襲撃
早朝にラッパが響き渡り、あちこちの兵舎から兵士達が一斉に飛び出してきた。全員背嚢を背負い、顔には笑みが浮かんでいた。彼らは、たちまち綺麗に整列し、彼らと対峙する形で、中隊長が小さい箱の上に立ち全員を見回した。
「周知したとおり、現在わが軍と反乱軍は休戦状態にある。期間はあまりないが、その間に、我々は撤退しここを反乱軍に明け渡す。お前たちはトラックで平原に行き、シャトルで軌道まで輸送されることになる。私と、若干の人員で引き渡しの手続き、および武器弾薬を、軌道クレーンで軌道上の倉庫に格納する手続きを行う。しばらくの別れとなるが、無事に帰還しよう。」中隊長の原瀬は、通る声でそれだけいうとさっさと台から降り、続けて禿げ頭を光らせて杉田が台に上った。
「全員、トラックに乗車。一斑から隊列を組んで目的に向かう。くれぐれもトランスポンダーを見失うな。出発だ。遅れるなよ」
そして兵隊たちは雑談をしながらも速足で駐車場へと向かった。そしてものの10分もたたないうちに、先頭のトラックが荷台に多くの兵士を満載して、再び台の上に立つ原瀬の前を通った。彼は敬礼をし、兵隊達もまた敬礼を返した。
そして、1台、2台とトラックは、長らく守り続けた駐屯地を去って行った。トラックは砂塵を巻き上げて去って行き、その砂煙は遠くからでも長い間彼の目に映った。
「さて、精鋭を残してすっからかんになりましたね」杉田と、一人の小男がやってきた。
「久々にお日様をみますよ」小男がまぶしそうに空を見上げた。
「武器庫に忍んできた浮舟はどうした?」原瀬は小男に訊いた。
「まだ、床下収納にいますぜ」小男は、にやりと笑った。「いい女ですね、始末するには惜しい」
「ああ、いい物を持っている。」
「おや、もう抱いたんで?」
「店でな、しかしあの女、もともと情報収集のために店に入ったようだ。まぁ、知られた以上は始末するしかないだろ」
「へぇ、いい女だったのですけど、世の中解らんものですな、ただ今ごろは地下に充満した薬で朦朧としていますぜ、そういう話なら死ぬ前に一つ味見すっかね」
「好きにしろ、ただ逃がすなよ、逃がしたらお前も始末する」
「あの薬に溺れたら、逃げられないですよ。それにあの収納庫にはガス化した薬がたっぷり充満させてありますからね、今頃よだれを流しながら、快楽の世界に溺れているでしょうよ」
「ひどい奴だ」
「あんたには言われたくない」小男は、ぽんと一つの小さい箱を投げてよこした
原瀬はそれを片手で受け取り匂いを嗅いだ。
「未精製だが上物だな。」
「まったく、これだけのものを集めるのは大変だったぜ、しかしなんであんたが敵とここまで通じていたんだい?商売の後学のために教えてほしいものだ」
「戦争は、相手のことを知るのが一番重要だからさ」原瀬は、箱を小男に投げ返した。
「最初は、敵の資金源とゾンビー化の仕組みを解明するつもりだったんだがね」
「いい投資先を見つけたと・・」
「そもそも、こんなくそったれの戦いに賭けるには、命の値段が安すぎだ」
「おやおや、あんたならよほどいい給金があると思っていたぜ」
「お前が思っているほどじゃあないさ」
「クレーンは何時くるんで?」杉田が訊いた
「昼ごろだな、それまで残した小隊には準備をさせておけ」
・・・・・
上空に一つの点が現れた。ギョロは大きな目でそれをめざとく見つけた。灌木の中で彼は小声「あれは?」と指で指してラセルに訊いた。
「来たな準備しろ小僧、突撃するぞ」ラセルは、指笛を吹いた。その音はまるでこの惑星に住まう猛禽に似た動物に似ていた。同じような音が草原のあちこちから帰ってきた。
「お前銃はあるのか?」ラセルは彼に訊いた。彼は首を振ったが、思い出したように、ポケットから一丁の小さい銃を取り出した。
「悪いが、お前に与える銃は無いんだ。それで身を守れ、そうでなければ必死で逃げろ、いいな…」ラセルは彼の脇腹をこついた。それは昨日弾が掠めたところだった。彼は思わず顔をしかめた。そして小さく頷いた
ラセルは穴から出ると立ち上がりざまに銃を掲げた。そしてあちこちから男たちが立ち上がった。ギョロは、彼らに見覚えがあった。
「イカサマさ・・ん?」
「ふふ、ゾンビーじゃないぜ」ラセルはにやりと笑った。「さぁ、恰好は悪いが目立たない様にいくぜ」そして、皆地面に伏せたり身を灌木の陰に置いたりしながら、前進を始めた。のろのろしていたのはギョロだけだった。彼らは這いながらも思った以上のスピードで進んでいった。彼は、最後尾で赤ん坊のようにハイハイをしているだけだった。
そして、最初の銃声が彼の耳に入った。乾いた連続音がそれに応えた。音におびえて彼の動きが止まった。そしてふとアリスの事を思った。そしてイカサマ達。なぜ彼らは、仲間と戦っているんだ
「なんだ奴らは!」原瀬は銃を抜いて、部屋から飛び出した。「間もなくクレーンが来るってのに」銃声があちこちで鳴り響いていた。一階に降りると、ちょうど残しておいた部隊の小隊長が駆け込んできた。
「山賊どもです!」
「反乱軍でないだけましだな」原瀬は一瞬胸をなでおろした。山賊なら数はたかがしれている。きっとクレーンにお宝があると思って奪取しにきたのだろう
「相手はコンテナを奪うつもりだろう、たかが山賊だ蹴散らせ」
「はい!!」と小隊長は急いで出て行った。
「まさか、この事が洩れていないだろうな」彼はサンプルの小箱をポケットから出した。
「それがお宝かい」ラセルがひょいと戸口から入ってきた。片手には突撃銃が握られているが銃口は下を向いたままだ。高瀬は、銃を突き出して応戦する構えをみせた。
「ごついのを持っているな、でも当たるかな?」
「試してみるかい?」
「ああ、外したら即俺のが火を拭くぜ。」
「ふん」高瀬の銃が轟音を立ててラセルは後ろに吹っ飛んだ
「山賊ごときが…」彼は、ラセルの上をまたいで外に出た。辺りでは銃撃戦が繰り広げられていた。既に、エレベータは近くに迫りつつ降下を続けていた。彼はその中をゆっくり歩きながら兵士達を鼓舞して周り、そしてコンテナにたどり着くとそれを陰にして辺りをうかがった。
「ひでえ、有様だ」小男が先に来ていたようで、角から顔を出した。
「なんだこんな事になっているんだ?」
「山賊だ。」高瀬は、一発だけ弾丸を補填した
「その割には統制がとれているようだがな」小男が鼻をならした
「あんたの精鋭が結構てこづっているみたいだ」
「中隊長!」何度も大声を出しながら小隊長がかけていた。
「ここだ!どうした」高瀬が返事をした。すると息を切らせながら若い男が傍にやってきた。
「山賊だけじゃないです、愚連隊のやつらが仲間になっています」
「どうりで」小男がくすりと笑った
「こいつは?」小隊長が小男を不審そうにみた
「コンテナの関係者だ。昨晩到着した」
「あ、そうですか、ご苦労さまです」
「第三小隊か、相手が悪いな。」高瀬は、コンテナに乗せた爆弾で全滅できると信じていた。その情報がどこで漏れたかを考えていた。あるいは、そもそもあの場所には居なかったのか?生きている以上、さぞや復讐の念に憑りつかれているだろうな
空には、あの嫌らしいオーロラは見当たらなかった。天の助けか・・・
「小隊長、13番コンテナを開ける。警報を鳴らせ」
「どこに避難を?」
「中身が出たら13番が空くだろ・・・オートマターはタイマーで30秒後に攻撃するようにしろ」
小隊長が、コンテナから去って行った。やがて警報が鳴り響いた
「やべ」イカサマが、音を聞いて思わず引き金をかけた指を放した。
「流石に、これは相手が悪い。」敵は、もう銃を撃ってこなくなった。「もう避難を始めたな」仲間達もあちこちの物陰から顔を出して、仲間の動きを見ていた。
「逃げるが勝ちだな」元第三小隊の面々や山賊は一斉に逃げ出した。
13番コンテナが開くと、中からぞろぞろと三本脚で円筒形の胴体をもつ機械が出てきた。全部で12体は、綺麗に4×3列に整列し、その間を担当する兵士が一台一台胴体の真ん中にある蓋を開けては操作をしてしててゆく作業を進めた。その間に戻ってきた兵士達はコンテナに入って行った。
「設定終わりました」兵士はそういってコンテナに入った。
「よし、これよりオートマターを始動する。動作は30秒後」高瀬は一つのスイッチを押した。機械の上部にあるランプが点滅をはじめ、コンテナのドアが二人の兵士により閉められた。コンテナ内に薄暗い明かりがともった。
「このまま宇宙に運ばれるのは嫌ですぜ」高瀬の近くにいた小男がぼそりと行った。「寒いし、空気は無いし」
「どうせすぐに蹴散らせる」高瀬は静かに答えた
「それにしても、こんなもを用意していたなんて、使えば戦争なんかすぐに終わったでしょう」
「電磁場防御の為にやたら重量が重いせいで、動作時間が短いうえに、ここにはまともな充電設備がないからな。それでも、まともな動作保証ができるのはオーロラが出ない時ぐらいなものだ」
「時間がきたら辺りは死体の山ですな」
「いや、あれとまともに戦う奴はいない、みな遠くに逃げるさ」
「じゃあ、それが目的で?」
「そんなところだ。荷を積んだコンテナを上げればお終いだ」
決して完全に密閉されていないコンテナの中に、外からの銃声が聞こえてきていた。
「動作時間は?」
「さぁ、電源が切れるまでさ」シュッという奇妙な音がして、悲鳴がコンテナ内の後ろであがった。振り吹くと隅にあった段ボールの塊の中から、ごそりとオートマターが現れた。
「なんでここにあるんだ!!」高瀬が叫んだ
「うるさいなぁ」オートマターが女性の声でじゃべった。オートマターの近くには兵士が数人倒れているのが見えた。
「さて、ショウタイムだ。高瀬さん」
「だれだ」
「おや、もうお忘れかい、あんなに沢山楽しんだのに」オートマターは薄暗い中を進んできた。そして不気味なその姿に思わず銃を撃ち放った。火花がオートマターの胴体に当たり火花が散ると同時に跳弾に当たった兵士が悲鳴をあげた
「こんな所で撃つからさ」オートマターの上には、アリスの頭が乗っていた。そして頭のあちこちから、カニの足のようなものが伸びてオートマターをしっかり捕まえていた。
「化け物!」と誰かが大声を出した。とたんに天井が上空にふっとびすべての壁が一瞬にして外側に倒れた。兵士達は脱兎のように散っていったが、高瀬はじっと銃を彼女の頭に向けた。銃弾はややそれたがそれでも彼女の耳の一部を奪っていった。オートマターは、それに応戦して確実に高瀬の右足を射た。しかし高瀬の足からはわずかな血しか出なかった。
「おや…」というアリスの頬を銃弾がえぐった。オートマターは応戦し彼の右腕を撃った高瀬の腕の肘から下が皮一枚つながったままぶらんと垂れ下がったかのように見えたが、それは直ぐに復元した。しかし、瞬間的に失われた神経のために彼の銃は地面に落ちていた。
「お終いだな、高瀬」アリスは一歩踏み出した。高瀬は両手を上にあげた
「ほう、いい覚悟だ」とたんにあちこちに散っていたはずの兵士がアリスに対して射撃を開始した。その隙に高瀬は銃を拾ったが、アリスは瞬時に兵士達に致命傷を与え、銃声はぱたりと止んだ
「どうやら、お互いになかなか死ねないからだを持っているようだ」高瀬は、銃を構えた。「お前は何者だ?」
「あんたの麻薬持ち出しを阻止しようとしているのが、普通の女郎とおもうかい」
「MPか?」
「まぁ、色々とやってはいるが、今はその類さ。でも、健全な状態でゾンビー化をしている人間は初めてだ。軍の最新技術かい?」
「いや、そもそもこの戦争がこの技術を盗むためのものなのさ、俺は勝手にこんな体にここでさせられたんだ。売りさばく麻薬は慰謝料みたいなものさ」
上空からは、巨大なフックが降りてきていた。
「わるいが、互いにこんな体では勝負が尽きそうもないな。」高瀬は、一発の弾丸を込めなおした。「俺はおさらばさせてもらう」彼の放った弾丸はアリスが制御するオートマターの一つの脚に当たりその一本はがくんと地面に落ちて彼女の体は傾いたまま動かなくなった。
「てめぇ!」アリスは毒気づいた。その間に高瀬は、降りて来たフックを片手で掴み、フックにぶら下がったまま移動してゆき、積み荷が入っているコンテナの屋根に到着すると、フックをコンテナに取り付けた。そしてにやりとアリスに向かって笑みをみせた。
がくんとコンテナが揺れ、ゆっくりと上に上がっていった。
どこかで銃声が響いた。弾丸が高瀬を射抜いたが、彼は一度膝をつきそしてまた立ち上がった。地上では、ラセルがかけよってきていた。
「おや、生きていたか・・・」ラセルは再度銃を構えた。高瀬は、コンテナの上で身を伏せた。ラセルはため息をついて銃口を下し、オートマターの上にのった頭をみた。
「おやおや、たぶんそうじゃないかと思ってたんだが、やっぱりアリスか」ラセルは笑いながら言った。
「うるへー、盗賊ごときが、あいつを逃したら代わりにお前をしょっぴいてやる」
「おーこわ、敏腕の密偵屋もだいなしですな」
「なんでお前があんな下種を追っている」
「おいおい、お宝を盗むのが俺の商売だぜ。あいつがため込んだところを襲って、すべていただくつもりだったが、まさか不死身とはね」
「そういうあんたも、腹が血まみれだぜ」
「俺は、一般市民さ。お前や高瀬のようなびっくりショーなんかできないよ」とラセルは服を持ち上げた。すると血まみれの大きな防弾チョッキが現れた。「血糊内臓の防弾チョッキさ死んだ真似にはもってこいだ」
「ふーんそれで死んだふりかぁ、で、盗賊さんはあきらめモードかい」
「さすがに、ああなっては盗めないな。」ラセルは、去ってゆくコンテナを見てから銃のストラップを肩にかけた。「出直すかな」
突然動き出した箱の中で、ギョロはあわて思わず大声をだした。
「だれだ!」闇の中で声がして、闇に包まれた中に明かりがともった。どこかで聞いた声。眩しさに一瞬目が追い付かなかったが、懐かしい顔がそこにあった。
「コウモリさん生きてたんですか!!」
「ギョロなんでお前ここにいる」
「あのとき救命ポッドで脱出したんです。他のみんなは?」
「死んだ、いやお前も死ぬべきだったんだ」小男は銃を取り出した。
「うそ、なんで?」
「口封じってやつだ」コウモリの放った銃弾は、揺れのためにギョロの脚に当たった。
「いた!」ギョロ床に倒れ、脚を押さえながら隅に移動しようとした。
「お前みたいなクズがなんで生き残っている。」コウモリはさらに撃った。さらにもう片方の脚に当たった。ギョロは大きな悲鳴をあげた
「うるせーガキ、今俺たちの船の状況もしらねぇでのほほんとしやがって、こんな仕事でもやらねーと、破産まじかなんだよ」コウモリの銃弾がそれた
「じゃ、じゃ・・あの船の襲撃は・・・」
「荷物ははなから爆弾だけさ、襲撃されたという事実だけがあればよかったのさ。そんな事が洩れるわけにいかないだろ?」
「ちょ、長老は・・」
「もちろん承知の上さ、おまえらクズどもが唯一役に立つ仕事だったからな」
「誰に言わないから、コウモリさん誰にもいわないから・・・」
「おいおい、お前さんが口を割ることを俺や依頼人にびくびくさせる気か?」
「そ、そんな、たすけて…」ギョロは、必死に後ずさった。脚が痛い、とんでもなく痛い。尻もちをついたまま血の跡をつけながら後ろへ、後ろへ・・手が何かにあたって、もう後ろがなくなった。ふりむくと、そこに蓋があいたままの救命ポッドが置かれていた
「おしまいだ」コウモリは銃口をむけた
彼は、痛みをおしてポッドに乗り込んだ。蓋がバタンととじた。その蓋に銃弾があたった。
「てめぇ開けろ!」コウモリはかけよるとポッドの蓋をがんがんとたたいた
明かりが、突然入ってきた。
コンテナのドアが開き、逆光の中で高瀬が上からぶら下がっていた。そして何度か体を前後にゆすりコンテナの中に飛び込んできた。
「銃声がしたが、どうした」
「小僧が、ポッドに入りやがった」コウモリが甲高い声でさけんだ
「あん?」高瀬はポットを見下ろした。そしてつま先でそれをつついた。
「もう一台はどこです?ないと死んじまう」
「ないよ・・・」
「なんで?あんたと俺の分があるだろ?」
「そもそもお前の分はない」
「え?」
高瀬は腰から銃を抜くとコウモリに向けた。
「まってくれ、な俺たち仲間だろ?」
「海賊の仲間は作らない、それに割る口は少ない方がいい」
轟音が響いた。
高瀬は、コンテナの床に転がった死体を外に落とすと、こんこんとポッドを叩いた。
「ま、でてくるわけないか、これならコウモリのいう通りもう一台用意するべきだった。」彼は、壁についた有線マイクを持つと、「俺だ、避難ポッドをシャトルでひとつ下ろしてくれないか至急たのむ、クレーンはこのまま一旦着地させる」と指示を出し、コンテナの壁についた赤いボタンを握り拳で叩いた。コンテナは突然停止し、ゆっくりを降下を始めた。




