セカンド ファンタジー (第4章 第9話)
小話――東部戦線 五 モニカ隊の強さ(下)
しきりに辺りを見回していたのは、モニカである。自分たちが放った魔法の様子を、注意深く観察していたのだ。
馬上からならば、かなり遠方まで見渡すことができる。地面には無数の水たまりができていた。
これならば大丈夫だ。妖精の水遊びは、十分に行き渡っている。支度は整った。首尾よく任務を遂行できるだろう。
その目が獲物を見つけたとき、半ば自動的に、モニカは美しい声をあげていた。
「頃合いだ……。テレサ! 出番だよ。敵将の首を取って来な!」
「任された!」
とりもなおさず、今回の狙いは指揮官の殺害にある。混乱を強め、より一層に逸脱した部隊を出やすくし、誘殺の戦法がはまりやすい状況を作る。そこにロベルトの目的があった。そのために選ばれたのが、テレサ隊である。その出番が、フビジ隊に回って来ることはなかった。
フビジたちは、そんなモニカ隊の、特に鮮やかな連携に注目していたのだが、一人だけ別の部分を凝視する者がいた。
マリーである。
彼女はフビジの横で戦いながらも、同じ五百人隊として、特に、テレサの実力がどのくらいなのかを、知っておきたかったのである。
「……」
突破力は……ふつう。いや、想像以上に歩兵の足が遅い。これでは、ひょっとすると、自分たちのほうが上なのではないか? 指揮官を狙っているようだが、あれではとても達しないだろう。
だが、次の瞬間。
テレサが上空へと、高く舞い上がっていた。
いつの間にか、左右には二張の弓が現れている。魔法で作ったものだろう。それにしても、凄まじい生成の速さだ。飛び上がる前には、何も持っていなかったはずであるから、空中で作りあげたに違いない。
あの高さだ。跳躍にも、多少は魔法を使っていておかしくはない。……ということは、連続して、違う種類の魔法をくり出したのだ。それも、すさまじい速さで。はたして、自分には、そんな真似ができるのだろうか?
マリーの分析が進む中、テレサは的を定める。指を向けるやいなや、水でできた鋭利な矢が、そこから勢いよく射出された。
「水流一矢」
驚くマリーとは対照的に、フィリップとフビジは、どちらかと言うと冷ややかだった。
「あれじゃ、届かないでしょう」
いくら魔法の矢とは言え、無限に飛んでいくわけではない。定まった魔法には、おのずと決まる効果の範囲がある。それに照らせば、テレサの使った水流一矢というものは、とても現在の位置から、指揮官を射抜けるようなものではなかった。
無論、それは敵の指揮官についても、同じことが言えた。ゆえに、彼はテレサの魔法を確認してなおも、落ち着き払った様子で、眼前のカルデア兵と交戦したのである。
だが――。
「――ッ!」
三者の予想に反し、水の矢は完全に敵将の頭を貫いていた。歓声に似た驚きの声が、味方からあがったことは言うまでもない。
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