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陰陽術の使い方  作者: 総督琉
真実の過去編ーー鬼の洛陽編
133/161

第133話 弱者

 朝陽の光を浴びながら、政宗は目を開けた。


「あー。そう言えば俺、負けたのか……。巨大植物の力を使っても尚、奴には勝てても奴らには勝てなかったらしい」


 そんな政宗の前に現れたのは、


「帰ってきたか。政宗」


「父上!?」


 平等院鬼鶴。

 久しぶりに見る父の顔は、いつもよりも優しく、実に温かいものであった。


「政宗。洛陽に帰るぞ」


 鬼鶴は政宗を抱き抱え、そのまま洛陽へと歩いた。

 険しい森の中を歩く鬼鶴が一歩を踏み出す度、不均等に生え並ぶ木が鬼鶴へ道を空けるように左右に掃けていく。鬼鶴は政宗を丈夫な両腕で抱え、静寂の中を歩む。


「父上。俺は……安倍晴明を仕留めることができませんでした」


 涙を堪え、政宗は鬼鶴の袖部分を掴みながら濁った声で言った。


「政宗。そんなことは気にしなくていい。結局、誰を仕留めたとか、誰を捕まえたとかは重要じゃないんだ。どんなに苦しい思いをしても、お前が生きてさえいれば、俺は嬉しいよ」


「でも……」


 先ほどよりも強く握られた拳。

 鬼鶴は心に傷を負ったままの政宗へ、鬼鶴は静かに頭を撫でる。

 ゆっくりと、髪を伸ばすようにしてさらっとさせ、頬に流れる涙に触れながら、政宗の耳元で呟いた。


「そんじゃ、あとで一杯母の膝の上で泣きわめけ。俺の膝には、先客がいるんでな」


「先客って……」


 少し和んだ空気の中、鬼鶴はワントーン下げ、言葉を放った。


「政宗。お前はどうして自分が世界の変化を遂げるその渦中にいるんだ?そんなの、いつか誰かが変えてくれるのに」


「それじゃ駄目なんだ。いつかなんてものを待っていても、そのいつかがすぐに来るとは限らない。誰かが変える世界よりも、俺は自分が変えた世界を見てみたい。どんな世界になるのか、見てみたい」


 子供のように、というよりか実際に子供である政宗は、自分の夢を楽しげに話す。

 その政宗を表情を見るや、鬼鶴は笑みをこぼして安心する。


「やっぱまだ子供だな」


「誰がだよ」


 すっかり元気を取り戻した政宗は平等院の門前についた。

 久しぶりに見るその外観に、政宗は懐かしさに胸を押さえ、心臓の鼓動を肌で感じる。


「父上……」


「どうした?緊張してるのか?」


「いえ……。何だが少しだけ、入るのが怖いんです」


「大丈夫か?」


 震えながら座り込んだ政宗に、鬼鶴は背後から心配そうな顔で見つめる。


「もしまた失ってしまったら、後悔してしまうから。だから俺は、足を進めるのを躊躇ってしまうんです。もう失いたくないという気持ちのせいで、足が震えて動けないんです」


 言葉の大半を理解し、鬼鶴はしゃがみこむ政宗を無理矢理抱えた。


「政宗。行くぞ」


 持ち上げられ、政宗はそのまま平等院の中へと入っていく。

 震えた足でも入れるけど、政宗は母と会うのが怖い。このまま会わなければ、一生忘れたまま記憶から消えるのに。でも今会えば、二度と母が記憶から消えることはない。


 ーー政宗は、言ってたじゃん。傲慢な陰陽師になるんだって。


 空戦の声が、政宗の脳内に繰り返される。

 立ち止まるな、ただ進め。


 政宗は何かを振り切ったように表情を変え、自分があるべきその姿を、自分の脳内で思い描いた。

 隕石を破壊し、地震を止め、世界を新に戻す。

 そんな傲慢な想像は、いつか叶えられるだろうか?


 政宗は鬼鶴の腕の中から飛び出し、鬼鶴へと振り返る。


「父上。俺、決めたよ。父上を越える、傲慢な陰陽師になる」

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