第148話 五行を極めし者
源氏香ーー彼女は腕で襲いかかってきた女性を弾き飛ばし、もう片方の手で握っていた刀を両手で握る。
「戦兎。まだ生きていたのか。てっきり、我が一族内のそこらの陰陽師にやられたと思っていたが」
「馬鹿か。俺は〈半妖〉の中でも強い方だ。そんな俺を倒せると思うな」
戦兎と源氏香がぶつかり合う。
だが端から見ても解る通り、源氏香は明らかに手を抜いている。
「お前ら。では"金"の面白い使い方を教えてやる」
源氏香は握る刀に力を入れ、戦兎へ向け大きく振るう。その攻撃をギリギリで回避した戦兎であったが、頬に切り傷が入ったのを感じる。
避けたと確信した戦兎は驚きのあまり、源氏香が握っていた刀を見る。だが戦兎の目に映ったのは刀ではなかった。
「なぜ……鎌!?」
源氏香の手の中に収まっていたのは、長い棒の先端に半月状の刃がついた武器ーー鎌であった。
「"金"。それは基本的に自身の体を変形させる。だがそれを極めれば触れているものを変形させることが可能なんだ。まあ集中力と冷静さがなければ到底無理だがな」
源氏香の握る鎌は刀へと戻った。
「戦兎。今のお前がどれほど頑張ったところで、"百年"、その差を埋めることはお前じゃなくても誰にもできない」
「ちっ。相変わらず化け物だな」
「当たり前だ。火護島の守護者ーー源氏香。私はこの島を護り抜く。そのために地獄から蘇ったのだ」
真面目な顔でそう言って、優しい刃を戦兎へ向ける。
「〈半妖〉。妖怪との共存を望む組織。どうしてお前らは、妖怪と共存を望む?」
源氏香は戦兎へ問う。
戦兎は振り上げた腕を止め、静かに拳を下げた。
「俺は"妖化"によって妖怪と人間の混血になった。そうなるまでは妖怪を倒していたが、もう妖怪を憎めなくなった。だって自分が妖怪になったんだ。そんな本末転倒な話があると思うか?それ以来、俺は八幡宮空戦に出会い、〈半妖〉に入った」
「それが、お前の運命か?」
「いいや。これが俺の意思だ」
「なら好きにしろ」
呆れたため息とともに、源氏香は刀をしまった。
「源氏香。なぜ刀をしまう!?」
「当たり前だ。意味のない戦いをするより、少しでも意味のある戦いをした方が正しいと思った。だから結論として、私は君を見過ごすことにした」
源氏香は戦兎へ背を向け、政宗たちの方へ足早に去っていく。
「客人たち、今日は屋敷で稽古をつけてやるよ。だから来い」
遠ざかっていく源氏香の背中を、政宗たちは必死に追いかける。
そんな彼らの多くの背を眺め、戦兎は地面に転がっている小さな石を蹴り、海辺へと飛ばした。そんな石が蹴り飛んだ海を眺め、戦兎は呟く。
「解らない……。いつだって俺には進むべき道があった。というのに、どうしてかその道が間違っていたのではないか、そう思えて仕方がない。もし合っていたとして、その道を俺は迷わず進めるだろうか?答えは、もう出ている……。俺はーー」
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屋敷へ戻った源氏香たちは、五行の特訓をするために屋敷の庭で戦闘を繰り広げていた。
「『滅拳』」
火炎を纏った政宗の拳が源氏香へ進むも、源氏香は体を蛇のようにくねくねとさせ、かわして政宗の顔へ蹴りをいれる。政宗は地面へ転がり、庭に無造作に生えている木へと激突する。
「おいおい。"金"を発動させてなかったな。陰陽師での戦闘で最も重要なのは、反射神経だ。相手の動きをいち早く察知し、その場に最も適した五行でその場を切り抜ける。それが陰陽師の基本だ」
「とは言われても、攻撃が速すぎて見えないんですよ」
手を顔に当て"水"で癒している政宗は、そう抗議する。
「そうか。ではお前ら皆でかかってこい。連携、それができる陰陽師ほど、強い者はいないからな」
政宗、清正、黄身。
三名は源氏香を囲むようにして立ち、彼らを援護するように紫陽花が後方についている。
「さあ、かかってこい」
その掛け声とともに、政宗、清正、黄身の三名は一斉に源氏香へと襲いかかる。
「『滅拳』」
政宗は火炎を纏った拳で源氏香を殴る、がやはり避けられ、政宗の腹へ源氏香の拳が進む。それを防ぐように、黄身が火炎の鮫を源氏香へ発射する。
だが、源氏香は素手で清正の体へ弾き飛ばす。それに動揺したのか、黄身の目線は吹き飛ぶ清正へ注がれている。
「よそ見は禁物」
源氏香は地面に手をつけ、蹴りを黄身の側頭部へ入れる。
だが、蹴りを入れた途端の源氏香へ、政宗が背後から火炎を纏った拳で殴りかかる。が、そのまま源氏香は一回転し、政宗の腹へ蹴りを直撃させた。
「私に触れることは不可能だよ。今の君たちじゃ」
悶え、倒れる政宗たちを、源氏香は静かに見つめている。
「もう少し修行を積ませるしかないか。だが、見込みがありそうな奴は見つけた。よし、ではもう一戦、今度は私は一歩も動かない。じゃあ始めるぞ」




