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子供の記憶

作者: 仮住 淀


大人になるにつれて、

あらゆる物事に対しての慣れからなのか、

それらに抱く感情の刺激は薄れていくように感じる。



それに比べて、

毎日の何もかもが新しかった子供の時代は、

何もかもが刺激的なものだった。



初めて見る映画だったり、公園に落ちているエロ本だったり、何もかもが大人になって感じるよりも刺激的だった。


それは、真っ白で何もない心に新しい感情の回路を構成しているようだった。


それは時には強い痛みを伴った。

刺激が強すぎて子供心に深い傷を負わせる記憶も多々ある。



恐ろしくて、二度と思い出さないようにと蓋をした記憶…



あれは、

確か僕が小学校に入りたてくらいの時だ。

その時は確か夏休みで、

僕が住んでいた地元と他県の交流の一環で、

僕の家には2人のホームステイの子供が泊まりに来ていた。


彼らは2人とも小学校三年生で、

当時の僕にとってはとても大きなお兄さんたちのように感じた。

仮に、ショウジ君とユウ君としよう。

ショウジ君がギャグばかりやって、そこにユウ君がすかさずキレのあるツッコミを入れる。

その掛け合いのたびに、僕は腹が痛くなるほど笑っていた。

兄がいなかった僕には、2人のお兄さんがいたように感じていた。



僕は彼らを、僕が当時通っていた小学校へ案内した。

夏休みの校庭や運動場には僕ら以外の人影はなく、

その広い庭は僕らだけで独占するには広すぎた。



そこで遊んでいると、

どこからか猫の鳴き声がした。


探してみると、

学校の外には足場が木で出来たスペースがあり、

その足場の下に小さい子供なら入れるくらいのスペースがあった。

そこに何びきか子猫がいたのだ。


猫が嫌いな人は猫の糞の臭さを知っている人くらいだ。

猫の糞の臭さを知らない僕らは、

その可愛い猫達に夢中になった。


それから、気がつけば夕暮れ時が近づいていた。

雨も降り出してきた。


みんなでまた明日ここに来て、

牛乳をあげようということになった。




夜になるに連れて風が強くなった。

どうやら台風が近づいているという。

その影響で、僕の二人のお兄さん達は急遽明日帰ることになった。

その時ほど台風を憎んだことはないと思う。




次の日の早朝、

予定通り僕たちは子猫達に牛乳を持っていった。



グビグビと牛乳を飲む子猫達を見ながら、

なぜかその子猫達を家に持って帰ろうということになった。

子供の浅はかな考えだった。


近くにあった箱に子猫を抱え、

僕たちは運動場を横切ろうとした。



すると、

運動場の外に見覚えのある車が止まった。


中から僕の母が出てきて、

何やら叫んでいる。


「何してるの。早くきなさい。急ぎなさい。」


どうやら彼らが帰るための指定の場所への集合時間まで、

あまり時間がなかったようだ。



僕たちは一瞬戸惑いながら、

後で子猫達は僕が迎えに行くという約束をして、

運動場の真ん中に子猫を入れた箱を置いて、

僕の母の車へ乗り込んだ。



その後、

彼らとの別れはとても寂しかったはずだ。

というものの、

別れについてはほとんど記憶がない。

なぜなら、その後の記憶の方が脳裏に強く焼き付いているからだ。



僕は運動場へ戻った。


そこへは、

猫を入れた箱があった。


しかし、

中を覗いてみると中には何もいなかった。



僕は辺りを見渡した。




少し離れた場所、運動場の周りのレーンの戦の間に何か落ちていた。

それはもう、20年ほど昔の記憶だが今でもその映像と、

あの台風の接近に伴うひんやりと湿った空気、グランドの木々がガサガサと揺れる音は、

鮮明に思い出される。



僕は近づき、

それを見た。

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