第44話 鬼童丸
「どうして……鬼童丸がいるんだよ!?」
知らないはずがない。恐れないはずがない。
雪女と影女も怯えている。
鬼童丸が一歩こちらに踏み出す度、俺たちには恐怖という感覚が全身を渡る。
「政宗……」
「やるしか……ないのか……」
鬼童丸はあと十歩で俺たちに触れられる距離まで近づく。
攻撃を仕掛けようにも恐怖で体がすくんでしまう。
それでも、俺は陰陽師である。
「滅」
俺の手から放たれた火炎が、鬼童丸の体を埋める。だが鬼童丸はその攻撃に一切動じず、ゆっくりと進んでくる。
「白刃一閃」
くうせんは鬼童丸の首に刀を振りかざす。だがくうせんの刀は首に傷一つ与えられない。
くうせんはすぐに屋根の上に移動すると、雪女と影女はすぐさま攻撃を仕掛ける。
「雪蜂」
「影蜂」
雪と影の弾丸が鬼童丸を直撃するも、かすり傷一つつかないその体に、俺たちは絶望を覚える。
だが鬼童丸は未だに攻撃せず、一歩一歩をゆっくりと進んでいる。
だが俺たちは舐めていた。
鬼童丸は一瞬で俺と雪女と影女の背後に移動し、影女に電気を帯びた右の拳で殴り吹き飛ばす。影女は遠くの建物にぶつかり、そこから大きな煙を立てる。
「雪檻」
雪女は自分の背後を凍り漬けにする。背後にあった建物が一面氷に包まれる。
だが決着はついていない。
鬼童丸は凍り漬けにされていたが、自らで氷を破壊した。
「嘘だろ!」
電気を纏っている鬼童丸の蹴りをモロにくらった雪女は、この街の象徴である時計塔に衝突する。時計塔は見事に崩れていった。
俺は刀を抜き、鬼童丸に斬りかかるも……
「消えた!?」
「うっ」
悶絶する声が聞こえたのは、くうせんが居た屋根の上。
くうせんは腹を押さえ、屋根の上で倒れていた。
「これが……世界最強の妖怪。鬼童丸!」
その圧倒的強さに、俺は握りしめていた刀を地に落としていた。
また失うんだ。昔のように。
また護れない。母上が死んだ時のように。
「どうして俺は、仲間一人救えないんだ」
俺の哀れな叫び声がこの細い路地に響く。鬼童丸は俺を上から見下ろしている。
「やっぱ最強は見下ろすのが一番似合ってるじゃねーか」
鬼童丸は俺に向かって突進してきた。
ここで俺は死ぬと確信していた。武器を持つ気力すら無く、ただ死ぬことを受け入れている。だから俺は死ぬ覚悟が……
「政宗ー」
くうせんの叫び声。
「届いたよ。くうせん。諦めるなんて、陰陽師には相応しくないないよな」
俺は刀を握り、鬼童丸の直撃に合わせて刀を振るうのを振るえながら待つ。
だがそこに救世主のように現れた存在。
「神火」
空から鬼童丸に向かって業炎が突撃する。その炎は効いているようで、鬼童丸は初めて膝をつけた。
空には一人の男が浮いていた。
「安倍晴明!」




