セカンド ファンタジー (第4章 第34話)
小話――東部戦線 了 小休止
左翼の中央で戦っていたテレサは、戦況の推移を知らない。それゆえ、戦がおわった直後から、ことのあらましをフビジにしつこく尋ねていた。
フビジもまた、手持無沙汰であったことは間違いない。みなの無事が確認できたからである。それゆえに、しばらくの間はテレサの好奇心に、自分も付き合っているのだった。
「ほな、結局クラッカーはだれが討ったん?」
「それはロベルト将軍だろう」
「なんで? 将軍は本陣におったんやろ?」
「……いや。おそらく、そこはもぬけの殻だったろう。ラインハルト隊長らの主力部隊を、最初から左翼に回した時点で、本陣を守るような力が残っていないことは、目に見えている。きっと将軍は、今回の餌として使った部隊に、自ら兵士として参加したんだと思うよ。そうして、右翼としてそのまま全軍に合流したんだ」
「なんで、そんなことができるん? そんなの、敵が誘いに乗って来なかったからこそ、通じる戦法やんか! 結果論やで」
「ああ、そうだな。だからこそ、将軍は敵が決戦をしかけるタイミング、それ自体を操ったのさ。手のひらの上で踊らされた時点で、ドルートは将軍の敵じゃなかったんだよ」
いまだなお、からくりにこだわるテレサを前に、フビジはすっかり元どおりに戻ったのだと、ようやく安心して笑みをこぼす。
フビジ自身もまた、どのような戦術を用いたのかということに、人並みの興味はあったのだが、おおかたの想像はついた。それゆえに、今の自分にはとても操れるものでないと、テレサほどのこだわりは持っていなかった。
(……これはあくまでも私の推測にすぎないが、ロベルト将軍は後退のルートを、意識的に操っていたのだろう。そうして、少しずつ左翼との連携を遅らせたのだ。こうすることで、敵には左翼側のミラー将軍を、狙えるのではないかという疑惑が生まれる。あとはその度合いをいじるだけだ。それは、こちらの連携を悪くすることで、容易に変えられる。敵の指揮官を前日に狙ったのも、落ち着く時間を与えないためだろう。策動の気配が、左翼にはなかったことから察するに、これはロベルト将軍の独断に違いない。ミラー将軍のところには、何の通達もいってはいないだろう。そんなことをすれば、敵に気取られる恐れがある。……つまり、将軍が手玉に取ったのは、ドルートだけじゃない。ミラー将軍もまた、図らずして総大将の駒だったのだ。ロベルト将軍は右翼を指揮するだけで、完ぺきに全軍を操ってみせた……尋常じゃない。これが本当に、七〇歳を超えた者のすることなのか? それでも……あの炎の魔法使いだけは、さしもの将軍も想定外だったに違いない。だというのに、こんな緻密な作戦をやり遂げてみせるのか。……悔しいが、この戦場に来てよかった。学ぶべきことはまだたくさんある)
この地にて、フビジはさらなる飛躍を遂げるのである。
※
この三日後、フビジはロベルトとの面会を許されたので、医療用の兵舎を訪れた。彼に戦果を報告し、総大将としての言葉を待つ。
「当然の結果だが、よくやった。私を失望させるな」
その言葉が、期待の裏返しであることに気がついたのは、ラインハルトと同様にフビジもまた、部屋をあとにしてからだった。
「……」
建物を見返しながら、その中にいる人物に向かって敬礼をする。なんとなく、そうしたい気分だった。その姿を見た別の兵士も感化されたようで、やはり建物に向かって敬礼をしていた。それはやがて、陣内を駆け巡って恒例のものとなり、いつしか時折見られる現象となった。それもロベルトが復帰するまでの、一時的な出来事にすぎなかったが、それを見るたびに、なぜだかフビジは誇らしい気分でいた。
ロベルトの期待はひょっとすると、自分が王の娘だからかもしれない。だが、それがなんだと言うのだ。その好意に応えられるように成長すれば、それですむ話ではないか。
「行こう……」
ケイジの容態も心配である。ただ、あの野生児の回復力は並ではない。加えて、マリーの手当てもあるのだ。二週間もすれば、元気な姿を見られるのではないか?
その一週間後、平然と歩くケイジの姿を目にし、フビジは度肝を抜かれることになったのだが、それはまた別の話である。
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