第57話 邪に染めた少女
雪姫は倒された。だが、まだ戦いは終わっていない。
「火烏朱」
くうせんに向け、鳥の形の火炎が放たれる。
くうせんは火炎が飛んでくるのを察し、火炎を刀で切り裂いた。
「くうせん!?」
烝は困惑している。
なぜなら、くうせんに火炎を飛ばしたのは神姫だったからだ。だが烝が驚いているのとは正反対に、くうせんは極めて落ち着いていた。
「予想通り。呪いの代償か……」
くうせんは知っていた。神姫が自分自身にかけた呪いの正体を。
「くうせん。呪いの代償って!?」
「烝。昨日会った祓魔師のところに行って。あと弱さを呪う呪術の解除札を持ってきてって」
「は、はい」
烝はくうせんが何を言っているのか理解していなかたっが、くうせんの表情を見てだいたい察している。
神姫は自分自身に呪いをかけたのだと。
烝が祓魔師のもとに行くと、くうせんは微笑する。
「厄介なことになってるじゃん。神姫。きれいな瞳が真っ赤に霞んでしまっているじゃないか」
余裕をかましている風のくうせんも、心の中では相当動揺していた。
(またこの呪いか。でも今の私は絶望に染まらない。だって政宗が私を絶望から救ってくれたから。幸せを教えてくれたから)
くうせんは両手で刀を構え、神姫の動きを凝視する。
互いに大きな動きは見せず、呼吸も静かに深く。
沈黙という色が戦場を染める中、隠れた刃が静かにくうせんに襲いかかっていた。
「縛」
自我を失った神姫が唱えた瞬間、くうせんの足元に迫っていた木の根がくうせんの体を包み込む。
「まさか……自我を失っているのにそんな小細工をできたとは……」
くうせんは知っていた。
己の弱さを呪った者の末路を。
だからこそ、くうせんは木の根をこっそりと足元の忍ばせるという小細工を考えられなかった。
だからこそ、自我を失った者を舐めていた。
「政宗。私は……まだ……」
くうせんを縛る木の根はさらに強く縛ろうとし、神姫はくうせんに火の染まる手をゆっくりと近づける。神姫は楽しそうに嗤っている。
その時、くうせんは気づいた。
「お前。誰だ?」
明らかにおかしいのだ。
自我を失った者はただ破壊衝動だけで暴れまわる。だから小細工をするなどできない。
つまり、神姫の体は他の者に乗っ取られている。
「よく気づいたね。私は王妙。王孫の娘だよ」
くうせんは首をかしげる。
「そうか。お前は知らないか。なら教えてやろう。王孫は世界に存在する全ての能力。つまり陰陽術、祓魔術、占星術、呪術、降霊術と言った存在する全ての能力を有しているお方だ」
「曖昧だな」
くうせんは間を開けずに言った。
その言葉に、王妙は怒りの目線を向けている。
「曖昧?何が?」
「存在する全ての能力って言ったよね。でもさ、存在する全ての能力はさ、この世界に知られてないものもあるよね。それでも王孫って奴は全ての能力を有している。それは少しおかしいんじゃない?」
「あんた。何が言いたいのよ?」
「つまり、あなたたちの知らない能力が、首を跳ねるかもしれないってこと」
神姫の体を乗っ取っている王妙は怒りを抑えきれず、火炎に染まる手でくうせんの顔を溶かす。
「そこまでだ」
神姫の体の動きが止まる。いや、動かない。
神姫の体は今、影によって操られている。




