第23話 奇策と執念
「疾風蹴り」
速い。風鈴の蹴りが見えなかった。その蹴りは、俺の顔を直撃する。俺は剛を張る暇すらなかった。
再び風鈴の蹴りが俺に向かってくる。
「疾風蹴り」
「剛」
俺は全身を固くする。だが風鈴の蹴りが届くよりも速く、俺は吹き飛ばされる。
「何をした?」
「風圧でお前を飛ばしただけ。その程度のことなんだ。理解しろ。これじゃお前はすぐに死ぬ」
風鈴は強すぎた。俺では到底敵わない。
「疾風短剣」
きっと風でナイフを造ったのだろうが、目で見ることが出来ない。何も見えないことに混乱したが、右手に何かを握っているようなので、俺は右手に気をつける。が、
「ああぁぁぁぁ」
響き渡る俺の悲鳴。俺は腹を何かで刺され、もがき苦しんでいた。血を止めるため、癒で傷口を塞ぐ。
「次は右足をもらう」
「壁」
俺は見えない攻撃を防ぐため、土で壁を造るが、
「土で壁を創ろうとも無駄だ。行け」
「うわっー」
右足を何かで刺された激痛。その痛みに膝を地につけ、頭も地面につける痛くて顔をあげられない。
「宣言通り右足をもらった。次は左肩をもらう」
「剛」
俺は左肩極限まで固くした。防ぐ方法がこれしかないからだ。
「体を固くしようとも無駄だ。疾風槍」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ」
左肩を何かで貫かれた。俺は様々な場所から流れる血を見て、己の弱さを思い知った。
相変わらず、俺は弱いな。どうしていつもここまで惨めな思いをしなければならない。安倍晴明のように強くなれたなら。
そこで俺は奇跡的に閃いた。
体をいくら固くしようとも貫かれる。なら…
「捨て身で突っ込んでくるか、終わりだ。疾風槍葬」
「滅」
俺は地面に向けて、滅を放った。多少の煙が周囲を隠し、俺はその瞬間を逃さない。
「その程度で私の攻撃は止められない。な!?」
今頃気付いてももう遅い。
煙が立ち去った頃、既にリング上には俺の姿は無かった。
その異様な光景の謎を、風鈴はすぐに悟った。
「なるほどな。砂ぼこりでお前が見えなくなる。その隙に地面に潜ったと言うわけか。さすがだ」
「土城」
土の塔が、風鈴目掛けて一直線に襲いかかる。
俺は十二神明王の式神が使っていた技で、風鈴を上空に吹き飛ばそうとする。
「土を私に一直線でぶつけてくるか。だが甘い」
まだ俺には十二神明王に叶うほどの力は無い。でも、今ここで全てを出しきれなければ、負けたくないんだ。
「土花火」
「土が……砕けた!まさか、土城の中に入っていたのか」
土が撒き散らす砂ぼこりで、風鈴の目を塞いだ。そしてここからは俺の執念を思いっきりぶつける。
「爆破の霊符」
「疾風短剣」
俺が爆破の霊符を風鈴に向けて投げると、大爆発が起き、再び周囲は砂ぼこりという目眩ましに覆われる。。
「んっ?」
「どうしました。カイラ様」
「あの霊符。そこまでの威力は無かった気がするのだが」
「多分あれを使ったのではないでしょうか」
カイラと女迦の会話。その間にも風鈴は風を操り、砂ぼこりを周囲に散らせた。
「なんだこの威力。おい。私の風が消えたぞ」
「霊符に俺の力を込めただけ」
俺は風鈴に言った。
「それだけか」
「ありったけを」
俺は霊符に、今込められる自分の力の全てを送り込んだ。だからあれほどの威力が出せた。
「そうか、そうか。よく頑張ったな。人間。だがもう終わりにしよう」
「俺が負けたなんて言ったか」
「そこまで力を使って動けるのか」
どうやら風鈴は俺が力を使いすぎて、動けなくなったのかと思っているらしい。だがそれは違うy。
「いいから来いよ。腰抜け」
「疾風槍葬」
「金"超合金"」
俺は全身を最強の金属ほどの固さにし、見えない風鈴の攻撃も滑降から受け止めた。
「貫けない!? 何をした?」
「強化の霊符を使っただけだ」
強化の霊符で自分の陰陽師としての力を限界まで強くした。己の力とは言えないが、勝たなければ意味が無い。
「強化の霊符を使ったからといって、そこまでの固さを引き出せるわけが……」
「俺には制御出来ないほどの膨大な力がある。それを使っただけだ」
俺の中に眠る力は強大だ。誰にも止められないだろう。
「それを……使ったのか?」
「正解だ。負けを認めるか、死ぬか、選べ」
風鈴は逃げる。だが俺は逃がさない。
「滅檻」
火を風鈴の周囲に張り巡らした。これで逃げ場を封じる。
「周りを滅で囲んだか。負けだ」
カイラが飛んでくる。
「見事勝利だ。その力を見込んで、今から妖怪退治に行く。いいな?」
「いきなりか!だが、全員ぶっ倒して、世界を救ってやりますよ」
「ついて来るがいい。覚悟を持って敵に挑め」
「はい」
そして平等院政宗達は怪奇山に向かうのであった。




