セカンド ファンタジー (第4章 第12話)
小話――東部戦線 八 大魔法時代
レンの時代とフビジのそれとでは、魔法に関して決定的な差があった。白魔法が極端に劣化していたのである。いや……その表現は、いささか正確さを欠いている。
逆である。
黒魔法に革命が起こったのだ。
魔法による攻撃、はては、それを施された武器による裂傷であっても、現代の白魔法では治療が著しく難しい。受けた傷が治らないのである。それによって最も多くの利益を得たのは、当然ながら軍事国家のみであった。戦争は、大魔法時代とも呼ぶべき暗黒の中へと、想像を絶する速度で突入したのである。
この一因を、かの悪名高き王女が担ったのではないかと、そう分析する学者も少なくはない。事実、ベアトリーチェの魔法理論は、その道の一派を形作るまでになっていた。死してなおも、その影響力はすさまじかったのである。
「見えたぞ! あそこだ!」
モニカ隊の再起を図るべく、ラインハルトの部隊から、一時的に離れたフビジであったが、思いのほか馬の歩みは遅かった。
「クソッ! こいつら、一人一人がマジで強え。さっきまでとは、まるで別人じゃねえか」
「ケイジ! 泣き言を言うな。テレサの部隊はもう目と鼻の先だ!」
部下を叱咤するフビジであったが、敵の手ごわさについては、彼女も認識するところであった。現に、ここにたどり着くまでにも、ひやりさせられる場面が何度もあった。フビジでさえもが、そうなのだ。ともに飛び出した部下はなおさらであろう。さすがは、大国ドルートである。兵の練度が生半可なものではない。やはり第一陣は、妖精の水遊びの効果が高かったため、簡単に倒すことができただけなのだろう。
そうであるならば、ますます、モニカ隊を敵に消させるわけにはいかない。この先の戦いでも、彼女たちの力は必ず重要になる。
フビジには、その確信があった。
「お姉さま! こっちやで!」
ようやくのことで、テレサたちと合流することができた。だが、安心はできない。見る間に退路は塞がれていく。急いで脱出しなければ、フビジの隊ごと、瞬く間に敵に壊滅させられてしまうだろう。
「無事か、テレサ?」
「うん。私は……。でも、みんながかなりやられてしもうた」
「反省は後回しだ。……お前たち! もうひと踏ん張りだ。ここを抜けるぞ! フィリップ、魔法で道を開いてくれ!」
「了解です……!」
すぐさま踵を返すフビジたちの姿を、遠くでクラッカーが目を細めて見つめていた。
※
水の海から一転、戦場は火の海と化していた。その中をカルデア兵は必死に逃げ惑う。そんな地獄のような光景を、複雑な表情をしながら、見つめている人物がいた。その顔が帯びた恐れと驚きとの色は、不規則に垂れる汗によって、もの悲しく強調されている。もはや、その汗は、どんな理由で流されているものなのかさえ、見当もつかない。
その人物とは、無論クラッカーのことである。
「さすが、ゼルフーロ様。いつもながら桁外れです」
カルデア側に大きく傾きかけた盤面は、ゼルフーロが強引に戻してくれた。それでも、まだこちらの損害が大きかったのだが、この光景はどうだろう。ドルートの士気はうなぎのぼり、その一方で、向こうにとっては、戦意をくじかれること請負である。大技を決めたあとの結果がこれなのだ。これ以上にない痛手であろう。もはや、これはドルートの勝利と言って差し支えない。
そんな中で、一つの部隊にクラッカー目を留めた。言わずもがな、フビジの部隊である。この場にあって、あろうことか、息を吹き返そうとしているではないか。
「ずいぶんと、威勢のいい奴がいるな。仮面の剣士……か」
馬上から、ちらりと兵士を一瞥し、クラッカーは声をかける。
「そこのお前。念のため、ほかの者にも忠告しておけ。長身のチャラい男も忘れるなよ。奴も中々の手練れと見える」
「はっ、ただいま!」
クラッカーからの増援により、さらにフビジたちは窮地に陥ることとなる。
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