セカンド ファンタジー (第4章 第6話)
小話――東部戦線 二 総大将ロベルト(下)
「フビジ、入ります!」
テントの中には三人の人物がいた。まず、フビジの目に飛び込んで来たのは、正面に立つ人物である。精悍な体つきで、顔だちもよい。おまけに、まだまだ若者の部類に入る年齢ながらも、すでに、その男は将軍のオーラを纏っていた。つづいては老将。円卓の上に肘を立て、威厳のある姿で椅子に座っている。その容貌からしても、この者がロベルトであることに疑いはない。もう一人は……伝令役だろうか? まあ、こいつは省いても差し支えないだろう。
「よく来てくれた、感謝する」
その挨拶を遮るように話しはじめたのは、あろうことか、伝令役の男であった。
「フビジ様! わたくし、シュマーイが甥のシャーロンポと申します。 お会いできて大変光栄です。国王のレン様には、叔父が大変にお世話になったと、きつくうかがっております! 王の剣技を最も受け継いでおられるのは、フビジ様にほかならないと、みな一様に噂しております。わたくしも、そんなあなた様とともに戦えるこの日を、幼き日より夢見ておりました。ぜひとも頑張りますので、どうかお見知りおきください!」
流暢に話すものだ。よほど、おしゃべりするのが好きだと見える。フビジは仮面の下で軽く眉をひそめながら、差し出された手を握り返そうと、腕を伸ばした。
そのときであった。
ことり。椀が台にあたる音がした。
なんてことはない。ロベルトが茶の入った器をゆっくりと、台の上に置いただけである。たった、それだけのはずである! そうであるにもかかわらず、シャーロンポはすこぶる肝を冷やした。およそ、味方に向けるものではない殺意を、ロベルトが発していたからである。
フィリップは、それよりやや遅れて身構え、ケイジは反応できなかった己を悔しがった。動じなかったのはフビジと正面の男、それにギルバートである。だが、ギルバートの実力でないことは、言うまでもないだろう。単なる、運である。すでに一度、死に直面していたことがあったため、バラックに入ったときから、ロベルトの目つきに怯えていただけだった。
「……部下が失礼した。これより、そなたはラインハルトの指揮下で、参戦してもらうてはずにある。詳しい話はそこのラインハルトよりしてもらえ。以上だ」
「はっ! かしこまりました」
美しい敬礼をするフビジであったが、ロベルトの期待に反し、その場からは離れようとしない。何事かと、訝しむ視線をロベルトが向けたところで、再びフビジは口を開きはじめた。
「将軍、一つよろしいでしょうか?」
「……。いいだろう」
「はっ! 恐れながら、申し上げます。将軍のご加護のもと、我が軍の士気はいよいよ高く、また、十分な兵力を有していると拝察します。今のまま、撤退戦を通さずとも――」
つづく言葉は、ロベルトが軽く手をあげたことで遮られた。フビジは「休め」の姿勢から微動だにせず、将軍の言葉を待つ。
「フビジ。私は無駄だというものがとても嫌いだ」
「はっ! 下愚のため、自分には仰っている意味がわかりません」
ロベルトは、台のうえに組んだ手を入れ替たあと、威圧するかのようにフビジのほうへと、さらに身を乗り出した。
「ただの嫌いではない。とても嫌いなのだ。兵士を無駄死にさせることも、また、不必要なおしゃべりをすることも嫌いなのだ。わかるかね? 私は友軍の方針について、そなたの意見を聞いたつもりはない。そしてそれは、これからについても同じことが言える。さがりたまえ。そなたは意見を求めるほどの人物ではない。私を失望させるな」
一瞬、フビジはなおも意見をしようと、口を開きかけたのだが、こちらへと歩くラインハルトの姿に気がつき、考えを改めた。
(潮時か……)
気さくに話しはじめるラインハルトとともに、フビジ隊はバラックの外へと出るのだった。
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