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 本隊でギョロ達が乗ったトラックを迎えたのは、一列に並んだ銃口だった。

「これは一体なんですか?中隊長」助手席にいた兵士が車を降りて訊いた。


「全員脱走の疑いで逮捕する」中隊長は、銃口を彼に向けた


「脱走じゃないです」兵士は一枚の紙を差し出した。「ここに古関小隊長の命令書があります」


「どれ、みせてみろ」とそれを受け取ると一瞥してから無造作にポケットに押し込んだ


「わかった、この件について調査を行う。それまでの間お前たちを監禁する。全員武装解除して車から降りろ」


 その言葉に各自ぶつぶつと言いながら、銃を取り囲んでいる兵士に渡しては下車していった。


「すみません、俺もですか」ギョロは、小さい銃を上にかざしながら大声をだした


「びびりか…お前も同じだ。海賊」ギョロは全身に電流を流されたようにびくんとした


「全員、営倉にいれろ」中隊長のその一言で彼らは列を作って歩き始めた


「お前海賊だったんか?」だれかが後ろから小突いた


「いや…」彼は嘘をついた。


「どっちでもいい、どうせ俺も脛に傷のある奴さ…まったくどうなるんだか」


「爆弾の事をもみ消すために、きっと消されるぜ」誰かが小声で言った。


「俺も、それに一票だ」彼らの声に、周囲を囲っている友軍たちはだれも口を開かないそもそも、刑務所からきた兵士のざれごととしか受け取っていないようだった。


「おまえ、種抜きされたんだろ、我慢できるか」後ろの兵士が訊いた


「分からないです。浮舟さんに治してもらえとは言われたんですが、これじゃあ…」


「間違っても俺のケツの穴を使うなよな、痔を患っていてえからな」周りから笑い声があがった


「てめぇの穴にいれたらちんぽがくさくなるわい」とさらに後ろから囃し立てる声があがった。そのとき一列で整然と歩いていた男たちの歩みがくずれた


「てめぇ何ぶつかっているんだ」


「なにを!てめぇがさっさと歩かねぇからだ!」喧嘩腰の声がいきなりあがった。

山の上では日常的な事が、突発的に起こった。


 一発のこぶしが振り上げられ、それが連鎖してゆく。まわりを囲む兵士達も巻き添えもくらった。いきなり銃を奪われ銃座でしたたかに殴られる者もいた。


「お前、この隙ににげろ。お前はそもそも兵士じゃない」後ろから小声で声がかかった。その男は、後ろの男の胸倉をつかんで一発お見舞いしていた。しかし二人とも何か楽しそうに殴り合いをしているように見えた。


「いけよ」胸倉を掴まれている方がにやっと笑った。彼は、喧嘩騒ぎが広がる中、脱兎のように駆け出した。兵舎の床下を目指した。銃声が甲高く響き渡り、背後が静寂に包まれた。床下の暗がりにむけてスライディングをかける。そして匍匐を続け体を中に入れた。


 その足首に強い痛みが走った。「おっと、逃げるなよ、次は銃弾だ、びびりくん」

 脱力感が全身を襲った。だめだ…捕まった。彼は動きを止めた。そして土だらけの顔を後ろに向けた。見知った顔がそこにあった。


「こうもりさん!」


「ん、誰だって?」兵士の服を着た男は小銃の先を彼に向けて言った。


「出ろ。」彼はもぞもぞと後退して完全に床下から出て立ち上がろうとしたその途端男の持つ小銃の銃把でしたたかに顎を殴られそのまま倒れた。


 目が覚めると、半地下の牢獄に多くの兵士と共に放り込まれていた、男達は壁や鉄格子を背もたれにしてだまりこんでいた。どさくさに紛れて服の下に隠したデリンジャーがまだそこにあり、それが肋骨を圧迫していたために、そこが痛んだ。


「おや、お目覚めだね。海賊くん」女性の声がした。頭を押さえながら半神を起こすと誰かが手を貸してくれた。「まだ寝ていろ」手を貸してくれた主の声は優しかった。


「アリ・・浮舟さん」鉄格子で阻まれた隣の牢に彼女はいた。


「さんざん抜かれたんだったね」彼女は面白そうに言った。「治してあげたいけど、この中じゃちょっとね・・」


「どうしてここに?」


「中隊長さんのしつこい誘いを断り続けたらこんな所にいれられてちゃったのよ、もうサービスしてやったのに酷い奴、ていうか、あいつなりに手を回して私の情報を集めていたらしいわ。こんな美貌の娼婦には誰も覚えがないらしいってね」アリスは、ぷっと膨れた表情をしてみせた


「あ、そうだ」彼は、汗臭く狭い牢獄の中を他の兵士をかき分けるようにして四つん這いになりながら彼女の傍に進んだ。そして二人を隔てる格子に寄りかかると胸ポケットから煙草の箱を取り出した。


「あら、いいもの持っているのね。」アリスは興味なさそうに言った。「でも火がないのよ」


「火はここにあるよ」彼は、マッチ箱も取り出して二つそろえて、格子の向こうに落とした。


「山賊さんからのプレゼントで貰ったんだ。もしあんたに抜いてもらえたら渡しておけって」


「おやおや、知らない間にお友達もできてんだ」アリスは、その二つを拾い上げた、そして煙草をくわえマッチ箱をあけると一瞬目を細め、マッチを一本取り出した。がその時マッチに混じって入っていた紙の棒も一緒に取り出し、さっとそれを広げてから、胸のポケットに放り込んでいた。マッチをすり煙草に火をつけると、吐いた煙でひとつの輪を作ってみせた。


「山賊さんの名前はなんて言うんだい」


「ラセルさんだったかな」


「ふうん」


「知らない人かい?」


「ああ、知らない。山賊に知人はいないし」


「おい!どこで煙草を手に入れた」突然怒号が響いた。見回りをしていた兵隊だった。 半地下のせいで兵隊は、身を屈んで怒っているのが妙に滑稽に思えた。


「空から降ってきた。」アリスは、煙でまた輪を作った


「よこせ!」


「やだね、どうせあんたが懐に入れるだけだろ」


「なんだと」


「ここから出してくれたらあげてもいいけどね」


「できるわけないだろ、はやく差し出せ」


「まったく、こんな楽しみまで奪うのかい」アリスは、舌打ちをして煙草とマッチ入れを看守に渡そうと、腕を格子の外に出した。


「あとで返しておくれよ」


看守はそれを受け取ろうと腰を曲げて腕を伸ばしてきた、アリスはその手を掴むや力いっぱい引いて看守の腕を一本まるごと、牢の中に引いた、看守はつんのめって顔を格子にめいっぱいぶつけた。そしてもう一方の腕で看守の首を掴かみとり、腕を掴んでいた手を放すと拳を男の口の中に押し込んだ。


 その素早い動きにギョロはあっけにとられていた。男はもがきつつ銃に手を伸ばそうとしていたが、どうも引っ張られたときに損傷を受けたようで思いどおりに動かないように見えた。やがて男は、ぐったりと地面に顔を落とした。アリスは腕を伸ばし男の服を掴んで格子に引っ張りよせ腰に付いた鍵と銃を抜き取った。


「すげぇ」だれかが言った。


 その声を無視して彼女は、自分の牢屋の錠をあけると、そのまま鍵を男たちの部屋に放り込んだ。男たちは鍵を拾ったもののどうしたものか顔を見合わせた。


「好きにしな・・・でもギョロあんたは来るんだ。」ギョロは、体を起こした。まだ頭がズキズキと痛んだ。


「ギョロ?」誰かが言った「誰のことだ?」


「僕の本当の名前ですよ」ギョロは、片膝をついた。立てば頭が天井に閊える。中腰で動くには、頭が痛すぎた。よつんばのまま、アリスとは逆の方にある錠に向かった。


「もっとも、それも本名じゃあないですけどね」そして鍵を受け取り錠を開けた。外にはすでにアリスが待っていた。


「どうしたんです?」ギョロは、周りを見回した。倒れた歩哨が目に入った。


「銃は撃てるようになったか?」アリスは一つのサブマシンガンを彼に渡した。


「なんですこれ?」


「あれが持っていた。」アリスは顎で倒れた男を指した


「いや、そうじゃなくて…」


「引き金を引けば弾はでる、同じだ」


「これで、どうするのですか?」


「自分の身を守る。それだけだ。行くぞ」アリスは通路の裏手に回った。


「俺もですか?」ギョロはそれを追った。表と異なり、裏手には多くの人の背丈もありそうな箱やゴミが捨てられていた。ついて行きながらもギョロは訊いた


「ああ、いくら私でも背中は守れないからな、その銃なら下手でも当たるかもしれない」

「どこに行くのです?」


「武器庫」


「ええ…?」


「武器?、盗むのですか?俺使えないですよ」


「武器があればな」



「でも武器庫でしょ?」


「ああ」後ろで大声があがった。やっと気が付いたのだろうか、二人はしゃがんで、荷物の影に身を潜めた


「もう気づいたか、さすがに軍隊だけのことはある」アリスは、彼をちらりと見た。


「お前、ちょっと囮になれ」


「え?」


「大丈夫、逃げて逃げまくって投降すればいい」


「でも・・・」彼の顔に銃口が突き付けられた。「今、死ぬか?」


「くそ!」彼は脱兎のように飛び出して、荷物を飛び越えて裏手に駆け出した。そして誰がの声が上がった。「いたぞ!!」多くの兵士が彼を追って走り出した。


 アリスは頃合いを見図ると、こっそりと陰から出て、辺りを見回しながら兵器庫の中に忍び込んだ。窓は無く、板の隙間から日差しが入ってくるだけ。丁寧に積まれた木箱には武器や弾薬の型式名が焼印で記されていた。だが、それ自体胡散臭い。

(全くいつの時代の荷造りだ)アリスは、一つの箱の蓋に手を掛けるとじわりじわりと力を込めた。


 蓋はゆっくりと打ち込まれた釘と共に上がってきた。やがて、微かに釘が小さく鳴き蓋が外れた。中には、弾薬の小箱がぎっしりと詰められていた。しかし木箱に押された印には、自動小銃の形名になっている。彼女は、小箱の一つを手に取って振ってみた。妙に軽い。そして弾丸の音がしない。蓋を開けてみれば、何か粘土状のものがラップにくるまって入っていた。(爆薬か?)匂いを嗅ぐと爆薬の匂いではなかったが、その匂いには記憶があった。


(ほほう、なかなか頭がいい奴だ)


「手を頭の上に乗せてくれないかな」どこからか声が聞こえた.


(くそ、しくじったか)アリスは声のいう通りにした。彼女の銃は先に蓋をあける際に腰に差し込んだままだった。目を左右に走らせ声がした方に誰かいないか探る


「よく見つけたものだよ」声は、上の方からのようだった。


「武器も金もハーブにしたのか?」


「そうさ、そっちの方が重さの割には金になるからな、ここじゃあ重力の外にでるのがどれほど大変だと思う」


「クレーンがあるだろ」目を上に向ける。微かな明かりの中、梁の上に腰かけている者がいた。髪の毛の中に仕込んである小さいナイフをさぐる


「それでもいいんだが、そうなると上に居るやつらも仲間にしないとね。こういうのは一つ情報が洩れれば、どこまでも漏れてしまう。美味しい死骸があればスカベンジャーどもはどんな遠くからでも集まってくるものだよ」闇の中で男は、話しながらも銃で狙いを付けたままだ。


「賢いことだ。しかし宇宙船もばかにならんだろ」


「そうだ、しかし抱き込むのはパイロット一人でいい」


「そのパイロットの命も短そうだな」


梁の上の男はふふと笑った。

「この惑星では、人を使うのに便利な方法があるのは知っているな」男は、言った。「大事な所は俺が全部押さえている。お前が吠えても、もみ消されるのがオチさ」


「で、私の命も風前の灯みたいだが、いつまでこんな恰好をしていればいいんだ?」


「それを俺も考えていたんだ。銃を撃て銃声を聞いて要らぬお節介も飛んでくる」


「なら私に分がありそうだ」彼女は手を下そうとした。その瞬間プシュという音と共に頬を熱いものが掠めた


「残念でした。」男はくすくすと笑った。


「ただ、今あんたにここで死体になるのも困る。まもなく荷物を外に出すのでね。荷物を運ぶ人足に死体が見つかったら、それなりに仕事が増えるからな」


「このまま睨み合ってもやがてだれかが来る」


「そうなんだ…それも困る」男はくすくすと笑った


「困っているように思えないが?」


「まぁ、そうなんだが、まぁ答えないだろうとおもうけど、あんたは何者だい?どうやって、こんなことを嗅ぎつけてきた?」


「…」


「顔が見えるようにもう一歩前に出てくれないかい?」


 彼女は言う通りにした。


「んーはっきり見えないな、もう一歩かな」


 おなじく歩を進めた


「じゃあさようなら」


 アリスの足元が突然消えた。悲鳴さえあげる余裕がなかった。足から落ちそのまま尻餅をつくように落ちたが、骨折だけは免れた。そして上を見上げるとドスッと重そうな音と立てて天井が閉じ、穴の中は闇に埋もれた。


「糞野郎!!」座り込んだまま、上に向って大声をあげたが、声は狭い穴の中の外にさえ出てゆきそうな感じさえしなかった。

 


□□


 ギョロは、必死でにげまくった。兵舎の裏手から低い灌木の間をめぐり。何度も銃声が追いかけては、首をすくめた。わずかに身を隠せそうな灌木の陰で身をかがめアリスが渡した銃のトリガーを引くと、激しい音と共に腕が震えあらぬ方向に向かって弾が飛んで行った。追手の兵士達にひるんでくれ、びびってくれと祈って飛び出すと、すぐさま銃声が追いかけてくる。一発が脇腹を掠め思わず前につんのめり、こわごわと手を脇腹にやる。

 多くは無いが、血が掌についた。このままじゃ殺される。彼は、銃を置き去りにしてはいつくばりながら、進んだ。脇腹が痛い、棘のある枝で頬が削られ、腕を肩を刺される。彼は歯を食いしばり、アリスを呪った。時折銃声があちこちで響いた。


「投降しろ!」あちこちで大声が響く「殺しはしない」


(うそつけ!あんなバンバン撃ちやがって殺す気満々じゃないか)彼は声から遠ざかるように静かに匍匐を続けた。そして不自然なほどに葉の茂った灌木に突き当たった

これは身を隠すにはちょうどいい、彼がその茂みに手を伸ばすと同時に、「声を出すな」とくぐもった声がして、銃口が茂みの中から突き出された。そして、銃身を握る手の持ち主はラセルだった。


「なんだお前か」ラセルは地面にはいつくばっていた。「余計なもの連れてきたな」


あちこちで、ギョロを探す声が響き渡っていた。


「追われてるんです」彼は同じように地面に体全体を付けたまま答えた


「それぐらい分かる。こっちにこい」


 彼は匍匐を開始して、ラセルが身を隠す茂みの中に入った。すると正面の地面が突然消えたように見えた。


「その穴に入ってろ」ラセルの声に従って。穴の淵を回り込んでからそっと脚から中に降りた。狭い穴だ。中には、水筒が置かれ、妙な匂いがこもっていた。つづいてラセルも穴の中にそっと入ってきた。


「しばらく声を出すな」ラセルは小声で言い、穴の回りを囲む灌木の間に顔をだした。ギョロを探し求める声が方々から聞こえる。どれも近づいたり、遠ざかったりしている。

彼は、緊張の中で体を震わせていた。必死に逃げている間に感じなかった恐怖がじわじわとしみこんでくる感じがした。


「ここにいれば大丈夫だ。」ラセルは彼の震えを感じて言った。


「それにやつらは、それほどお前を見つけるのに真剣でないさ。間もなくすればここからおさらば…」ギョロを探す声が近づいた。


そして、いらだったような声は、一発銃声を鳴らすと、「もう行こうぜ」と仲間に声をかけた。


「そうだな」と別の声が応じた。「どうせ、放っておいても原住民に殺られるだけだ。それに俺たちの撤退準備が遅れる」


「全く迷惑な奴だ。どうせ記者風情を捕まえても俺たちの給料が上がるわけでもない」 

「本当に、なんで逃げやがったんだろうな」


「おーい、みんな引き上げるぞ」


あちこちで、呼応する声が上がった。


彼は、ひとつため息をついた。


「な、あきらめただろ」ラセルは、にやりと笑った


「貴方は、なんでここに?」狭い穴の中で彼は訊いた


「俺は山賊だぜ、あそこにお宝があるかどうか見に来るのは当たり前だ」


「そうですね、でも引き上げればもぬけの空ですよ」


「今日から3日間の停戦協定が結ばれた。」ラセルは煙草を取り出して口にくわえた。 

「要は引き上げ期間というわけだ、それを過ぎれば残った者は一掃される。お宝もその間に空のどこかに行ってしまうだろうが…基本通りなら人はシャトルを使い、荷物はクレーンでつり上げられるし、警護も少ない、危ないブツなら同じ隊のやつらにも見られたくないから、多分引き上げ後にブツの移動が始まる」


「危ないブツって?」


「俺の情報では、中隊の倉庫のどこかに、かなり金になるものが隠されているようでね」


「そのクレーンを襲うのですね」ギョロは、海賊としての興味が湧いてきた。


「そういうことだ。それまでこの穴の中でしばし生活さ」


□□・・・・


 さあ、どうしたものか。アリスは、闇の中で湿った壁に背をもたれて座っていた。助けは来ない。あの若造を囮にだしたのはまずかったかなと、彼とともに行動を起こした場合の予想をしてみたが、どう考えても足手まといになるとしか思いつかない。


 いずれにしろ現実は、この有様だ。体のあちこちに必要な道具は忍ばせてあるが、当然どれも小物であり、どちらかといえば、人殺しの道具ばかりだ。


 まずは明かりがないことのにはどうしようもないな。-と彼女は、指先に力を込めた。全ての指が震えた。すると、全ての指の爪が伸び始め、最初にあった爪は剥がれ落ち、その後ろから、まるで鋭いナイフのような爪が伸びてきた。


 アリスはその鋭い爪を、自身の右のふくらはぎに当てると、一気に皮膚を上下に割いた、血が流れ落ち、一瞬彼女はしかめっつらをし、さらに二本の指を傷口に差し込んだ。血がどくどくと流れる中、二本の指は皮膚の下をまさぐりその中をから、直径5ミリ長さ3センチほどの道具を引っ張り出した。血は次第に凝固してゆき、引き裂かれた皮膚には、もう瘡蓋ができていた。


 彼女が取り出した道具をねじると、その先端から強い光が溢れでた。


 彼女の居る落とし穴はおおよそ綺麗な正方形であった。壁面はコンクリートで固められているが、床は乾いた砂になっていた。さっきまで床だった天井は、飛べば手が届きそうな近さだったが、その天井に手が届いたとしても、直ぐに動くものとは思えなかった。


 周りを見れば、壁には卑猥な落書きがあった。もともと落とし穴として作ったものではないのだろう。隅には木屑などが落ちている。


 何か、ここに保管をしていたのだろう。しかし、こんな穴の中に何を?・・彼女は,明かりを片手にして隅から隅へと身をかがめながら残されているものを探した。


 何かあるはずだ、何かが・・・そして手を砂の上に付いたとき、何かが掌に当たった。それを取り出してみれば、茶色いキャラメルのようなものだった。ただし、紙には包まれておらず、むき出しのまま砂にまみれた茶色い直方体。匂いは燻製のような匂いと花のような香りがまじって感じられた。


 なるほど、これひとつでさえなかなか高価なものだ。決してこの惑星の外に出ることがない、秘密の麻薬だ。ハーブあるいは、インセンスと呼ばれるやつだ。普通の生身の人間が、この中に居れば即座に恍惚感にひたることになるな、アリスは笑いそうになった。どうやら誰を敵に回したか、あの男は知らないようだ。


 こんなものが大量に出回れば人類の版図には混乱の渦が巻き起こるだろう。宇宙中にヤク中がはびこることになる。


 当然それの阻止も必要であるが、しかし、この状況どうしたものか…かっこ悪い手段でも使うしかなさそうだなと彼女は舌打ちをした。


「さて、最強のセラミックちゃん、本領を発揮するわよ」彼女は、ナイフのような爪を壁突き立て削り始めた。コンクリの壁がまるで土塊のように削れていった。

 それで、まずはつま先を差し込む足場を掘って行く、それを使って体を持ち上げると同時に爪を壁に突き立てもう片方の手でコンクリに穴をあける。そして更に体を持ち上げる。

 しかし鉄の天井板はとても壊すことはできそうにないので、その真下に穴を開ける、頭さえ入れば…片手でコンクリート壁に開けた穴を掴み、片手で天井の真下近くを掘る。コンクリートが剥がれ落ち、土が剥き出しになってくる。

 土が顔に降りかかる。疲れたら、手を変えて更に掘る。上では、搬送の為か大声で作業が始まったようだった。その音に乗じて更に掘る、指先が地上の空気を感じた。


「最強!!アリスちゃん」彼女は小声で小躍りした。「私の脱出ショーに失敗なし」


彼女は、穴を広げほぼ頭のサイズにまでした。


(さぁ、スプラッターの始まりだぁ)


 彼女は、鋭い爪で首の周りの皮膚を掻き切った。血がその傷口からどくどくと流れ落ちたが、それにお構いなく、今度は両手で顎を支えるように掴みそれをぐいと上に持ち上げると、頭が胴体からずるずると離れた。

 腕はその頭を掘った穴の中に押し込んだ。

 体の方は、くずれ落ちはじめた。

 すると首から脊髄にも似た組織が繋がったまま落ちて行く体の中からずるずると引きずりだされてきた。

 体が穴の底に完全に落ちきってしまうと。脊髄状のものはだらんと首から垂れ下がっていた。

 そして穴に突っ込まれた顔の両頬から短い節足動物の足のようなものが伸び。それがせわしなく動いて頭を前進させた。


 頭が穴から脱出すると、その短い足が左右に大きく伸びた、赤いネバネバしたものが、その足に絡みつき糸を引いた。足は、充分に伸びるとかくんと直角に曲がり、その尖った先端が地面に着くと、ぐいと頭を持ち上げた。


(頭だけの脱走よん)アリスは頭だけになって、外骨格のような細い足を器用に動かしながら、穴から離れ始めた。その頭の首の部分からは脊髄のような長い組織をずるずると引きずったままだ。そして搬出の終わった人気のない倉庫を駆け回り素早く床下へと逃げ込んだ。


 落とし穴の底には、抜け殻の様になった頭のない胴体だけが取り残されていた。



「ふーん、連れの女に囮にされたってか」ラセルはくすりと笑った。「で有名な女郎さんの本性はなんだい?武器庫になんで侵入したんだろね」


「わからないんです。」彼は空を見上げた。オーロラが輝く空だ。


「助けてもらって、なぜか手伝いさせられて、でもなんの手伝いか教えてくれなくて」 

「それは、彼女の親切かもな、余計なことを知っていれば、命に係わるかもってね。それに目的を教えれば君から自然と彼女の正体が漏れるおそれもある」


「たぶん、後者の方ですね。俺、口軽いから」


「しかし、武器庫か、案外彼女と俺の狙いが同じかもしれないな」


「あんたの狙いは何です?」


「金さ、山賊だからな」


「でも、金なんかないでしょ、海賊にさんざん盗まれているし」


「そうだ、しかしお前さんが盗んだときにはすでにもぬけの空、だれが盗んだのだろうね。おかしいと思わなかったかい?すでに襲われた輸送船がのうのうと時刻通りに運行しているかい?」


「それは俺たちと同様にこっそりと」


「おいおい、何度もやられているというのに、そんな間抜けなことをさせるとおもうか相手は軍だぞ、腐れ切った宇宙軍でもそこまでバカじゃあない。盗もうと思えば戦闘になる」


「じゃあ、俺たちは…」


「利用されたのさ、俺の考えが正しければな」


「ガセネタを掴まされたんだ。コウモリさんは…」ギョロは、作戦に夢中になっていたコウモリを思い出した。


「そういうことだろうな。ま、嵌められたあんた達も事前調査不足だったのさ」


「そんな事言われても…」ラセルのいう事は当然だろう、しかし調査するにも人材やら資金が必要だ。しかし彼の属した海賊は人材も調達できる金もない。美味しいネタがあれば飛びつくのは普通のことだ。


「気にするな、いずれにしろあんた達をはめた方が一枚上手ってことさ。」ラセルは狭い穴の中でポンと彼の頭を叩いた。「夜になれば兵士もここまで出てこないし、明日から兵隊さんたちは帰省を始める準備で忙しいから、穴の外で寝よう。二人でこんな狭い所でくっついていると、お釜でもほりかねん。」ラセルは外にでると、指笛を鳴らした、その音はどこかの動物の声に似ていた。そして方々から同じ声が届いた。


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