2話 平和な日常②
街は祭りとあってか活気に充ちていた。出店も多くライ達はあっけに取られていた。今まで街には来たことがあったもののその時は買い出しとかなのでこういう祭りなどには縁がなかったため正直ここまで人がいることを予想できなかった。
「馬車でもよって人混みにもよってきたんだけど……」
ライは口元を抑え今にも口からものが出そうな顔をしていた。その背中をカイがさすっている。
「まあ元々ライは酔いやすいからしょうがないよね、それに僕でもこの人混みには酔っちゃうよ」
「私もよ、こんなに人が多いなんて…こんなんだと屋台が見れないじゃない!」
サラは当たりを見回してそれから袋にあるお金の確認をしていた。そんなサラをカイは不思議に思い「何をしているんだ?」と聞いた。
「周りに出ている出店がどんなもの出してるんだろうって見てたのよ、それでお金どれくらいるかなって」
「そうなんだ、じゃあ僕とライはあっちで休んでるよ」
カイは何かを察し逃げようとしたがそんなことはサラにはお見通しだった。
「逃がさないわよ?」
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「も、もうおなかいっぱい……」
「お、俺ももう無理……」
「何よ、男の子でしょ?そんだけしか食べれないなんておと──」
「いやお前が食べ過ぎなだけだろ!」
ライとカイはサラに連れられて色んな出店により、もう無理なくらいまで食べさせられた。サラは普段からよく食べるほうで大人顔負けな食欲をしている。
「もうしょうがないんだから……」
するとカラーン、カラーンと鐘の音が聞こえた。
「こ、これは!!!」
今まで死にそうな顔をしていたカイが急に立ち上がった。その目はキラキラしている。
「カイ、どうしたんだ?」
カイはそう聞かれると真剣な顔でライの目の前まで顔を近づけた。ライはうおっと後ろに一歩下がった。
「この鐘の音は兵士たちのパレードが始まるんだよ!!早く見に行くよ!」
カイはそう言うと走って言ってしまった。取り残されたライとサラは呆然としていた。
「サラ、俺達も行くか?」
「そうね、ほっとくとカイを見つけられなくなるし」
俺とサラはカイが走っていった方に歩き出した。そう言えば一対一でいるのってって珍しいなとライは考えていた。何話せばいいかわからない中沈黙が続いた。ん、そう言えばさっきサラの家の前で…そうだ!とライは閃いた。
「……なあサラ、カイのことってどう思ってるの?」
一瞬が長い間沈黙しているのではないかと思わせる空気に変わった。
ライはこれは聞いちゃダメなやつだったのかな、俺終わったのかなと考えていた。
しかし怒られると思っていたライにとってはその顔は予想外な顔をしていた。
「ただの友達よ」
その顔は切なく、本当の気持ちを隠してるみたいだった。
「そう…なんだ…」
ライはその顔の意味がよく分からずそう答えるしかなかった。
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2人はそのあと何も喋らないままあるいていると色々な楽器を持っている兵士たちが綺麗な隊列になり音を奏でていた。
ライは今まで兵士は戦うだけのものと思っていた。
「サラ、兵士って攻め込まれたりされた時に戦うものじゃないの?」
サラはそう聞くと呆れた顔でライを見て、何やらひとりでに納得し始めている。
「ど、どうしたの?」
「えっと…多分、ライがこれまでカイに勝てない理由がわかった気がする」
「え、まじ!教えて!」
サラは真剣な眼差しでライを見た。ライは唾をゴクリと飲んだ。
「とても言い難いんだけど…ライ!あなたは……馬鹿なのよ!」
「………こんなにも真剣に馬鹿って言われたの初めてかも」
ライはため息ついてだと思ったと思った。
ライは教会での授業でも他の人にはついていけないくらいの頭の悪さがあった。しかしカイにおいては1回やればなんでも覚えてしまう、ライはうすうす気づいていた、天才には勝てないんだと。
「でもありがとう、こんなにも真剣に馬鹿って言われたおかげで俺が勉強したらいいってことが分かったしな。」
「そう、なら良かったわ」
サラは満面の笑みを浮かべていた。機嫌は直ったみたいだった。
「それでさっき聞かれたことについてなんだけど、兵士ってのは色々な部署があるのよ。さっきライが言ってたのは兵士全員に課せられたものなの。だから戦が始まった時には全部の部署が合わさって戦うのよ。それで今パレードをしている兵士たちは軍楽部というものでこういう日や戦の始まる前や終わったあとの式でやっているのよ」
「へー、サラって凄い物知りなんだな」
「ふふん、凄いでしょ」
「ああ、凄いよ、サラは」
するとサラの顔が徐々に赤くなっていく。ライはやばいと思ったが何も悪いことをしていないような…となんで顔を赤くしているかわからなかった。
「どうした?風邪か?」
そう言いライはサラの額に手を当てた。熱くはないなと考えているとサラは額にあったライの手を離した。
「か、風邪じゃなくて……ああもう!早くカイを探しに行くわよ!」
そう言うとサラは走っていってしまった。人混みが多いせいですぐにサラを見失ってしまった。結局サラはなんで逃げたのだろうという疑問がライにはあったが今はそれを考えている場合ではないことはライにも分かった。
「はあ…2人を探すか…」
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ライはまずカイを見つけることにした。今のままサラを見つけてもまた逃げられるかもしれないのでカイを連れていけば逃げないだろうと考えたからだ。
「とは言っても広くてどこにいるかわからないよな────そうだ、あいつの事だから人混みの先頭にいるかもな」
ライは人混みを掻き分けて前に行くと案の定カイは泣きながら見ていた。
「あ、ライ、見てよ!こんなに近くに兵士たちが……感動するしかないよ〜」
「あ、そ、そうなの?」
「そうだよ!生でしか見れないあの光沢している鎧!剣!────生きててよかった!!!」
ライはカイに圧倒されていたが突然カイは真剣な顔立ちをした。
「なあ、ライは生きてて良かったって思ったことある?」
「生きてて良かったこと?」
ライはなんで急にそんなことを聞いてくる意図がわからなかった。
「うん、僕は生きてて良かったって思ったこと沢山あるんだ。例えば今みたいに自分が好きな物を見たりとかね。でもそれも死んでしまえば全部出来なくなる──僕はそんなこと嫌なんだ。いつでも幸せでいたい、楽しくいたい、笑っていたい……」
カイは徐々に暗い顔になり、先のことを見通しているような喋り口調だった。
「でも…それ以上にみんなには幸せでいて欲しい、楽しく生きて欲しい、笑っていて欲しいんだ──ただ、僕にはそんなことを実現出来る力がないんだ。だから、僕にはライにこの石を継いで欲しいんだ」
「そ、そんなこと俺ができるわけないだろ!カイの方が剣技も頭も…」
ライにはカイが何を言っているのか全くわからなかった。カイの方が何倍も俺よりできるのにと怒りが込みあげてきた。
「カイの方がなんでも出来るんだ!なんでも俺より簡単にこなすし、俺より勉強もできる!それに稽古だって俺が勝ったのなんて一番最初のたった1回きりじゃないか!それも俺の方が早く初めてたのにだ!俺にはお前みたいな才能は何も無いんだ!だから!────もう俺に何も期待しないでくれ────」
ライは顔を落としていた。カイはそれを見て1つため息をついた。
「そんなことは前から分かってるよ、ライの才能は僕には及ばないってことは。でもそれは才能が無いわけではないってことなんだ」
ライは顔を上げて何を言ってるんだみたいな顔でカイを見ていた。カイはその顔を気にせずそのまま続けた。
「ライ、僕は元から才能があったわけじゃないんだ。ただこの力に目覚めてから才能があるように見せることが出来たんだ」
「力?」
「うん、僕は未来が見えるんだ。すなわち『未来予知』かな。これは自分たちが持ってる特有の『属性』とは別のものだと考えているよ」
未来予知って…そんなことがライの頭の中をよぎった。
「じゃあこの後に何が起こるのかも知ってるのか」
「知ってるよ、あと5秒で雨が降ってくることも」
は?そんなことと思っている矢先、上からポツポツと水が落ちてきた。
「ガチ…」
「だから言ったでしょ?ホントだって」
本当のことは分かったが、なんでそれを俺にとカイが何を考えているかわからなかった。カイは昔から何かなければ真剣な表情なんてしないからだ。
「でもそんなこと教えて何かカイに得があるのか?」
カイはうーんと悩んでる素振りを見せた。
「なんでかね…それはとても言い難いことなんだ、というかこの『未来予知』のことを信じて貰わなきゃ話せないことだからね。…聞く勇気はある?」
「ああ」
カイはライの目をじっと見た。するとカイは笑みを浮かべた。
「ライ、覚悟して聞いてな」
するとカイの目は絶望の目をしていた。
「1時間後、この街は壊滅する」