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山賊


 ギョロは心地よい放出感に捉われていた。うつらうつらとした浮遊感のような中で、時折訪れる射精の感覚。それが止むことなく連綿と続いていた。


「流石に若いと出が良いねぇ」壊れたスピーカーから流れてきた声がギョロの耳に微かに聞こえた。しかし、その声は頭の中に留まらない。彼は深い快楽の深みから抜け出すことはできないままだった。


 ギョロはベッドの上に寝かされ、彼のペニスには搾乳機のような装置がしっかりとはめられ、その他にも多くの機械が彼に接続され、点滴が打たれていた。


 そんな彼の居る部屋にあるスピーカと有線でつながっているマイクのある部屋には、彼を山から担いで来た万屋の男と、白衣の男がテーブルを間に挟んでいた。マイクの電源を切り忘れたのか、ギョロの部屋ではその会話が筒抜けになっていた。


「ドクター、ほどほどにしないと、こいつ廃人になっちまうぞ」強く響きのある声。


「なに言ってんだ。人口が少ないここじゃあ遺伝子の多様性をもたらすためにも、元気のいい種が沢山必要なんだ。絞り採れる内に沢山採取しないと、今度何時活きの良いのが取れるか見当も付かないんだぞ。でもよう、ほんにこのお兄ちゃんは、この装置を気に入ってくれているみたいだねぇ、いひひ」


「せめて愚連隊のやつらもこれくらい生きのいい種が取れるとよかったんだがね」


「けっ、あの種無し犯罪者どもが!」


「しょうがないさ、戦地での任務と断種を条件にシャバにでられるという身分だ」


「本営のやつらは拉致できないのかい、あいつらは元気だろ」


「無理無理、警戒が厳しすぎる」


「もっと色々な遺伝子がプールできれば欲しいもんだよ」


「平和になれば、活きの良いのがもっと合法的に手に入るさ」


「そうなってくれるといいな」


「ドク、俺はまだ巡回する所があるからもう出かけるけど、後は細胞の採取ぐらいにしておけよな」


「ああ、結構絞れたし、ここはラセルの旦那の言う事を聞くかね」


 うつらうつらした時間の中、ちくりと痛みが走ったような気がした。まぁいい、気持ちがいいから…ギョロは、混沌とした意識の中をうろついていた。



□□□□


 馬を駆ると気持ちが昂る。ラセルは、短い丈の草が広がる草原を走った。ここの住民としての生き方も、ここに攻めてくる地球人たちの生き方にも不満を覚えていた彼が、居ついたのは自由な草原だった。戦争は、どちらにもつかない彼や彼の仲間たちに情報というものを売り物にすることを教えた。もっともドクターは巡回医師の肩書をうまく使って、遺伝情報を売って歩いて小銭を儲けている。


だが、彼にしろドクにしろ、ここの住民からも地球人からも馬賊または山賊と呼ばれていた。万屋と呼ぶのは、あそこの愚連隊のやつらぐらいだ。そもそもあの連中には軍隊としての意識が全くない。むしろあそこの連中こそ軍服をきた山賊というにふさわしいなと彼は思った。それだけに親近感もなぜか湧いてしまうのだろう。


 愚連隊連中が守っている山から離れた小高い丘、そこには彼の仲間達が厚くて丈夫な生地で作られた低く大きなテントの回りで休息を取っていた。彼は、一人の少年の前で馬を止めた。


「こんにちわ、ラセル」馬の手綱を受け取った少年が笑みで挨拶をした。


「よう、ミケ元気か?」彼は、馬から降りると少年の頭をぽんとたたいた


「ええ、もうだいぶ良くなりました。」


「よかったなぁ、愚連隊の連中もいいものを売ってくれたもんだ、まさかここで抗生物質が手に入るとはねぇ」


「あいつら仲間にした方がいいんじゃないんですか?」少年は、馬の首を撫でた。


「無理だろうなぁ」彼は、天幕の横で長いキセルをふかしている老人に目をやった


「なぜです?」少年は、馬をなで続けていた。


「あいつらはもともと根っからの犯罪者だ。そもそもどういう形であれ縛られるのを一番嫌う連中さ」


「ここは自由じゃないですか」


「ああ、自由さ、でも俺たちには俺たちの法もあるだろ?」


「だって、それがないと規律が保たれないじゃない」


「やつらは自分自身がその規律なんだよ。規律がある世界では生きられないのさ」


「なんか理解できない奴らですね」


「でも、楽しいやつらでもあるさ」ラセルは、にこにこしながら老人の傍に来た。


「やあじいさん元気かい」


「元気な年寄りがいるもんかい」老人は、ふうと煙を吐いた。「今日は何の用事だい。俺の顔色を伺いにきたわけじゃないだろ」


「いや、半分はその通りだな」


「で、残りの半分は?」


「のこりの半分は二つある。」


「さっさと言え。」


「チップを埋め込んだやつが居る。」


「ほう…珍しいな、どこで見つけた」老人は、煙管を手で持ち彼を指すようにした


「愚連隊に来ていた、記者と名乗るガキだ」


「ガキ?ねぇ。普通そんなものを埋め込んでいるのは海賊と相場が決まったいるものだが…ガキかぁ?」


「ああ、少なくともまだ20代だな。海賊ねぇ、やわでとてもそんな風に見えなかったがな」


「何か、情報収集・・・いや海賊は地上でもの盗りはしねぇはずだ。落ちてきたのじゃねぇかな」


「落ちて?宇宙からかい?死んじまうだろ普通」


「たとえだよ、たとえば脱出ポッドとかでだ」


「へまこいたってことか」


「若いやつならへまなんていくらでもこくだろ」


「すると最近の地球軍の物資の強奪したやつらの一味か」ラセルは軍隊の輸送艦の荷物が盗まれ続けていることを思い出した。


「おいおい海賊にかかわるとろくな事にならんぞ、興味を持つのはやめておけ」老人は唾をぺッと地面に吐き出した。


「たしかにそれは言えるな、仲間でも降りてきたら大変だ。」


「で、もうひとつの用事ってのは?」


「いや、たいしたことじゃない。最近面白い情報はないかなと思ってね」


「面白いかどうかわからんが、遊郭に浮舟というかなりの手練れがきたらしいな」老人はニコニコしながら答えた。


「美人か?」


「美人で床上手って噂だ、俺のイチモツが働いてくれるなら見に行ったところだがね、ただ。一癖ありそうな女みたいだって話だ」老人は大きな笑い声を立てた。


「一癖?なんかおかしなプレイでも好むのかな?」ラセルは、頭を傾げた。


「おまえなぁ、溜まっているならついでに会いにいって確かめてこいよ。」老人は、再び乱杭歯を見せた。


「それもいいな、で一癖って本当はなんだい?」


「なにか探りを入れているようだってことだ」老人は声を潜めた。「将校の盗聴器代わりか、あるいは潜入MPかもしれん。さらに言えば、フリーの記者と一緒に第5中隊に現れたそうだ。その記者がお前のいう小僧かどうかは解らんがな」


「残念だが、彼女は俺の好みではなさそうってことか…あるいは記者のガキに訊けば浮舟とかの正体が分かるかもしれねぇってことかもな」ラセルは、連れてきた若造が思いも掛けない上玉かもなと、心の奥底でにやりとした。


「だろうと思うな」老人は、ふぉふぉと笑った。「それよりお前、軌道クレーンが降下してくる情報を解放軍に売っただろ」


「もちろん、高く買ってくれたぜ、そして愚連隊さまにも解放軍の襲撃があるぞと情報を売ったぞ」


「そのうちどっちからも寝首をとられるのじゃねぇかね」


「それが俺たちの商売だよな。じいさま、山賊なんかにだれが心底に好意をもってくれるかよ」


「だがな、あの情報はまずかったようだよ」


「なんでだい?」


「そもそも、俺たちから解放軍に渡るようにしくまれた可能性があるみたいでな」


「おいおい、その情報を仕入れたの爺様の密偵じゃないか」


「そいつが、さらに探りをいれたら、クレーンで降りてくるのは金目にものでも武器でもねぇってことだ」


「空荷かい、囮の?」


「それなら、可愛いものさ、軍のお偉方はもっとえげつないことをお考えんでな、刑務所から出てきた兵士も反乱軍もお気に召さないようだ…クレーンで降ろしてっくるのは、おっきな爆弾という噂だよ」


「この商売もそれで終わりってことか」彼は空を見上げた。風が白い雲を流してゆく。ひとつひとつ、ちぎれてては、遠くへと飛んでゆく、その風が心地よい。奴らも、高地で博打ばかり打っている奴らもあれを見上げているのだろうか。


「さて、俺もアジトに帰るわ」


「沢山死者が出るぞ、放っておくのか」


「わからね、ただ死ぬために銃を持っている連中だ。銃を持っている時点で屍になる覚悟はできているだろう」



 ラセルがドクターの元に戻ってみれば、奪ってきた記者がぼんやりと星を見上げていた。右手が股間でしきりに動いている。左手にはなにかを持っていた。すっかり正気を失ったか…博士、あんた度を過ごしたな。


 小さい声が聞こえた。記者は、ただぼんやりとして声は出していない


「…掴んだ…いつも」誰かの声だ。


 足音を殺して、そっと記者の背後に回った。左手のものは手の中にすっぽり隠れて見えなったが、そこからは青白いホログラムが再生されていた。裸の女性かと思いきや、男の顔が映っていた。男はひたすら同じメッセージを語り続けている。


「記者さんや」彼はギョロに声をかけた。


「なあに」ギョロの声は、どこか間の抜けた感じがした。相当やられたな。


「気持ちいい装置を貸して。ねぇ、お願い、一回だけでいいから、もう一回だけで止めるからさぁ」


「だめだ。本当に廃人になる。」


「大丈夫だからさ、大丈夫だよ」彼は、性器をだしたまま両手をふりまわしてみせた。左手に持っていたホログラムの光が線を描く、それがぱたりと暗くなり代わりにオーロラがゆらめき始めた。ラセルは唐突にギョロの左手を掴んだ。


「これをどこで手に入れた」


「途中でみつけただれかの遺体の持ち物だよ、おかしなライターなんだ」ろれつが、まわっていないような声を記者は出した。



「貸せ」と言うとラセルは無理やりギョロの手からもぎ取った。スイッチを入れると赤い炎が立ち上がった。「さっきのはなんだったんだ…」


「ミリア…やっと尻尾を掴んだみたいだ。報告書はいつもの所にある俺にもしものことがあったら、それを…覚えちゃったよ、ねえ、装置使わしてよ。あのへんなおじさんどこかに行ってしまったんだ」ギョロは、ラセルにしがみついてきた。


「ミリアだって」


「ああ、もしそれを再生するなら電磁場の影響がとどかないところじゃないとね、もう今はだめさ」ギョロは、空を見上げた。オーロラが空にたなびき始めていた。「もう、あれ使えないの?」


「俺には操作はできない、それよりこれを持っていた死体はどこにあった?」


「わかない、遠く、遠く…ここまで来るのに何日もかかるようなところ」


「近くにあったポールの番号は?」


「そんなのなかった」無いとなると、交通の空白地帯だ。


「愚連隊の所に帰るぞ」


「ねえ、俺おかしくなったのかな…頭ん中、もやもやして出すことしか考えられない」


「まだ大丈夫さ、帰ったら本隊の娼館にいってこい、そうすればだいたい正気に戻る」


「そうかな…」


「今なら浮舟って女が良い腕をしているとのことだ」


「ああ、アリスさんかぁ」


「アリスだと?浮舟はアリスって奴なのか」


「そうだよぉ、軍にいたの…綺麗で銃が上手くて、あの人なんか調査するとか言ってた」ラセルは、暫く黙った後に、ギョロの手を引いて馬の元にやってきた。


「ねぇ、待って・・・」と彼はポケットからひしゃげた弾丸を取り出した。軍とは関係なさそうな、万屋なら何か知っているかもとふと思ったからだった。


「これ、判るかな?」


「突撃銃じゃあないな、ハンドガンのものだろう」ラセルは面倒くさそうに答えた「一般兵士は持っていないがな」


「じゃあ、古関さんとか?」


「あいつも持っているはずだ」


「それより乗れ」ラセルは、馬の鞍をぽんぽんと叩いた。


「え?」ラセルは、きょとんとしたままだ。


「いいから、乗れ」と彼は自分の両手を組んだ「ここに足を掛けるんだ」

 ギョロがその通りにすると、ラセルは腕を上げてギョロを高く跳ね上げた。ぎょろは鞍に這う様に乗り上げてしまった。


 続いてラセルも鞍にあがった。自分の前にギョロをきちんと跨がらせると。


「愚連隊の基地に戻るぞ」と言うと、馬を走らせた。


 ☆


「なんだって!」古関はテーブルをドンとたたいた。


「最近掴んだ情報でな」ラセルは、椅子に座ったまま脚を組んでいた。ここで話す、万屋としての口調が変わっていた。


「明日、降りてくる荷には、食糧も給与も武器もねぇ。いい情報だろ?幾らで買う?」


「しかし、ここは守らないと」古関は、腕を組んだ。


「お堅いことで、じゃあもしクレーンから降りてくるのが爆弾だとしたら?」


「なに?爆弾?」


「あんたがたのお偉いさん達は、元犯罪者の兵士も反乱軍もすっかり綺麗にしてからここを去りたいらしい」


「俺たちにそう信じさせて、体よく追い出して、反乱軍にここを渡すつもりか?」


「そう解釈してもかまわんがね。」


「どれくらいの規模の爆弾だ?」


「そこまでは流石にね、ただ今回はこの万屋さんも体よく利用されちまったみたいだ。おいしい情報を流してここで互いに戦闘を行わせ、始末したい輩が勢揃いしたところでドカンってね…」


「しかしなんでそんな情報がお前のところに来るんだ」


「情報収集にかけては上には上がいてね。まぁ今回は後払いでいいさ」彼は席を立った。

「これを偽情報とみて、ここに居るのも、逃げるのもあんた次第だ。ただ逃げた場合、行くところはないぜ、帰る船にあんたたちの席は用意されていない」


「いや、まさか」


「なぁ、あんた達ならいい稼業があるぜ」


「ゾンビーか?」


「体が丈夫ならその必要もないだろ、もし命を拾ったら俺を見つけてくれ」


「万屋さんどこですかってかい?」



「馬賊をみつけてラセルさんって言ってくれればだいたいわかってくれる」


「お前、馬賊だったのかい」


「別に盗みだけが商売じゃあないさ、俺の見た目では、あんたらは良い馬賊になれる」


「そういや、ここにミリアって女が居なかったか?」


「ああ、弁当売りで来ていたが、銃撃戦のあった日に流れ弾に当たって死んだ。知り合いか?」


「まぁな、最近見掛けないと思ったら、そうか・・・」


「墓地に行けば逢えるぞ、爆弾でここいらが破壊される前に遺品でも持って行け」


 彼は部屋を出て行った。そして闇夜の中で酒を酌み交わし博打に興じる男たちの間を抜けて人気のない山腹に出た。木が切り倒された見通しの良い場所は、一人、一人と銃弾に倒れた兵士を埋め、墓標を立てる度に広がっていった所だった、切り倒された木はそのまま墓標となり銃剣で平らに削った面に名前が刻みこまれていた。その一本、一本の名前を確かめながら、彼は墓標の間を歩いた。そしてそのひとつの前で足を止め、しゃがみこんだ。

 墓標にはミリアと刻まれていた。


「誰だ?」明かりを持った男が誰何した。


「おれだよ、おれ」彼は両手を振ってみせた


「なんだ万屋、墓地で糞でも垂れていたのか」相手の顔がよく見えない


「いや、知り合いが、いつの間にかお世話になっていたようでね、挨拶をしにきたんだ」明かりが、墓標に刻まれた文字を照らした


「ミリアさんか…あの人が売りにくる弁当はうまかったな、それに優しい人でね、この墓地に来ては、関係ない俺たちの仲間の墓に墓参していたものだよ」


「ああ、料理が美味かった」もっとも食べたことなど無かったが、ミリアという女と、リシャオという男がここで情報を得ようをしているのは、以前から察していた。しかし、自分達の活動には影響が無さそうだったので、放置していたまでだった。


「そうだったのかい、ミリアさんは、この前の銃撃戦の時に流れ弾に当たって死んじまった。誰か知っている人がいれば、遺体を渡すつもりだったが、こんな場所だろ、仕方ないから俺たちで葬らせて貰った。」


「ありがとうな」ラセルは、じっと墓標を見続けていた。「こいつの遺品とかあるかい?」


「ああ、持っていたものは、一緒に埋めてあるよ。少し掘れば出てくる筈だ。リシャオと仲がよかったが、同じ日に死んだのもきっと縁が深かったのかもな」



「おい、八丁堀!小隊長が招集をかけているぞ、大事な話があるそうだすぐ来い」別の声が明かりを持った男の背後からした。


「わかった」明かりを照らした男は、じゃあなと言って戻っていった


 さて、小隊長さんはさっそく腹をくくったかな、彼はそう思いながら、暗がりに溶けてゆく男の背中を見つめていた。


 その姿がすっかり見えなくなると、杭のような墓碑銘の周りを素手で掘った。するといくつかの遺品と思われるものが出てきた、小銭入れ、空になった煙草の箱、小さいナイフがあった。


 小銭入れを漁ってみたが、僅かな小銭以外何も無い。


 墓地に暫く立ったまま、ラセルは林立する墓標を眺めた、杭のような棒の表面が削られ、名前だけが書いてある墓標、中には名前の無いものもあった。敵か、俺たちのように金蔓を探しにきた山賊の類いか?


 ただ、そんな殺風景な墓地の中に、ひとつだけ、瓶に枯れた花が挿されたままの墓があった。


 ラセルは、その墓の墓標をぐいと引き抜いた、それはいとも簡単に引きぬけた。するどく削られた先端の少し上には穴が開けられ、そこに金属性の円筒がはめ込まれていた。


「チタンのマッチ入れか」ラセルを小声で呟いた。蓋を開けて中身を全て掌にあけると、マッチが5本ほど出てきた、そのひとつは、マッチに見せかけて作ったものだった。

 紙を強く巻きその先端に丁寧に頭薬まで付けてあった。その紙を広げると小さい字が並んでいた。


「まいったな…いまさら伝書鳩でもしろってか」彼は小声でいうと、紙を元のように戻して筒に入れた。「しかし、うまくいけば良い仕事になりそうだな」



 ラセルは人気のない陣地に戻った。ひとりぽつねんと、ギョロが座っている。横に座ると痛みを耐えるように大きな目をさらに見開き、下唇を歯でかんでいた。右手がこぶしを握っていた。ひたすら耐えているのだろう。



□□□□


「記者さんよ、お前名前はなんていうんだ」ラセルは、兵士から離れてぼんやりしているギョロに声をかけた。


「井部 健二」


「いや、海賊名だ」ギョロは、返事をしなかった。


「首に埋め込まれたチップを取り出してやろうか」


ラセルの言葉にギョロは思わず手を首においた。


「誰にも言うつもりはない」そんな仕草を見てラセルは笑みを見せた。


ラセルの言葉に彼は、そうか海賊とばれてしまったのかと、視線を地面に落とした。アリス以外にも秘密が漏れてしまった。


「ギョロっていう、大きな目だから」


「お前、落ちてきたのか?探りにきたのか」


「落ちた…」ギョロは空を見上げた


「やっぱりな、どうだ成果はあったのか?」


ギョロは首を横に振った


「全滅した。襲撃は失敗したんだ。たぶんこちらの情報が洩れていたんだ」


「そうかい、でもここには兵站は届いていない、軍はお前らに奪われたと思われているがね」


「他の海賊に盗られたのじゃないかな、ウチはもともと弱小でさ兵器も船もボロいから失敗することが多いもの」


後ろで足音が聞こえ、二人は振り返った。


「記者さんいたのか」イカサマが来ていた


「ええ」ギョロはうなずいた。


「間もなく、ここは死体の山になる。これから山を下りる者と一緒にいけ。お前は軍の関係者ではないから、脱走兵扱いにはならないしな」


「イカサマさんは?」


「おれなんかどのみち、行く場所さえねぇ。どうやらここが俺の墓場になりそうだ」


「残るのか?」ラセルはイカサマを見上げた


「ああ、なんか逃げるのも癪でね。俺はここで最後まで責務は全うすることにした。そもそも恩赦を受ける際の契約でもあるしね。人やサイコロをだましてきたが、最後くらいは、契約ってものぐらいは守ってやるさ」


「なんでだ?こんな軍にいて何が契約だ」


「腐っても契約だしね、それにここまで生きて来られるとも思っていなかった。シャバで死ねるなら本望だよ」


「お前は馬鹿だよ。バカ者だ」ラセルは怒鳴りつけた。


「バカだから刑務所行きになったのさ、いまさら言われることでもないな」イカサマは両肩を持ち上げて、両方の掌を上に向けてみせた。


「生きていればまだ楽しいこともあるぞ」


「それは、まだ人生を楽しんでいない奴に言ってくれ、俺は十分楽しんだ」


「あのな…」


「まぁ、もし生きていたらあんたを尋ねるさ、もっとおもしれぇことはないかってね」 

「そうしてくれ」


「記者さん」イカサマはギョロの隣にやってきた。


「はい?」


「これは俺の位牌と思って持っていてくれ。大事な物だし、こればかりは此所で壊されたくないんだ」と二つの賽を渡した


「なにか勝負するときに、出目を祈って振れば必ずその目がでる。そして迷った時にもよりよい未来を示してくれる」


「俺にはないのかい?」ラセルは訊いた


「あんたとは長い付き合いだ。おれとの思い出でもやるよ」


「思い出したくないがね」


「さぁ、二人ともさっさとここを去りな、車の定員にあぶれると徒歩で行くことになるぞ」


 二人は、ズボンについた土を払った。「井部さんこっちだ」ラセルは彼の前に立った。

「あ、荷物を持ってきます」


「早くしろよ」


 彼の後ろ姿を見ながらラセルは、ポケットの中の筒を握りしめていた。掌がうっすらと汗でにじんだ。やがて、ギョロが荷物を背負って駆け足で戻ってきた。


「そういや、お前、あっちのほうは大丈夫か?」ラセルは、申し訳ない気持ちで彼に言った。周りには、脱出を待つ男達が既にトラックの荷台に乗り込みギョロの乗車を待っていた。


「あの快楽はもう忘れそうにないです」ギョロは困ったような笑みをみせた。「正直、ずっと勃起しっぱなしなんです」


「遊郭の女に相談すればなんとかなるぞ、もしその気になって行くなら浮舟という女にこれを渡してくれ」と墓地で掘り出した筒を彼に差し出した


「なんです?」ギョロは恍惚感の中で浮舟がアリスと言う名であると言ってしまったことをぼんやりと覚えていた。これは、アリスに対するものなのだろうか?


「お前さんの治療を依頼する手紙が入っている。」ラセルは、片目をつぶった。


「なんで浮舟さんを知っているんです?」あくまでも、自分が言ってしまったことにしらを切り通す。


「知らないよ、ただ凄腕という噂だ。」ラセルはにやりと笑うだけだ。


「そうなんですか…そんなすごい人なんですか」


「凄腕なら、俺たちがお前さんに与えた病も治せる筈だ、さあ行け」


「さようなら」ギョロは車に向かって歩いていった。


 ラセルは、果たして自分のしたことが、どういう結果になるのかはわからなかった

しかし、勘はアリスをいう女が何者なのかを知っていると叫んでいる。あいつなら、なんとかするかもしれない。それに、あっちこっちをかき混ぜてくれると御の字だ。


□□□□


 ギョロはトラックの荷台でゆられていた。多くの兵士から発散されるすえた臭い匂いが充満していた。


「あの」と隣に居た男に声を掛けた。


「なんだい記者さんよ、俺に取材しても前科の話しかできねぇよ」


「いえ、リシャオさんのことで」


「ああ、あのもやしみてえな記者さんか、それがどうしたんだい」


「どういう状況で戦死したのですか?」


「さぁ、俺も死んだ所は見たことはないけど、丁度軌道クレーンから兵站が下ろされるって時に襲撃を受けてな、もうみんなてんてこ舞よ、それもクレーンの中身を俺たちが掠め盗っていないか、高瀬が部下を連れて査察に来やがってよ。


 戦闘中なんだからちったあ、手伝えば良いおのを、後は任せたとか言って高瀬の奴はさっさと逃げやがってな。戦闘が落ち着いて、後片付けをしてみれば、記者さんの姿がねぇってな…まぁ、兵士だって居なくなるのは良くある話だし、まぁ殺されるか重傷になって、敵さんがかっさらって行ったのだろうって話さ、それぐらい聞いただろ」


「きどうクレーン?」


「軌道上にある兵站用のクレーンさ、軌道エレベータは一発食らえばお釈迦だし、シャトルじゃあ沢山下ろせないし、なんたって、また空に上げるには費用がかさむってね、だから軌道上にある大きなクレーンで宇宙から物資をあげたり下ろしたりしているのさ」


 荷が重く、人であることも考慮したのか、トラックの歩みは遅い。しかし揺られたまま、一晩過ごし明け方を迎えてなお、トラックは休むことをしない。そしてうつらうつらとした頃に、後方の山でひとつの大きな閃光が上がりやがて爆音が聞こえた。


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