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【祝! 107000PV突破】ファースト ファンタジー  作者: 崔梨遙
第7章 セカンド ファンタジー フビジの冒険
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セカンド ファンタジー (第4章 第29話)

小話――東部戦線 二五 レッド


 領袖であるエクレア、その討ち死にという知らせを受けたレッドは、一目散にドルートの本陣へと舞い戻った。


 蜷局を巻く爪(グングニル)


 フィリップを目掛けて飛んでくる風の魔法を、かろうじて彼が避けられたのは、まだ敵が迫りきっていない段階で、技を使ったからにほかならない。でなければ、いかにフィリップといえども、初見でかわすことなぞかなわなかっただろう。双方の死体をざくざくと切り刻みながら、横へと抜けていく突風に対し、フィリップは頭をかばいながら、地に伏せて身を守る。とっさのことで、馬を見殺しにせざるを得なかったが、己が無傷であったことだけでも、十分に御の字であろう。


 その間を使って、レッドはフィリップに肉薄していた。馬上からフィリップを見下ろすやいなや、彼女は居丈高に叫ぶ。


「将軍を殺したのは貴様だな!」


 何かを思っての発言ではない。ただ、カルデアの兵と思わしき男が、目の前にいたので尋ねてみた。それだけである。


 しかし、単なる思いつきとはいえ、フィリップにしてみれば死活問題である。まともにやりあえば、自分が負けることは目に見えている。どうにかして、逃げ延びなければならない。


「……いいえ。さっき、大怪我をしたカルデア兵((ケイジ))を見たでしょう? 将軍を倒したのはあいつですよ」


「では、貴様はなにゆえこの場におるか!」


「もちろん、それは功労者を逃がすためです。あなたから見て憎い者ならば、我々どもからすれば、大活躍をした味方に違いありません。そんな者をみすみす殺されてしまっては、メンツというものが丸つぶれです」


「なるほど。あいわかった!」


 レッドもまた阿呆であった。だが、馬鹿だからといって弱いわけでないことは、すでにケイジが示している。長槍を持ちなおし、馬首を変えるやいなや、レッドはそれを弾くように投げた。


 ひゅん。


 すさまじい勢いである。


 風の魔法で放たれた槍は、瞬く間に宙を駆け抜け、逃げるマリーたちの背後を襲った。その速さは、とても常人の目で追えるような代物でなく、それでも頭上を飛んでいったことだけは、多くの兵士にも理解できたがために、だれもが目を丸くして呆気に取られていた。


「……外したか」


 そうつぶやくレッドの独り言によって、かろうじてフィリップは、最悪の事態が免れたことを察した。危うく自分が戦犯になるところである。それでも何名かの死傷者は出たであろうが、事情が事情である。それに照らせば、最良の結果と言えた。


 敵の目が、マリーらに集中している今がチャンスである。フィリップはここぞとばかりに、気配を消す魔法を用いるやいなや、その場からこそこそと逃げ出した。その姿を目ざとく見つけた兵士の一人が、恐る恐るといった表情でレッドに進言する。


「あの……隊長」


「なんだ?」


「今の男が、エクレア将軍の仇です」


「なっ! なな、なぜそれを先に言わない」


 怖すぎて言い出せなかったとは、兵士は口が裂けても言えなかった。こうしてフィリップは、レッドが部下の首を絞めている間に、そこから脱出することに成功したのである。これには、レッドがエクレアの死に動揺していたという、敵側の要素が大きかったのだが、そんなことをフィリップが気にするはずはない。


「さすがは、私フィリップです。格上を相手にしても、無傷で退却できてしまう。いやぁ、我ながら自分の才能が恐ろしい」


 この後、今までの罰があたったかのようにして、流れ矢を何度か食らったのだが、それはわざわざ強調しなくてもいいことだろう。

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