第21話 災厄に備えろ
俺は都市神二人に十二神明王と名乗っていた彼らが言っていた"災厄"について聞く。
「災厄とは今まで妖怪が行ってきた悪行よりも遥かに残虐で恐ろしく危険な行動だ。だから"災厄"と呼ばれている」
なるほど。つまり妖怪がどこかで世界を終焉にでも追い込もうとしているのか。
「なぜ先の事を知り得ているのだ?」
「それはある都市神様の能力だ」
「いつ誰が起こすかとか分かるのか?」
都市神のカイラは首を横に振る。
「だがどこで起こるかは分かる。それは"江戸"」
「江戸!」
江戸の街には最強の陰陽師が多くいると噂されており、陰陽師が結成した部隊もあるというのに……。
「だが敵は今まで我々が倒してきた妖怪よりも多いと聞く」
「過去に起きた最悪の事件。百鬼夜行や七つの階段よりも多くの妖怪が出るのか?」
百鬼夜行に参加した妖怪の数は百を越える鬼。そして七つの階段は七千という妖怪が参加した戦いだった。なのにその数を上回るだと……
「その程度じゃ比べ物にならん。今回の妖怪の数は万を越える」
「そ、そんなに!」
陰陽師は万というほど存在しない。せいぜい千が限界だ。
「今回の龍の封印が解かれたのもその予兆なのだろう」
「そんな数じゃ勝てる見込みが……」
過去に起きた妖怪と陰陽師の戦いは互いに深手を負い、陰陽師の数は全盛期と比べ圧倒的に劣るものとなった。そんなタイミングで万を越える妖怪が攻めてくる。しかも江戸をだ。
江戸は日本の中心だ。だからここが壊れれば日本の陰陽師は……絶滅する。
「政宗……」
「大丈夫だ、くうせん」
静かに息を漏らしたくうせんに、俺は励まそうと声をかけた。だが大丈夫な確証など一つもない。
「平等院政宗よ。お主に命を下す。今回の災厄を打ち払え」
「なぜ俺が?」
十二神明王の方が明らかに役に立つだろう。
「さっき龍を倒したのは見事だった。その腕を見込んでのお誘いだ。ここでやらねば世界は壊れるだけだ。お前しかいない。世界を救えるのは」
煽て上手にも程があるだろ。そんなに煽てられたらやるしかないって思っちまうんだよ。
「俺がやる。俺がその災厄とやらをぶち壊して俺が最強の陰陽師になってやるよ」
「さすがです。政宗」
この戦いはくうせんの為でもある。だから戦わないなんて選択肢など存在しない。
「その代わり、俺に稽古をつけてくれ」
「ならこっちへ来い」
天狗のカイラに案内されてやって来たのは、森の奥の奥の。そこには天狗が大勢居てなんとも恐ろしい所だった。
その中で、カイラは俺に様々なことを教えてくれる。
「まずお主には身固めという物が無い。だから身固めを授ける」
「身固めって何ですか?」
俺は陰陽師になるまで特にそこら辺の知識すら与えてもらえなかった。ただひたすら読書、運動、読書、運動の繰り返し。
だから安倍晴明の話に出てくる言葉しかしらない。
「身固めとは妖怪を倒すために必要な道具の事をいう。例えばこれだ。霊符。これは妖怪を滅するのに有効な術が組み込まれている。だからこれを使えばその力が無くとも力を引き出せるっちゅう代物や」
「面白そうだ」
これがあれば、術を使えなくても術を使える。
「ここにある霊符全部あげるで」
木に張ってあった霊符には様々なもにがある。
爆破の霊符に回復の霊符、転移の霊符まである。こんなたくさんの霊符があれば、どんな敵にだって勝てる。
「次は妖刀っちゅう刀について説明するわ。妖刀っちゅうのはな、妖怪を斬ることが出来る武器や。普通の武器で妖怪を斬ってもほぼダメージは与えられん。だが妖刀はどんな妖怪でも斬れる。例外は有るがな。」
「斬れない妖怪って何ですか?」
「体が水でできていたり、雷でできている妖怪や。お前にはこの刀をやる」
俺が都市神のカイラから受け取った刀は白い鞘に白い柄。そして白い刃。
「その刀の名は妖刀、"二代目白波"」
少しだけくうせんの刀に似ているような気もする。
「本当にくれるんですか」
「もちろんや。お前には期待してるぞ。最強の陰陽師」
「はいっ」
カイラにさりげなく励まされる。これで少しは自信がついた。
身固めバッチリ。これで妖怪を滅多斬りに出来る。
「そして最後に霊装だ。霊装は命を守ってくれる、今までで最も欠かせない防具だ。この服が霊装だ。着てみてくれ」
その服は、護衛たちが着ていた服に似ていて、白く、魔方陣のようなもようはところどころに書かれている。
「サイズはピッタリ。特に変わった様子も無いけど……」
「焦るな。ついてこい」
カイラに導かれ、到着した場所は巨大な木々が生え揃う森の中の闘技場。天狗同士が勝負をしている。
「お前にはここで修行をしてもらう」
「ようこそ、天狗の極楽場へ」
天狗達の笑い声が森一帯に響き渡る。
「怖すぎだろ」




