5.風⑤
風来坊の仕官。
「フー、ようこそ。今日はレンとゆっくり話したいのですか?それでしたら時間をつくります」
「レンとゆっくり話したいのですが、その前にソフィア様にお願いがございます」
「なんですか?」
「私を雇っていただきたいのです」
これには僕もビックリした。
「レン、フーはこう言っていますが」
「フーは変わり者で、学校の同期生の中で唯一進学も就職もしませんでした。“遊学”すると言っていましたが、卒業してから今日まで会っておりませんでしたので詳しいことは存じません。ただ、有能で信頼はできます。フー遊学はどうなったんだ?」
「遊学するには、想像以上にお金がかかる。働いて貯金してから遊学しようと思ったんだ。それで、エラン地方に来たのでレンに会えばなんとかなると思って来た」
「ちょうど有能な部下を探していたときです、おもしろいくらいにタイミングが良いですね」
「それならば、私が手合わせして実力を測りましょう」
レイラが言ったが、今度はランが制した。
「いえ、それでしたら私が」
「フー、良いですか」
「はい、ソフィア様がおっしゃるなら」
一同はテントから外へ出た。
護衛兵以外、親衛隊員も見物する中で試合が行われた。
入隊初日、僕はランと手合わせしたが、ランはかなり強い。フーの実力は、実は僕にもわからない。学校での5年間、フーは何をするにも手を抜いていたからだ。卒業試験はわざと予選落ちだった。
「構え」
リーの言葉に、ランが薙刀を構えた。
「はじめ」
ランが斬り込んだ。速い。フーは抜刀さえしていない。後ろに跳んで距離をとった。そして、ゆっくり剣を抜いた。反りのある東洋の剣だった。
ランが風を起こした。かまいたちだった。ワンタンのかまいたちの数倍の威力がありそうだった。フーはマントでしのいだ。魔術のほどこされたマントのようだ。
ランが炎を召喚した。
「ファイア」
大きな火柱がフーを包み込んだ。フーは、またマントで防いだ。そのマントはあらゆる魔法を無効化するらしい。
ランが飛び込んで、再び接近戦に持ち込んだ。物理的攻撃の方が有効と判断したのだろう。
薙刀と東洋刀、数十合打ち合ったが両者ともに引くことは無かった。
「両者、それまで」
リーが試合を止めた。
「引き分け」
「合格ですね。100人長待遇で迎えましょう」
「良いですね、フー」
「ありがたき幸せ。私、遊学の資金が貯まればここを離れますが、裏切ったり途中で去るようなことはしませんのでご安心ください」
300人長のランと引き分けたフーが言った。
「また試合したい」
ランがフーに言った。
「私は風のようにフラフラしていますが、基本的に相手に合わせます。試合をしたくなられましたらお相手いたします」
その日から、フーが味方になった。
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