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挿話――北方のベアトリーチェ①

ベアトリーチェ、動く。

 カルデアはノア、その城に滞在しているベアトリーチェのもとに一通の便りが届けられた。密偵からのものである。書状にはソフィアの親衛隊から裏切りが出たということが記されていた。タンメンがルフランの兵士を王都に招き入れる手筈になっているのである。


(ふむ……。たしか、ソフィアに惚れているということであったな。ためにレンを憎んでいる……と。なるほど、この話は嘘ではあるまい。いい機会だ、ついでに年増とくだばり損ないを始末してやろう)


 ベアトリーチェもまた手早く令状を認めると、今もなお敵に包囲されたままのギデン城へと向けて鷹を飛ばした。内容は「速やかに敗北せよ」。ギデン城を敵に渡すことで、結果として王都に対するルフラン軍の攻撃を強める狙いがあった。

 そのまま自分は王都へと向かう。混乱に乗じてイサークとエリザベスを殺害するためである。

「クラウディオ!」

「はっ、ここに」

 側近の名を呼ぶと、すぐに剽軽な男が姿を現した。

「二人を連れて来る。お前は準備しておけ」

「承知しました。しかし、姫様……俺が側にいなくてもいいんですかい?」

「誰に言っている? 殊、魔術については貴様より遥かに上だ」

「いや、それはわかっているんですがね……」

 これから戦地へ向かおうというのに護衛の一人もつけようとしない雇用主に対し、クラウディオは呆れたほうがいいのか豪胆と褒めたほうがいいのか、しばし迷った。





 王都には苦もなく入ることができた。包囲されているといっても東西の両面が主であり、南北の壁は手薄になっていたためである。すぐに、ベアトリーチェは二人のもとへと向かった。場所は謁見の間である。

 戦時中に顔を見せに来た娘に対し、イサークが労りの言葉をかける。

「おお……愛娘よ、よくぞ来てくれた。何か不自由はしていないか?」

 それに対し、ベアトリーチェは愛想よく笑みをこぼしながら首を横に振った。

「いいえ、お父様。十分に。……それより、急いでここから避難してください。今しがたギデン城より便りが届きました。陥落を知らせるものです。いずれ、ここも安心できるところではなくなります」

「ギデンが落ちただと……にわかには信じられん。あそこにはミラー将軍がいたはずだ」

「善戦はしていましたが、無尽蔵に湧いてくるモンスターが相手では……」

「うーむ……」


(まあ、ミラーならばそれでも上手くやるんだろうが……俺の手下が邪魔をするんだ、敗北は必至だぜ)


 逡巡するイサークに対し、追い打ちをかけるようにして宮殿内に爆音が響く。

 どかん。

 あらかじめ、ベアトリーチェが設置しておいた魔術が発動したのである。だが、そうとは露ほども知らないイサークは敵の攻撃と勘違いせざるを得なかった。

「あい、わかった。避難しよう――」

 と、そこでエリザベスが口を挟む。今までは二人の会話を見守っているだけであったが、このまま黙っているわけにはいかない。

「――待って、ソフィアは? ソフィアもまだ王宮内にいるはずでしょう?」

「はい。ですので、そちらにはクラウディオを向かわせております」

 息を吐くようにベアトリーチェが嘘をつく。エリザベスはなおも気がかりであったが、そうでもなければ側近が王女から離れるわけがないと自分を納得させてしまった。


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