやりと考えるのだった。
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