セカンド ファンタジー (第4章 第18話)
小話――東部戦線 一四 マリーとケイジ
小枝を踏む音で、背後からの接近に気がついたマリーは、振り返らず、前を向いたまま投げやりに口を開いた。心なしか、その目元には、いくらかの涙が溜まっているようにも見える。
「……一人にしてくれないかな?」
怒気を帯びたような、それでいて、今にも泣き出してしまいそうな萎れた声に、ケイジの胸は、つかまれたかのようにぎゅうっとなった。
俺が友を慰めるのだ。そんな気持ちからか、気がつけばケイジは自然と口を開いていた。
「俺は……馬鹿だ。お前みたいに周りが見えるわけでもなければ、フィリップのような魔法が使えるわけでもねえ。フビジ様みたいな剣の腕はねえし……ほんと、頼りにならねえ男かもしんねえ。でもな! 俺だって、友のために命をなげうつ覚悟なら、いつだってできていらあ! 俺はお前を信じている。だから、お前はいつもどおり、最高のタイミングで俺を放てばいい! 死んでも、必ずお前の前に道を開いてやる」
ほんと、なんでこいつはバカなのだろう。
「何それ……。死んだら、意味ないじゃない」
呆れるような、あるいは安心するかのような複雑な表情で、マリーがかすかに笑う。それを見て、ケイジもまた、ほっとしたように胸を撫でおろすのだった。
「う、うるせえな。仕方ねえだろ、俺は頭が悪いんだ」
「……。ごめんね。迷惑かけた」
「いいってことよ。俺のほうが、その何倍もかけているんだからな」
自覚があるなら改めてほしい。
そう思ったマリーであったが、今だけは言わないと心に決めた。
※
「作戦があるの」
戻って来たマリーが告げたものは、思いもよらない内容の戦法であった。フィリップは目を丸くして茶をこぼし、フビジは、自身の見立てが誤りでなかったのを喜んだ。やはり、マリーに任せて正解だったのだ。
「……それで、どうかな? エクレアを討つのは、最終的には私たちになるけれど、この作戦は、お姉さまの力によっている部分も大きい。無茶なところが多いやり方なのだけど、できるかしら?」
「無論だ。マリーがここまでしてくれたのだ。私が『できません』では義理が立たない。必ず、やり遂げてみせる」
だが、いまいち不安を拭えないマリーは、改めてフィリップの顔を見つめた。
「問題ありませんよ。それでいきましょう」
力強くうなずく姿を見て、マリーも自分の作戦に自信を持つ。そのことを、まるで自分のことのように喜ぶケイジが、笑いながらマリーと拳を叩きあった。
★メッセージ、コメント、評価、感想、レビュー、ブックマーク等よろしくお願いいたします★




