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(7)マルバジオの町

 必死に走って宿屋まで帰ると、クリス達が迎えてくれた。


「おかえり、モニカ。締め出して悪かったの」


 許しを請うようにクリスがモニカの腰にやわらかく抱き着く。見上げてくる緑色の瞳はウルウルで、ふわふわのブロンドの髪は結ばずに背中にたらしていた。それはもう天使のように可愛らしかった。自分の魅力を分かって演出しているあたり非常にあざとい。ウィリアムが横でやれやれと首をふっている。しかしそのキュートさにやられたモニカは思わずクリスをぎゅーっと抱きしめ返した。


「た、ただいまです……!」


 緊張していたのが一気に抜けて、お腹の虫も元気にぐうと鳴りだす。ウィリアムがくすくす笑い、ご飯にしましょうかと提案した。先ほどまで一人でガクブルしていので、モニカはこの二人の存在がありがたい。一つ深呼吸をして、「はい」と返事を少し遅い昼食をとることにした。

 

 雑貨屋の老婆がくれたパンとチーズ、そしてモニカが村から持ち出してきた食料で簡単に昼食をとった。チーズは贅沢品だ。栄養たっぷりで力もつく。ナイフでスライスしたパンにチーズを乗せて食べる。クリスはお腹が減っていたのかいつもより食べっぷりが良い。モニカは怪我をした老婆の手伝いをしたらパンとチーズをもらったことを話し、お金を返した。


「正直者じゃの」


 飽きれたような感心したようなクリスだったが、その表情は柔かかった。口の周りにパンくずをつけてはいるのに様になっているのは美少女ゆえか。しかしモニカがガラの悪い男たちに絡まれて走って帰ってきたことを告げると、眉根をぐぐっと寄せた。


「うーん、そいつは頂けんのう。逃げ切れたから良かったものの……」


 デザートの干し杏をちびちびかじりながらクリスはぼやく。一方、食べ終わると早々にでかける準備をしているのがウィリアムだ。マントをはおり、荷をいれたバッグを肩にかける。買い出しもろもろしてくるから留守番をしていてほしいと言い、出て行ってしまった。どうやら必要物資の買い物その他もろもろに行くようだ。


 二人はしっかりデザートまで食べてしまってから少しだけお昼寝することにした。なんだかんだ言って旅は疲れる。この部屋にベッドはないので薄い毛布を下に敷き、二人より添って寝ころんだ。


(なんだか短い間に色々とあったな……)


 モニカはうとうとする中で考える。村をでてクリスとウィリアムに会い、このマルバジオの町まできた。初めての野宿は思いのほか良いものだった。それにチティティカ様を知らない旅人二人。くったくなくモニカになついてくれるクリスの笑顔。思い出すだけで心が温かくなるのを感じた。胸の大きさで悩んだ雑貨屋の親子においしいチーズとパン。チンピラに絡まれたことは怖いだけなので記憶から消したい。

 ふとテッテピッコル村の面々が頭に浮かんできた。


(お母さん、心配してるかな……ロメオも、……プリシラは……)


 まぶたが重い。二、三度ゆっくり瞬くと、そのまますーっと眠りについたモニカであった。

 


 ◇

 


 がたっと扉が開く音がしてモニカは目が覚めた。ウィリアムだろうかと思って目を向けたが、ドアから入ってきたのは知らない男たちだった。


(……誰?)


 すっと背筋が凍る。五、六人はいるだろうか。その中でひときわ目立つ大男と目が合った。


「よお、お嬢ちゃん。また会ったな」

「……え?」


 素早く上半身を起こし、良く回らない頭を必死で考える。もしかして先ほどモニカに声をかけてきた男たちではなかろうか。全然顔を覚えていないが、それしか考えられない。どうしようとか何が目的だとか色々な考えがめぐるが、そばに居たクリスがもぞりと動いたのでひとまず最優先課題は決まった。


(……クリスさんを守らなきゃ)


 小さな子どもを守るのは大人の役目だ。まだ寝ているクリスを隠すように前にはだかる。できれば気づきませんように、と心の中で願いつつ、男たちを睨む。どうするのがベストか必死で考えてみるが思いつかない。下手に抵抗したり逃げ出しても状況は悪く鳴りそうだ。とにかく、寝ているクリスを守ることだけを考えようとモニカは思った。


「……なんのようですか」


 目を逸らさないようにして問いかける。


「いやー、ロブのやつがよ。もちょっとお嬢ちゃんとお話ししたいそうなんだわ。兄貴分としてはやっぱりそう言われちゃ叶えてあげたいわけ」


 どかどかと部屋に入ってくる男たち。エルマーノと呼ばれていた強面の大男が先頭だ。あちこち見回してモニカたちしか部屋にいないと分かると、にやにやとした笑いを浮かべ近づいてきた。


「それにしても、こりゃ大きいねえ。うんうん、良いわ」


 モニカの目の前に座り込んで不躾にもモニカの胸をジロジロと見てくる。さらにその太い腕を伸ばしてモニカの小さなあごを掴むと横を向かせりいろんな角度から観察した。


「顔も悪くない」


 触られたことで恐怖感がぐっと増し、目に涙がたまってくる。しかし、奥歯をかみしめふんばった。モニカの足元にはやわらかなクリスの体温がある。小さい子を守らなきゃと必死に自分に言い聞かせた。


(せめてウィリアムさんが帰ってくるまで時間かせぎしなきゃ)


 チンピラという言葉が非常に良く似合いそうな男が、横からひょいっと顔をのぞかせた。若そうなのに髪の生え際がやばい。


「でも兄貴ぃ、デカい胸って需要あるんすかね?」


 ここマルバジオの町も貧乳至上主義なので、その色に染まった彼らはエルマーノの査定が不思議だった。あたかも巨乳が高得点であるかのような言い方だ。


「ここからちっとばかし離れると、たいそう可愛がられるんだとよ」

「まじっすか?」


 若ハゲが目を皿のようにしてエルマーノとモニカの乳を交互に見る。モニカはぞくりと背筋が冷えて、さっと両腕で胸を隠した。しかし若ハゲは首をかしげてよく分からないという顔だ。


「うーん、俺にはどこがいいかさっぱり」

「俺も無理だわ。顔はまあまあなのに」


 確かに、と一同はぎゃははと声高に笑い転げる。その中にいた男がおずおずと手を挙げた。先ほどモニカに声をかけたロブという名の男だった。


「ものは試しってことで、そのおっきいおっぱい触ってみてもいいっすかね。兄貴」

「仕方ねえなぁ」


 にやりとする男たちの下卑た笑いに背筋が凍る。ぎしりと床板が鳴りエルマーレ達が一歩前にでた。モニカのすぐ後ろにクリスがいるので下がることは叶わない。エルマーレは首をのばしてモニカの後ろをのぞいた。


「おやおや、小さいお嬢ちゃんまでいるじゃねえの」


 とっさにクリスを隠すように覆いかぶさる。


「こ、この子は、だめ!」

「じゃあなおさらお嬢ちゃんが体張らなきゃなぁ?」


 そう言うとエルマーレはモニカの腕をつかみ無理やり立たせた。そして羽交い絞めにしてロブに突き出す。モニカの胸がたぷんと揺れ、その迫力にロブはごくりと喉をならした。どうやらロブは大きな胸に興味津々のようだ。鼻息を荒くして手をワキワキさせる。その様子が恐ろしくて目に涙を浮かべた。


「うわー、あらためて見るとすげぇ……」


 いつも背を丸めて隠している胸が男たちの目の前に突き出される。さあ見てくださいと言わんばかりにその存在感は圧倒的だ。


「まじで尻がくっついてるんじゃねえのか。引くわー」


 ロブの後ろにいる男たちがぽろりとつぶやき、ないないと首を横に振る。しかしロブは違う。その視線を胸から外さず、期待に心躍らせている。どれくらい柔かいのか、どのくらい質量があるのか。ふわふわ? もちもち? 温かいのか冷たいのかも分からない。全てが未知数であるこのおっぱいを前にロブは全神経を手と目に集中させた。小さいころから刷り込まれてきた悪しき巨乳が目の前にある。悪を成敗する正義の心なのか、禁断の誘惑からくる背徳感なのか。わずかに緊張で震える指先をモニカの乳に向かって伸ばした。

 

(だれか、助けて……!)


 モニカの願いを聞き入れてくれるヒーローは果たして現れるのか。

 

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