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愚連隊


 そこは、前線にある拠点というより、ガラクタと周囲の草木とかき寄せて作った家が立ち並ぶ、バラックにしか見えなかった。高地の頂上の周囲には低い石垣が張られており、男たちが古関と同様に汚いランニングシャツと迷彩ズボンという恰好で石垣に隠れるようにあちこちで小さくたむろしていた。車が彼らの側を通る度に、男達は小さく敬礼をする仕草をしてみせた。


 車は、家々が無い所に止められた。3人は古関を先頭にして歩き始めた。兵隊達は手を止め、興味深そうに3人の列を目で追った。ギョロ達は下の兵舎よりも汗臭い匂いが充満する中を歩いて一番隅にある木造の建物の中に入った。ただしドアはなく代わりに破けたテントを下げていた。中には、通信機らしいものがテーブルの上に載っていたが戦況をしめすような地図などは無かった。古関は通信機の横に腰を下ろした。


「井部さんだったけ?こんな状況なんでな、取材とかしても面白いものは書けないと思うぜ」古関は、片手を左右に振って何も無さをアピールしてみせた。


「俺もそう思うのだけどね」弱目が辺りを見回しながら言った「相変わらず何もないところですね」


「弱目、車で来て土産なしか?」


「ああ、食糧、煙草、弾薬を少しだけ。荷台に乗ってますよ」弱目は、ぶっきらぼうに答えた。「それにしても、いい加減撤退の順番は回ってこないのですかね?」


「まぁ、ここは最後の前線だ。なかなかそうもいかないさ、お偉方はきっといい条件を敵さんから引っ張り出してから撤退したいだろうしな、それにしても毎日小競り合いばかりだが、それでも戦死者は出てきているし補充兵もこない、私もできるだけ多くの兵士を生きて返したいが、下のお偉方がなぁ」


「そうそう、途中で仏さんがいましたよ」弱目は金属の認識証をポケットから取り出した。 


「ああ、林か…最近居なくなったとおもったらやっぱりそうか」古関は、それを受け取って番号を確認すると弱目に返した。


「下に持っていってくれ、こっちにも数枚あるから、まとめて下に持って帰ってくれないか」


「了解。荷物降ろしたら取りに来ます」弱目は、ぱっと出入り口の布を跳ね上げるようにして出て行った。その背を見送ってから古関はやっとギョロに目を向けた。


「そうか、あんたの話だったよな」古関はぽりぽりと首の後ろを掻いた


「取材したいって?」


「ええ」


「若いのにこんな所で何を取材するんだい?この戦争も税金と命の無駄遣いだって、散々メディアでたたかれてて、もうこれ以上出る埃もない有様だって皆知っているぜ。」


「いえ、あまりそういうニュース的なものじゃなくて」アリスは何と言ってたっけ?彼は記憶をほじくりだそうとした。


「えーと何と言えばいいのかな、そう戦場における人の死…生きてきたその証みたいなもの」


「まあいいさ、どうせ反戦的なものだろ。もうこっちも慣れっこだ。ただな、ここは未だ前線であることは忘れないでくれ、何かあったら自分の身は自分で守ってくれ、この前も記者さんが来たが、殺された。」


「リシャオ?さん?」


「ああ、そんな名前だったかな?」


「行方知らずになったと中隊長さんから聞いたのですが」


「ああ、死んだあとで死体がそっくり無くなったのさ。まぁちょっと小競り合いの最中だったんで、死体はそのまま放置していたのだが、終われば死体はどこへやら、ひょっとしたらまだ生きていたけど、敵さんに持っていかれてソンビーにされたかもね」


「それは面白そうなネタですね」


「さあ、面白いかな?ここじゃあ死体になりそこねた連中が持っていかれるのはいつものことだがね」古関は不快そうに眉をひそめた。しかし、その死体は砂漠までもっていかれたんだ。敵に持っていかれたのではない。ギョロは、ふといきなりアリスが求める目的にいきなり当たった気がした。


「調べてもいいでしょうか?」


「リシャオの件かい?」と訊かれ彼はうなずいた。


「リシャオでも林でも好きに取材してくれ、ただここは戦場だということを忘れないでくれ。で銃はあるのか?」


「はい」と彼は小さいデリンジャーを出してみせた


「それはここではおもちゃっていうんだ。」古関は、あきれた


「中隊長にも言われました」かれはそれをしまいこんだ。


「ならいい、もし銃が必要なら言ってくれ、弾は少ないが銃だけはある。」

ギョロはそれじゃ銃の意味がないじゃないかと思った。その顔色を見て取ったのか、古関は太い銃身を取り出してみせた。


「このところ輸送物資が狙われて、弾がないのでね。こいつは、こうやって」そして銃把ではなく、銃身を握り腕を振り上げると大きな音とともに銃把をテーブルにたたきつけた

「使う。」


「そんな…」


「真面目に受け取るな、冗談だ。」しかしテーブルには大きな傷がついていた。「もっともお前はテーブルを叩くなよ。手首を痛めるからな」



「あ、はい」


「なら、適当に取材してろ。行っていいぞ」


「では、お世話になります。」と彼が出ようとするとうしろから声がかかった


「ちょっと待った。」


「はい?」


「お前、金はあるか?」


「まぁ多少は用意していますが」


「そうかそうか、それは良かった。暇があるならここの兵と遊んでやってくれ。」


「え?」


「こんな場所で退屈しのぎには酒かバクチかしかないからな、お前がカモになってくれれば、ここの連中も喜ぶってもんさ」


「博打?」


「ん?知らないのかい?」


「いや、見たことがあるだけで」彼の頭の中に浮かんだのは、稀に襲撃するカジノを偵察した時の記憶だった。


「直ぐに覚えるさ」


「でも、お金をするのはちょっと」彼は、頭をかしげた。なんてことを言う人だ。


「なあにどうせ軍札だろ?持っていても紙になるだけさ」彼は自分の札入れにある金銭のことを考えた。あの記者の持っていた札入れはまだ持っていた。あれは標準通貨だっただずだ。


「ここは標準通貨は無いのですか?」


「そりゃあ、あるさ。でもだいたい武器商人やら地元の闇商人との取引に使ってしまったし、送られてくる標準通貨も海賊にやられてしまったから、ほとんど流通してないぜ、お前、持っているのかい?」


「まぁ、外から来ましたから。少しはありますけど」


「悪いことは言わない、それは隠しとけ。本当に持っていかれるぞ」


「そうします。」


「まぁ、遊ぶならこれでも持ってろ」古関は机の引出を開けるとゴムひもで縛った札を取り出して彼に放り投げた。彼はそれを両手で受け取り、眺めてみた。作りは粗悪なものではない、そして通貨の単位は弾になっていた。


「本来は1弾は1クレジットに価するものらしいがね。だれも交換なんかしてくれないぜ。軍の上層部で予算度外視で闇雲に刷りまくったらしいからな。まぁ無事に帰れば俺たちの口座に給料は入っている筈だから、その紙は子供銀行のお金みたいなもんだ」



「なんか有難味が無さすぎますね。」


「なんなら、ケツを拭く紙にしてもいいぜ。丈夫だから洗えば何回でも拭ける」彼はドキりとして紙の匂いを嗅いだ。汗臭い匂いが鼻を突いた


「おいおい、いくら俺でもそれはしない」古関は、苦笑いをしてから時計をみた。


「おっと、夕方のブリーフィングの時間だ。お前さんは適当に取材でもしてくれ、皆にはブリーフィングであんたの事は周知しておく。」


「ありがとうございます」


「何がだ?別にあんたに協力するつもりはないし、皆にそう言うつもりもねぇ。むしろ逆だからな。」


 古関は、彼の横を素通りして外に出た。日没が始まり、オーロラが上空に輝いているのが見えた。その明かりを背景に古関は振り返った。


「そうだ、お前さんの寝床だが、リシャオが寝ていた小屋がある。入り口を板で塞いであるからすぐにわかるが、板は自分で剥がしてくれ。そんな事のために多忙な部下を割けないいからな」


「小屋はどこですか?」


「ここを出て左だ。すぐにわかるさ」遠ざかりながら古関は答えた


小屋という言葉を当てはめて良いものか、彼は首を傾げた。しかし辺りにある幾棟もの木と石でできた家のどれにも入口を板では塞いでいなかった。うろうろしていると山の頂上に背丈より大きな土と岩でできた盛り上がりの側面に板が打ち付けてあった。しかし地面すれすれの場所で一辺50センチほどしかない。どうなのかなと思いながら板を取り外すと案の定というか匍匐して進まなければ入れそうに無いほど狭かった。そして全貌をみても外からは明り取りらしいものさえない。


 ギョロは両肘を付いてその狭い入口に頭を突っ込んだ。奇妙な事に先は真っ暗ではなく微かな明かりに満たされていた。彼はずるずると前進をした、そしてちょうど体一つ分進んだ所で頭が広い空間に突き出された。さらに進み完全に中に入ると彼の背丈より低い空間があった。座るか寝るかのどちらかしか出来ないが、一人分が縦でも横でも寝られるくらいの広さがあった。

 そもそも、どうみても生活する場所ではなさそうだった。以前は何かの倉庫にでも使っていた場所に寝泊まりしていたのだろうと彼は想像した。


 光源は天井にポツンポツンと不規則に見られた。そこを手でなぞると樹脂かガラスでできた透明でつるりとしたものが指先に触れた。しかし、いずれにしろその光源ではかろうじて部屋の広さまでは分かるがその細部まで確認しようがなかった。彼は再び外に出ると置きっぱなしの荷物を押し込むようにしながらまた部屋の中に戻った。薄明りの中で荷物を漁り懐中電灯を取り出すと、スイッチを入れた。


 部屋を形づくる土や岩の壁は、まるですり鉢の内面のように凹凸の筋が縦横に走っていた。内部は綺麗な四角形にはなっていなかった。いびつな四角形だ。それは壁龕のような凹みがところどころにあるせいなのかもしれない。壁に穿かれた幾つもの壁龕は小さいものや大きいものまで幾つもの異なる四角だった。彼はひとつひとつその四角形の壁龕を照らしてみたが、ただの穴にすぎなかった。


 何れにしろ、暫くはここで寝起きすることになる。彼は、バッグから息を入れて膨らませるマットと寝袋を取り出してそれを床に敷いた。その時遺体から掠めたライターと煙草がころりと出てきた。宇宙ではご法度の品が出てきたのも何かの縁かなと、煙草をくわえてみた。臭いが甘い香りが鼻孔をついた。甘い味でもするのだろうか?とライターを動作させてみると。いきなり立体画像が宙に現れた。そこにはあの遺体だった男の生前の姿が映っていた。場所はどうやらここらしかった。


「ミリア…やっと尻尾を掴んだみたいだ。報告書はいつもの所にある俺にもしものことがあったら、それを…」


「なんだこれは?」彼は、もう一度ライターを動作させた。やはり同じ短い映像が出ただけだった。


 奴は、なにかを探っていた。そして報告書か…あの死体の有様からすると、どうやらその報告書とやらはもう盗られたのかもしれないな。

 彼は煙草を箱に戻した。ふと思い立てって彼はもう一度映像をみた。なぜ、これが動く?見た目は電磁場に対する保護はなさそうにみえた。それどころかボードがむき出し同然の安物だ。彼はまた映像を見た。ミリア何者なのだろう、リシャオはここで録画をした。たぶん壁龕のどれかにこれを置いて録画をしたのかもしれない。そうか、この場所なら電磁場の影響を軽減できるはずじゃないか?


 彼は、ライターを持って外にでるとそれを動作させてみた。出たのは煙草に火を付けるための炎だけだった。

 単に安物というものではなさそうだ。巧妙に記録した情報が見れないようになっているのだ。これを見るのに必要な場所を持っているとすれば、情報機器をなにより大事にしているところとなる。しかしこの惑星のどこにそんな場所があるというのだ?もしあったとしてもそれはここじゃあない、空のはるか上の参謀本部だ。


「井部さん」突然声がかかった。「火遊びはしない方がいいよ」声の方を見れば弱目が手に沢山の認識票をぶら下げていた。


「敵さん、火を狙って銃弾とか矢とか打ち込んだりしてくるからさ」


「ああ、そうですね」彼は、ライターを持つ手を下した。


「俺、もう降りるけどなにか下に言伝とかあるかい?」


「来たばかりなんで、特にないですが」


「そりゃ、そうだね。ここ前線だし通信手段が無いから、たまに俺の様な使いが来たときにあれこれ言伝やら、手紙とか預かる事になっているんだ。じゃあね」


「あ、弱目さん」



「ん?何かあるのかい?」


「言伝って、リシャオさんから何か頼まれたりすることありました?」


「お、早速取材かい、でも俺は頼まれた事ないなぁ。他にもここに来るやつはいるから訊いてみようか?」


「お願いします」


「まぁ、下の方は結構暇だしね。そうそう、ここの食事は缶詰しかないからね、がっかりしないように」


 弱目は足早に去ってゆくとやがてエンジン音が響いた。それも次第に遠ざかり、静寂が訪れた。彼は、オーロラの明かりの下でライターを見ていた。これはアリスに知らせるべき情報なのだろうか。


 彼は、しばらく考えに耽ってその姿勢のまま立っていた。


「記者さんや飯に行くかい?それとも持参してきたかい」静寂を破ったのは古関だった。

「あ、用意していないもので」彼は、ライターをポケットに押し込んだ


「じゃあ食糧保管庫に案内するよ。いつもこの時間に配給するんでね。」古関はポケットから懐中時計を取り出して時間を確認した。「井田さんだっけ?」


「井部です」


「ああ、そうだっけ。あんた時計は?見たところ腕時計はあるようだけど今は何時になっている?」


「えーと」と彼は時計を見た。しかし盤面に見える数字は明らかに朝の時刻だった。


「朝になっている…」


「だろうな、各惑星の標準時に合うようになっている時計だろう」古関は、彼の時計を覗きこんだ。世間では一番よくつかわれる時計だ。一日の長さは惑星によって違う、当然24時間であるわけではないし、時刻の基準はどこに行ってもセシウム原子時計の振動数で決まってくる。そこで普通の惑星では電波により自動的に一日の時間と緯度に合わせた現在時刻を送信してくる。しかしこの惑星では、それがでたらめなのだ。いや、そもそもそれも無いかもしれなかった


「こんな役に立たないものを持ってくるとはね」


「ああ、確かに…」自分の持ち物がこれほど役に立たないとは思わなかった。そもそも作戦では決められた周波数で時間合わせができるようになっていて、惑星標準の仕様は組み込まれていない、ここに降り立ってから時間を気にしたことさえなかった。アリスが彼の時計そのものだったからだ。


「ここで、飯の時間に遅れると食いはぐれるぞ。朝食は朝の5時だ。時計がくるっているなら、周りの物音に注意していろ。」


「そうします」彼の返事にうなずくと、古関は行くぞと言って歩き始めた。


 食糧倉庫は、レンガ造りの小屋だった。そこに男たちが列を作って順番に掌大の缶詰を受け取ってはどこかに消えて行った。彼と古関の順番が回ってくると、デニムのエプロンをつけた太った男が両手いっぱいに缶を抱えていた。古関はそこから二つの缶を取り一つを彼に渡した。


「新兵かい?」太った男が訊いた。


「いや、記者さんだと。」


「へー、んだばここの食糧事情でも書いてくんねか?もうこんなものばっかだすけ。」 

「…だ、そうだ」古関は男の不平を無視するように言った。


「だ、そうだじゃねぇ、めしねぇとモチベーションがあがんねぇだろ」


「そんなこと言ってもよう、石井さんよ。みんな運ぶ途中で宇宙で海賊に盗られてねぇものはねぇんだ、あとは撤退してゆく部隊からおこぼれをもらうしかねえんだよ。」


「わがっているけどな。でもよう。」石井は次から次へと缶を渡していた。貰った兵士は、どこへともなく去ってゆく。


「な、別にレーションが直ぐに尽きるわけでもないんだ、あるだけマシと思ってくれよ」

「ああ…」石井は未だ何かを言いたそうな顔をしつつも、会話を続ける事をやめた。これ以上言っても無駄だとわかっているのだろう


そして二人は食糧倉庫から離れていった。


 ぼんやりとした明かりの中で、古関は仕事があるからと自分の小屋に戻って行った。彼は、缶を持ったたまま流石にあの洞窟の中で食べるのは辛いかなと思い、しばらくあちこちをうろついた。周囲にめぐらされた石垣の内側のあちこちで兵士達は缶の蓋を開けスプーンで口にかきこんでいた、この時間が楽しいのか時折笑い声さえ上がっている。自分で何か調理をしたのかスキレットに口をつけている奴さえいた。


 彼は、そんな兵士達の食事をしている姿を眺めながら、スプーンをあの部屋の荷物にいれたままであることを思い出した。結局あそこで食べることになりそうだった。


「おい、あんちゃん」と声がした。自分の事じゃないだろうと無視していると


「おい、なに無視すんだよ。記者のあんちゃん」と険悪そうな声色が響いた


「私ですか?」彼は振り返った。石を積んだ壁に寄りかかるようにして何人かの男達が缶の蓋を開けて中のものを食べていた。


「そうそう、お前記者だろ。夜のブリーフィングで話が出ていたにいちゃんだろ」


「ええ、まぁ」彼は、男を見た。短く刈ったのか薄毛なのか、卵のような顔立ちには頭髪はあまりなく、それを補填するかのように、もみあげからあごにむけてひげがたっぷり生えていた。


「まぁ、こっちで一緒に食おうや」男はおいでおいでをした。


「でも、スプーンが無くて」彼は、すこし歩みよってから言った。


「おや、レーションを喰うの初めてかい?」


「ええ」


「なら、なおさらだこっちに来な、教えてやっから。ここは戦場だぜスプーンよりは弾の一発でも持っていろという所なんだ、だれもスプーンなんか持っていねぇよ」


 彼は、男の傍にやってきた。汗臭いすえた臭いが漂っている。

「お前の缶を貸してみな」と言われ彼はそっとそれを差し出した。男はプルタブを起こして蓋を持ち上げた。すると中央にスプーンの形をした蓋の一部が取り残された。蓋を完全に取り外し、まだ本体につながっているスプーンの形をしたものを起こすとパキンという音とともにスプーンが外れた。男はスプーンを手にすると彼のレーションをすくって一口食べてしまった。


「大丈夫、腐っていないようだ」


「腐っている事があるのですか?」彼は生真面目に訊いた


「お前、面白いやつだな」男は、にやりと笑って缶を彼に渡した。それを受け取り中を見れば、ライスと何かを混ぜたようなものだった。彼の住んでいた船ではこういうものを猫飯と呼んでいたものだ。

 見た目はとても悪いものだったが、前の男が食べたのを見れば食えないことはないということか、彼は手にしたうすっぺらなスプーンでそれをすくって口に入れた。辛い味付けだったが、あの口の水分をもっていかれるウェハースとスープに比べればはるかにましなものだ。彼は空腹も手伝ってか一気にそれをがっついた。


「うまいだろ」男は、彼の食べる様子を見ながら言った。


「病院でくわされたウェハースに比べればはるかにましです」しかし、下で食べた暖かい食事に比べれば遙かに劣る。


「ああ、カラーか、あれはひでえ。お前病院にいたのか?記者やって撃たれたのか?」彼は、しまったと思った。さすがに海賊をやっていて着陸したときに腐ったものを食べたとは言えない。嘘をつくのが下手なのも自分で承知しているくらいだ。


「いえ、ここに来たときに体調を崩して・・」


「何かへんなものでも食ったんだろ、ここのは植物をはじめ毒性が強いのが多いからな…ま、それを加工するとすげー薬になるらしいんだがな。腹減ってもここの惑星のものには手を出さないに限るぞ」


「でも、ここの移住者はよく生きてますね」


「毒抜きの方法があるらしいせ、もっともそれでも毒は残っているから、ここで暮らすやつら短命とのことだ。だから死者を使って使役するんだ。そうでもなければ労働力が慢性的に不足してしまう」


「死者をね…どうやれば死者が生き返るんだろ」彼は、それが不思議でたまらなかった 

「正確には死者ではないな」男は首を横に振った。「死に損ないだ。それを加工して考えることもしない、痛みも感じない兵士ができる。その秘密を知ることは出来ない。できていれば宇宙軍の親分たちは一度俺たちも半殺しにしてから作り変えるに決まっている。そして今頃おれたちは死者の部隊になってここで勝利を収めているぜ。ま、もうちと辛抱すれば生きてここから出ていけるがね。負けても生きていた方がなんぼかましだ」


「そうですね。生きてさえいれば友人にもまた会えるでしょうし」彼は、宇宙で失った友人たちのことを思い出した。かれらとはもう会えない。


「記者さんや、あんた何を探しきた?」男の口調がやや硬くなった。「ここはまもなく停戦するのは誰でも知っている、不死者の軍団も、ここでしか取れない薬のことも周知のことだ、今更なにを調べに来た?」


「決めていません」彼は、さらりと言ってのけた自分に半信驚いた。どうやら男の軽い口調に乗せられてきたせいみたいだった。「こんな半人前ですから、何かを目的としてきたというより、ネタを探して来たみたいなものです」彼の言葉に男は一瞬戸惑ったようだった。


「こりゃいいや、バカ正直なのか、ポーカーフェイスがうまいのか、でもブリーフィングで小隊長から人の生き死にとかについて尋ねられるかもしれないと俺たちは言われたがね、何か思うところでもあるのだろ?」


「いえ、本当の所なにかテーマがないと追い返されるかなと思いまして…」思えばアリスにそういわれただけで自分が何をここでやればいいのかなのんかさっぱり分からないのだからしょうがない、自分に素直に従えばそういうしかなかった


「若いの、おもしれえ奴だな…ひとつ教えてやろうか。」


「?」


「リシャオはここの誰かに殺されたんだぜ」


「!」


「やつは海賊に盗まれた俺たちの給料や兵站を追っていた。そして何かを掴んで殺された」


「海賊の一味がここに混じっている?」自分もまたそうだっただけに、もし兵站を襲うならば、そこに誰かを潜入させるか、金で軍の誰かを買収し、情報を仕入れるかするだろうと思いつつ言葉にした。


「さぁ、そこまでは俺にはわからんな。ま、こんな後ろ冷たい奴らの集まりだけに、海賊ぐらいなら居てもおかしくはねぇや、」男はにやりと笑った。「ここの部隊は小隊長も含めてちょっと前まで刑務所に居たやつらばかりでな、恩赦欲しさにここに来たってわけさ、この前線から出してもらえねぇのもそんな訳があるからな」そんな事を言われて彼も実は俺も海賊で…とか言ってしまいそうなのを飲み込んだ。


「じゃあ、だれがリシャオさんを殺してもおかしくはないと?」


「誰とは解らねぇが、みんなすねに傷を持つものばかりだ、痛い所を突かれれば、殺意も鎌首をもたげるかもな、ここはそんな環境ってことさ」


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