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挿話――謁見の間

第2王女の苛立ち。

 

 謁見の間。

 その扉が勢い良く開かれる。中へと入って来たのは第二王女のベアトリーチェである。

「お父様!」

 開口一番、そう叫ぶベアトリーチェに対し、国王であるイサークは少しだけ眉を顰めた。

「騒々しいぞ、何事か」

「失礼しました、お父様……。つい、ユリウス様がいらっしゃったと聞き及んだものですから」

 ユリウスが登城したのは本の最近のことである。些か耳が早過ぎるベアトリーチェのことをイサークは不審に思ったものの、問い質すことまではしなかった。

「左様だ」

「どうして、ソフィアに自由な時間を与えて下さらないのです?」

 イサークが問いに答えるより早く、再び扉が開かれた。ベアトリーチェが帰って来ていることを聞いたエリザベスが駆けつけて来たのだった。

「ベアトリーチェ!」


(年増が……)


 近寄るやいなや、抱き着いて来るエリザベスに対し、ベアトリーチェは少しだけ頬を赤く染めながら応えた。

「い、嫌だわ……お姉さま。恥ずかしい」

「あら、ごめんなさい。中々、会いに来てくれないものだから」

「ちょうど、この後に伺おうと思っておりましたの」

 そう応えながらも、ベアトリーチェは再び憎しみを込めて「年増が……」と胸中で呟いていた。咳払いを一つして国王に向き直ると、ベアトリーチェが今一度ソフィアの話を持ち出す。

「ソフィアはあたくしやエリザベスお姉さまとは違います。ソフィアにまで王女という重荷を背負わせなくても良いではありませんか? 確かに……お父様たちも知っているとおり、あたくしも少なからずソフィアの美しさには穏やかでない感情を抱いております……。しかし! だからといって、ソフィアがあたくしたちの可愛い妹でなくなるわけではございません。もう少しで良いのです、そうすればきっと――」

 イサークはベアトリーチェの話を途中で遮った。

「もう十分に待った。ユリウス殿は乗り気で、一方のソフィアには聞けば慕っている人の一人もいないと言うではないか。西国ホヨウと手を結ぶことができれば、南部の国境を広げることも夢ではなくなる。これは我が国にとって良い機会なのだ」


(能面め……。自分じゃ真面な理由の一つも考えられんのか)


 ソフィアに対する侮蔑を一切顔に出すことなく、ベアトリーチェはエリザベスにだけ聞こえる声で話す。

「あたくしはただ、もしお父様がお母様と同じだったらと……」

 ベアトリーチェの母は身分の低い普通の女であった。ゆえに、この発言はまるでベアトリーチェが市井での一般的な生活を夢見ているように聞こえ、心根の優しいエリザベスにとっては胸を打つものとなった。思わず、エリザベスがベアトリーチェを抱き寄せる。その胸に埋まって泣く仕草をしながらも、ベアトリーチェの頭は良く働いていた。

 溜め息が一つ、国王のものである。自分がベアトリーチェを酷く責めているような形となったためにイサークは居心地が悪くなり、首を振って会話の終了を促した。

「……分かった。もう一年だけ待とう。これから先、私は何もせん。ただし、ユリウス殿の邪魔もしない。自力でソフィアの心を動かせたならば、ベアトリーチェも文句を言わない。これでいいだろう?」


(これから先……ってことは、やはり既に何かした後だな)


 胸中の考えはおくびにも出さず、ベアトリーチェは莞爾とした微笑みを口元に浮かながら答えた。

「はい、勿論です。お父様」


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