第41話 知っている祓魔師
「あなたの父は人ではありませんね」
何を言っているんだ?この祓魔師は!
俺はどの祓魔師が言っていることの意味を理解できなかった。もしかしたら理解したくないだけかもしれない。
「ああ。あなたは知らないのですね。いや、もしくは記憶から削除した可能性もあり得ますね」
父上が人間じゃないというのは知らない。
少なくとも俺は父上を人以外の何かと思ったことは一度もない。だから父上が……
突然、祓魔師は俺のおでこに触れ呪文のようなものを唱える。
「閉ざされし記憶よ。今、解放せよ」
俺の脳裏には鎖が斬れたような感覚が伝わる。その感覚が伝わった後、俺は思い出した。
俺と母上と父上とで昔住んでいた寺が妖怪に襲われた際、父上は妖怪と戦いを繰り広げた。その時、父上の頭には角が一本、額の中央に生えていたような……。
まさか……鬼!?
「平等院政宗。貴様の父は鬼と人のハーフ。つまりは、人鬼だ」
今なら祓魔師の言葉がすぐに理解できる。
父上は……人鬼。そして母上を失ったあの日、父上が戦っていた相手は……
「安倍晴明。君の母上を殺した者の名前だ」
知っていた。俺は安倍晴明が母上を殺したことを知っていた。
昔、ある本で読んだことがある。安倍晴明は人鬼と戦っている途中で、誤って女を殺した。
その話の続きに、このようなことが書かれていた。
「安倍晴明は平等院家の女をさらった人鬼と戦い、結果として人鬼を逃がしてしまった。だが人鬼とその末裔に刻み込んだ呪い。それが俺の左足の赤色。これが罰だ」
父上は平等院家ではない。母上が本当の平等院家だ。そんなことは知っていた。それに俺は平等院鳳凰堂にある書物を全て読んで確信していた。母上を殺したのは安倍晴明だと。
「うわあぁぁぁ」
「きゃあぁぁぁ」
建物が壊れる音とともに、大通りの方から悲鳴が聞こえる。
考え込んでいた俺だったが、切り替えて悲鳴はする方を見る。悲鳴がした方には、巨大な蜘蛛の姿の妖怪が街を破壊していた。
「何だよあれ!?」
「陰陽師さん。あれは……京都七不思議の一角。大蜘蛛」
そんな奴知らないぞ!
「京都七不思議は、江戸から来た七不思議を全員殺した。すなわち、京都七不思議は相当強い」
笑えねえ冗談、いや、現実だ。




