セカンド ファンタジー (第4章 第22話)
小話――東部戦線 一八 マリーの作戦
実のところ、エクレアの読みは、その半分までが見事に当たっていた。彼の考えるように、フビジは、はじめにフィリップがいたと思わしき場所で、果敢に戦っていたのである。問題はフィリップの場所だ。フビジと互いの位置を欺いたのではない。最中に入れ替わったのだ。なんと、フィリップは、マリーたちと行動をともにしていたのである。
順を追って説明しよう。マリーの作戦は次のようなものであった。
まず、マリーは、敵に目をつけられているフビジたち二人を、最大限利用しようと考えた。そこで取ったのが、フビジとフィリップとを、離れた場所で戦わせるという方法である。こうすれば、敵の注意は一か所に固まらず、分散することになり、マリーたちの別動隊が、より一層行動しやすくなる。そのための仕掛けが、派手な登場であった。敵の目を二人に定まりやすくするべく、はじめからフビジとフィリップに、大技を使ってもらうことにしたのである。
そして、敵の先入観を逆用した二つ目の工夫が、テレサの弓である。あえて、モニカ隊が得意とする手法を真似ることで、相手が予想しやすくなるよう仕向けたのだ。
本命は、あとから来る射撃。このことを下手に学習してしまったがために、エクレアはてっきりマリーが奥の手であると、誤解してしまった。
だが、そうではない。
そのからくりは、フビジの位置にあった。斬鉄を使うことで、あらかたのドルート兵を薙ぎ払ったフビジは、そのまますぐに、フィリップと場所を交換したのである。ゆえに、ギルバートの持ち場となった左側は、瞬く間に迫力を失い、その一方で、フビジが加わった右の戦場は、破竹の勢いで前進することとなったのだ。もちろん、このときに二度目の斬鉄を使うようにと、あらかじめマリーはフビジに念を押している。
これで敵は見誤る。その確信がマリーにはあった。現に、フビジの位置を改めて確認したエクレアは、そちらへ側近のレッドを差し向けているのだ。
では、肝心のフィリップはどこへ消えたのか? それについては如上のように、彼はマリーと同じ場所にいた。
フビジと場所を入れ替わったフィリップは、そのままマリーたちと合流。気配を抑える魔法を使いながら、ともに敵本陣を目指したのである。ゆえに、道中、フィリップがケイジに加勢することはなかった。そんなことをすれば、敵にフィリップの存在を気取られてしまう。
ただただ息を潜めながら接近し、ひたすらフィリップはタイミングを待った。エクレアの注意が、マリーだけに集中するその瞬間をである。
実のところ、ケイジが懸命に作っていたのは、マリーが進むための道ではなかった。そのようにケイジは信じて疑わなかったが、無情にも真相は異なる。マリーの下準備を手伝ったにすぎなかった。
自分では敵将を討ち取れない。己の実力を理解していたマリーには、それが痛いほどにわかった。ゆえに、マリーは徹底的に、本命の補助に回ることとしたのである。
それはだれか? 無論、フィリップである。
気配を抑える魔法と同時には、ほかのものを使えない。だが、別の者が手を貸すのであれば、それも話は変わって来る。マリーはケイジのあとを追いながら、フィリップが走るための道を、ずっと魔法で作りつづけていたのである。
風の魔法で作られたその道は、触れた者を勢いよく前へと押し出していく。たとえ、お互いの表情がぎりぎりわかるほどに、遠く離れた距離であっても、一瞬で間を詰めることが可能となるのだ。気がついたときは手遅れである。ましてや、息を殺した状態ならばなおのこと。反応するなぞ、余程の達人でなければかなうまい。
そうして、フィリップは風の道をひた走った。天上を浮遊できるフィリップのことである。空中に作られた見えない魔法陣、その上を軽やかに進むことも訳なかった。
「――ッ!」
かろうじて、エクレアは最期に、目の端でフィリップの姿を捉えていた。しかし、マリーに攻撃を向けている中で、それを防ぐ術は持ち合わせていなかった。
マリーが撃たれるのと同時に、フィリップのやや短めなサーベルは、エクレアの首を見事に切り落としたのである。傷を抑えながら地面へ落下したマリーは、痛みとも喜びともつかない大声をあげた。
大将の討ち死に。
紛うことなき、フビジたちの勝利である。
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