第51話 伝説と敗北者
「久しぶりだな。夜鬼」
「ああ。妖怪の王。王孫」
夜鬼と王孫は一瞬で移動した。
あまりにも速すぎて、俺の目には瞬間移動したようにしか見えなかった。
夜鬼と王孫はお互いの間合いが届く距離にいて、お互いに一本の刀を握っている。
夜鬼は黄金に輝く刃を。
王孫は黒く染まった刃を。
二人は互いに窺っている。
どっちらが先に仕掛けるのかを。
「滅」
俺は火炎を王孫に放った。
避けられはしたものの、その戦場の空気は一瞬で変わった。
「最初に仕掛けるのは、俺でも構わないよな」
夜鬼は笑い、王孫は睨んでいる。
「そんなに邪魔をされたくなかったのか。だがな、死を経験した俺は強いぞ」
「黙れ。小僧」
王孫は一瞬で俺の背後に回った。だがそこには仕掛けていた。
祓魔師から貰った霊符。
「地雷の霊符」
俺の背後は爆発し、王孫は爆風で天井にぶつかった。
「おいおい。その程度のトラップに引っ掛かるなんて、油断しすぎですよ」
俺は見下しながら王孫に言う。
王孫は怒り、彼の額に第三の目が現れた。
「覚醒」
王孫の漆黒に包まれた短い髪が伸び、膝下まで伸びた。さらに、王孫の目は深紅に染まる。
さっきとは一風変わった圧を纏う王孫。
俺は二三歩後ろに後退する。が、ドンと壁に背中が当たる。
逃げ場なし。
「滅刀」
俺は刀を抜き、滅を纏わせる。
油断ができる相手ではないからこそ、俺は力の温存はしない。
王孫の姿は一瞬で消えた。
やはりそのスピードは目で追いきれるはずがない。
覚醒する前でも圧倒的力と速さを誇っていたはずなのに、覚醒したせいで俺では王孫を捉えられなくなっていた。
「やはり一筋縄ではいかんか」
直後、俺の横腹に激痛が走った。
まさか、とは思ったが、そのまさかだった。
俺の右に王孫がいて、彼は俺の横腹に刀を刺していた。
俺の横腹から血が吹き出し、口からも赤い液体が口元を通りすぎる。
「滅刀 紅一閃」
血を滴らせながら放った一撃は、王孫には楽々と避けられた。
上から下に刀を振ったせいで、俺は正面に体を倒そうとしていた。その隙を突き、王孫は拳を俺の腹に入れる。
思わず悶絶し、俺は地にひれ伏す。
「やってくれたな……」
俺はもう戦えず、地に身を倒していた。
これが圧倒的な力なのかと感動し、王孫が俺の首を跳ねるのだろうと確信していた。
体を動かそうにも腹を刺され、さらには蹴りを入れられた後では動こうにも動けない。
己の弱さにひどく怠惰し、過去の思い出を頭の中にリフレインさせていた。
終焉を望む俺は、いつしか悪夢という恐怖に呑まれそうになっていた。
死を拒む俺だったが、その死から逃れるのは至難の技。
王孫は俺の首に刀を振るう。が、しかし、
「これ以上、家族を失うわけにはいかないんだよ。なあ政宗。お前は、お前だけは死なせない」
夜鬼は王孫が振った刃を黄金の刃で受け止めた。
「邪魔をするな。敗北者が。一度死に、鬼になった貴様などに俺が負けるかあああ」
「黙れ。妖怪に魂を売ったお前には、負けられないんだよおおお」
王孫と夜鬼。
二人の怒りが刃に宿り、魂と魂がぶつかり合う。
熱く、激しく、凄まじく、




