第22話 天狗
いきなり天狗と戦えったって無理がある。
「まずは俺がやってやろう。俺は女天狗の女迦。言っておくが、女だからって手は抜くなよ。そんな事したら痛い目を見るぞ」
相当強気な女の天狗。彼女は武器も持たず、素手で挑もうとしているのか?
「まあでも、勝てばいいんだろ、勝てば」
楽勝じゃねーか。こっちには溢れ出る程の力があるんだ。負けるはずがない。しかも相手は女。これで負けるなど陰陽師の恥さらしだ。
「では、開始」
カイラの掛け声とともに、俺は功績を仕掛ける。
「縛」
木の根が女迦に絡み付こうとするが、女迦は天狗に生えている羽を使って、木のが届かない上空に逃げる。
「なかなかいいな。その術は周りの植物を操り対象を捕らえる技。だが天狗は皆、すばしっこいんだよ」
自慢するかのように、女迦は空中を素早く自在に動き回る。
これが天狗か。少し見誤っていたようだ。
「次はこっちから行かせてもらう。空砕」
女迦が俺に向かって遠くから拳を振るうと、空気が砕け、風の重い一撃が体を直撃する。だが効かない。
「剛」
父上から教わった技をフルに発揮させる。
「その術は体を金属のように固くする術。舐めていたのは俺だったみたいだな。だが勝負はこれからだぜ」
女天狗の女迦は上に上にと飛んでいく。
「滅」
俺は火を飛ばす。だが女迦は天狗が生やしている背中の羽で、滅を風を発生させて打ち消す。風を操る天狗には、滅はほぼ無意味らしい。
すると、女迦は上空でピタリと止まった。そして拳に回転をかけ、大きく振るう。
「風車」
風が回転しながら俺に向かって一直線に進む。さっきよりも威力が大きい。きっとさっきの技に回転をかけることによって威力を増大させたのだろう。
「う……う……うわあああ」
少しはこらえたものの、風の勢いは強く、俺は呆気なく飛ばされる。
「政宗」
聞こえたくうせんの声。だがその声は明らかに心配していた。やるしかない。女だろうと。
陰陽師として恥じぬ戦いをしよう。
俺は滅で風を蒸発させ、静かにリングに舞い降りた。
「ここからは本気でいかせてもらう」
「臨むところだ」
しばらくの沈黙。だがその沈黙は一瞬で消え去る。
「風車」
「滅螺旋」
女迦は拳に回転をかけ、風を飛ばしてくる。俺も滅に回転をかけ、飛ばした。風と炎がぶつかり合う。当然炎は消える。だが風の勢いは止まらない。
「壁」
土でとっさに壁を造る。だが、女迦は休ませてくれない。
「二段風車」
女迦の拳が、もう一度振るわれる。女迦の猛攻に俺はもう崩れそうだった。
「負けないで、政宗」
「くう、せん」
くうせんが応援してくれてるんだから、負けるわけには行かないだろ。
「俺はまだ、本気を出してないぞ。ここからが、俺の全力だ」
「威勢だけはいいんだな。だがお前はもう負ける」
俺は大きく息を吸う。
「整った」
「負けだよ、お前の。"暴風"」
女迦は背中の羽を大きく揺らし、巨大な風の渦を発生させる。
「殺す気かよ」
「この程度で死ぬのか」
「違う。後ろの天狗どもの話だ。"流し木の葉"」
俺は暴風を木の葉で流し、巨大な木の枝に座って見ていた観客の天狗にぶち当てる。
「何をしてんだ」
「油断大敵。"縛"」
女天狗の女迦を木の根で縛る。
「これで俺の勝ちだ」
「くそっ。すみません、カイラ様」
試合終了と判断したカイラは、風を操り静かにリングに降りる。
「皆よく聞け。この陰陽師は龍を倒す程の力を持っている」
「そんな、相手だったとは。お見逸れしました」
急に女迦が優しくなる。さっきまでの威勢はどこにいったのやら。
「政宗、次の相手は風鈴だ。こい」
「はじめまして、風鈴と申します」
カイラに呼ばれて現れたのは、またしても女天狗。ここは女天狗しか強くないのだろうか。
「風小刀」
まだ試合が始まっていないというのに、風鈴に風で造った小刀で俺の右肩を刺した。右肩から流れる血は、まさしく本物だ。
俺は右肩を抑える。
「なんの真似だ、風鈴。まだ戦いを始めてないぞ」
「うるさい、カイラ。お前が私を呼んだのだ。文句を言うな」
都市神であるカイラに、風鈴は強い口調でカイラの言葉を跳ねのける。
「政宗」
「駄目だ、くうせん。これは俺のミスだ。戦場とは誰が敵か分からない。俺には注意力が足りなかっただけだ」
今にも風鈴を殺そうとしているくうせんを止め、俺は痛みをこらえ、ゆっくりと立ち上がった。
「続けようか、政宗」
「悪い顔になってきたじゃねーか、風鈴」
これより、政宗VS風鈴の戦いが始まる。




