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陰陽術の使い方  作者: 総督琉
真実の過去編ーー鬼の洛陽編
134/161

第134話 母上との再会

 僕は父上の後ろを歩き、母上がいるであろう一室の襖の前についた。

 静けさが妙に心を慌だたせる。


「政宗。入るぞ」


「はい」


 虫にような声で返事をし、父上は襖を音を立てずに開けた。

 その部屋は一面畳が敷かれており、その部屋の端には、一畳だけ浮き上がっているような場所があった。そこに、政宗と鬼鶴に背を向けて座る華やかな女性。


「母上……なのですか」


「この声は、政宗!?」


 政宗の声に驚き、平等院(きょう)は振り向いた。経の視界に入ったのは、耳で聞いた通り政宗であった。

 経は急ぐようにして立ち上がり、政宗のもとへと駆け寄る。政宗の小さな体をしゃがんで眺め、そのまま勢いよく抱きついた。


「政宗。生きててくれて、ありがとう」


 涙ながらに言う母上の温かさに、政宗は脱力していた。

 今までの疲れが涙となって体の外へと流れ、政宗はその温もりび包まれたまま、深い眠りへと入った。

 眠りへと誘われた政宗を抱えたまま、経は布団へと運ぶ。


「よっぽど疲れていたんだね」


「政宗は安倍晴明と戦ったらしい」


「そう……」


 蝉の音にかき消されるような音量で話しながら、経と鬼鶴は政宗の寝顔を静かに見つめる。


「なあ経。夜鬼はどうした?」


 息子を心配しての質問に、経は動揺を隠せずにいる。

 鬼鶴は経の表情を見ただけで、夜鬼の身に何があったのかをおおまかに察する。


「経。夜鬼は、鬼に拐われたのか?」


「……うん」


 息を吐いたかのような声の力なさを聞き、鬼鶴はその部屋の片隅に立て掛けられてあった刀を手に取る。


「経。政宗を頼んだ。すぐ戻ってくるから、待っていてくれ」


 経が鬼鶴の背中へと手を差し伸べるが、彼女の手が鬼鶴の背中へ届くことはなかった。

 雪が雪崩を起こすように畳にうつ伏せになって倒れ込み、政宗の呼吸の音だけが響くその部屋で、経は寂しく這いつくばる。


「鬼鶴……、今度の鬼は、鬼鶴じゃ勝てない……」


 ささやかながらに呟かれた声は、既にその部屋を後にした鬼鶴には届かないことであった。


 刀を握りしめ鬼の森へ進む鬼鶴は、道中で謎の二人組に会う。

 一人の男が手を押さえて期に寄りかかり、もう一人の女は血が出ている男の腕へ手をかざし、傷を癒していた。


「何があった?」


 恐る恐る声をかける鬼鶴に、二人は顔を見合わせ、事情を話した。


「実は、この先を行ってすぐにある森の中で、一匹の鬼が俺たちを急に襲ってきたんです。俺はなんとか戦ってはみたんですが、そいつの強さに圧倒され、逃げてきたという始末です」


 痛みに耐えながらも話してくれた男に感謝し、鬼鶴は森の奥へと入っていく。


「駄目です。あれは、人が勝てる存在じゃない」


 だが、心配する声に振り向きもせず、鬼鶴は森の奥へと進んでいく。

 鬼鶴のまっすぐな背中を見て、二人は顔を見合わせて不思議そうな顔をする。


「あいつは一体、何者なんだ?」


「もしかしたらだけど、あの男なら、あの鬼を倒せるんじゃない」


 淡い期待を寄せられていることも知らず、鬼鶴は森の深くへと入っていく。

 そこには一つの神社のような何かがあった。その中恐る恐る入っていくと、そこには小さいながらも祭壇があった。


「そこの陰陽師。貴様は何故ここに来た?」


 突如、何者かの声が鬼鶴に問う。

 鬼鶴は一瞬驚きはしたものの、すぐに理解し、声を上げる。


「なあ、ここら辺で小さい子供を拐う鬼を見なかったか?」


「知らんな」


「そうですか……」


 ため息のように鬼鶴は呟く。

 その神社を出ようとした鬼鶴を、謎の声が止める。


「陰陽師よ、お前はどうして祈りもせずここへ入ってきた?」


 その言葉には、明らかな殺意と怒りが込められていた。

 鬼鶴は咄嗟に鞘を払い、刃をむき出しにさせた。ちょうど鬼鶴の身長と同じくらいのその刀は、銀色に光って輝いている。


「陰陽師、お前にはお仕置きが必要らしい」


 そう呟くと、鬼鶴は小さな神社から出ており、いつの間にか森の中にいた。

 周囲を見た限りでは、先ほど神社があった場所がここらしい。


「なるほど。あの神社は幻影か」


 鬼鶴は自慢げに呟いていると、一人の鬼が空から降ってきた。

 見た目は完全に人間である。だがしかし、頭からは人にはありえない二本の角が生えており、筋肉質なその体は鬼を擬人化させたかのような体質。


「その角、"金"で生やしているようではなさそうだな」


「私が鬼の神カグレ。今から貴様を殺す者だ」

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