第9話 くうせんのために
「滅」
湖に火が灯る。だが全く蒸発しない。それもそのはず、水を火で消すなどほぼ不可能に近い。出来たとしても火力が全く足りない。
もう3時間が経つ。
「くうせん……くうせん……」
式神の死んだ後の魂は、少しずつ弱っていくそうだ。くうせんはあと3日らしい。
「こんなところで止まるわけには、いかないんだよ。俺はくうせんを、絶対に取り戻す。」
滅は指先に力を集中させ放つ感じ。集中させろ。もっと、もっとだ。
安倍晴明のような最強の陰陽師に憧れていた。安倍晴明は何でも護れて、彼の出てくる本は全て読んだ。圧倒的敗北の中でも、彼は自分の力を信じた。
彼はいつしか世界の番人となっていた。
俺はそんな陰陽師になりたくて、必死に陰陽師を目指していたんだ。
「灯りたまえ。滅」
滅を放った俺は力尽き、崩れ落ちていた。湖を見ると、
「湖が……消滅してる!」
これは……俺がやったのか? 俺は状況が全く理解できずに考えることをやめていた。というか考えることすらままらなかった。
真夜中に爆炎が立ち込めるのを遠くから見て、父上が驚いたように走ってくる。
「お前が……やったのか!?」
父上は開いた口が塞がらない。つまり父上は出来ると思っていなかったんだろう。だからこれほど驚いている。
「俺がやったに決まってんだろ」
俺は状況が呑み込めないが、くうせんを救うためにはそう答えるしかなかった。
父上は咳払いをし、話を変える。
「次の試練に移行する。次は土だ」
「まだ2つ目か」
まだ道は長い。あと3つの修行を達成すれば……
「ついてこい。時間が無いんだろ。夜限定の訓練だ」
「夜……限定?」
歩きながら父上は土の使い方を教えてくれる。
「土は木と似ているが、土は地を自在に操る。地に力を込め操れ」
父上が俺に土について教えている間、やけに草がワサワサいってる。それに足音も聞こえてくる。
「もう修行は始まってるぞ」
父上はすぐさま木の上に飛んだ。ジャンプだけで10メートルはある木の上に乗った。
「何かが来る!」
いきなり鬼が襲ってくる。まさか……ここ……
「鬼の森!?」