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陰陽術の使い方  作者: 総督琉
真実の過去編ーー火護島決戦編
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第146話 火護島の陰謀

 政宗が目を覚ますと、既に清正と黄身の姿はなかった。だが紫陽花は疲れているのか、ぐっすりと眠っている。

 政宗は起こすのを躊躇い、襖を開けて外の様子を見る。するとちょうど、開いた襖を一人の男がすれ違った。


「桐壺さん。二人の少年を見ませんでしたか?」


 政宗の声に振り返り、桐壺は相変わらず壺を持ったまま、政宗の方へと振り返る。


「見ていない。その情報を知れただけでも感謝しな。じゃあ」


 桐壺は無愛想にも去っていく。

 そんな桐壺の背中をもの可笑しげに眺め、そのまま二人を探しに廊下へと出た。


「清正ー。黄身ー」


 その政宗の声に、返事は誰一人として返ってこない。そんな寂しさに襲われながらも、政宗は複雑に入り組む廊下を歩き回っていた。

 そして二十回ほど角を曲がった頃だろうか、政宗はとうとう迷子になってしまった。


「なるほど。これじゃああいつらも迷子になるのは仕方ないな」


 政宗は独り言を呟きつつ、広い廊下を亡霊のようにさまよい歩く。


「ねえ、君が噂の客人くんかい?」


 政宗の視界には天井を床として当たり前のような顔をして歩いている一人の少女に出会った。


「俺は政宗です。あなたは?」


少女(おとめ)。源氏香一族の看板娘さ」


「看板娘?」


 政宗がきょとんとした表情を見せると、少女は悲しそうにため息を吐く。


「最近の子供は、お笑いというものを知らぬのか。全く、これだから」


「はははっ、面白いな」


「おいおい。さすがに舐めておるな。まあいい。どうせ迷子になったのだろう。私がお前を案内してやる」


「ありがとうございます」


 少女は政宗の前を歩き、政宗は少女の小さな歩幅に合わせ、ゆっくりと歩いている。それが気になるのか、少女は駆け足気味に足を動かす。だがそれでも政宗の歩く速度があまり変わらないことに苛立ち、颯爽と振り返る。


「おい。どうしてほぼ同じ身長で同じ年齢なのに、こんなにも歩幅や歩く速度に違いが出る!」


「同じ身長って言っても……」


 と言って政宗は少女の全貌を眺める。


 白鳥のように白い髪に、天使の羽衣のような白いワンピース。その服から伸びる手足は、天使を連想とさせるほどに透き通っており、美しいであろう。

 だが彼女はまだ少女だ。子供で政宗よりも一回り小さく、一概には大きいとは言えぬだろう。


 その全貌を見て、政宗は少女の頭の上の空間を見る。


「低いというのか。私が低いというのか」


 少女は自分の視線と政宗の視線が合わないことに苛立ち、背中に"金"で拳一つ分の羽を生やし、その羽を動力として宙を浮く。


「これで身長は関係ないだろ」


 少女はそう言って、宙を飛んで政宗を案内する。

 だが少女は速い速度で宙を移動するので、政宗は駆け足気味になって少女を必死に追う。


「ところで少年、お前は陰陽師なのだろ」


「ああ」


「やはり陰陽師をしていると、辛いことが多いんだ。仲間が傷つくのは見たくないし、だからと言って戦わなければ仲間は私の知らないところで傷ついてしまう。だから私は怖いんだ。毎日が怖い。いつか失ってしまう。そう思うだけで、胸が張り裂けそうになる。だからお前も大切にしなよ。身近な人を」


「はい」


 政宗の脳裏に浮かぶその女性は、人ではないが人であった。


 ーーいつか必ずお前を笑わせてやる。


 そう言って彼女を戦場へと連れ出し、結果は死という犠牲をはらって政宗を襲った。その記憶が何度も頭の中で鮮明に思い出され、政宗は少し憂鬱な気持ちになった。


「どうかしたか?」


「いえ。ちょっと昔、嫌なことがあっただけです」


 そう言ってうつむかせた顔をあげ、前へと走り出した。

 そうこうしている間にも、政宗は紫陽花の眠っている部屋へとついた。


「では少年、また会おう」


 そう言って、少女はまた空を飛んで去っていった。

 政宗は紫陽花が眠っている部屋に戻ると、そのすぐ後に清正と黄身が帰ってきた。


「政宗お兄ちゃん。この城、めちゃくちゃ広いんだ」


「ねー。抜け道とかもあったもんねー」


 楽しそうに話している二人を見て、政宗は笑顔を取り戻した。

 すると二人の声に目を覚ましたのか、紫陽花が布団から目を擦りながら起き上がる。


「紫陽花、おはよう」


「おはようございます。政宗様」


「紫陽花お姉ちゃんおはよう」


「おはよう」


 清正と黄身の元気な声が響き渡り、その声に政宗と紫陽花は微笑みを見せる。

 すると源氏香が部屋へ入ってきて、


「皆様。食事の用意ができましたので、居間へと案内させてください」


 長い廊下を歩き、僕たちは居間へとついた。

 百畳はあるその居間には、百人を越えるか越えないほどの数の者が多く集っており、声が周囲を波風のように行き来している。


「これが源氏香一族さ。是非とも仲良くしてくれたまえ。さあ、食事の時間だ」

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