第130話 巨大植物が宿りし者
「安倍晴明。お前じゃ、俺を越えられない」
安倍晴明の背後にいつの間にか生えていた巨大な木。驚くべきはそれだけではなく、安倍晴明へと歩く人影。
「政宗。どうして生きている!?」
そう。
体を斬られたはずの政宗は、どういうわけか、生きている。
安倍晴明は瞳孔を見開かせ、平等院政宗の指先から髪の毛一本まで見入る。
「安倍晴明。五行って知ってるか?」
「ああ。火、水、木、金、土の五つからなる陰陽師の技」
「それを利用すれば、自身の体をもう一つ生み出すことなど、いとも容易い」
政宗は地面に手を触れ、自身の横に自分と同じ大きさの木を創製した。政宗がその何の仕掛けもない普通の木に触れると、木は政宗の姿と同じになった。
安倍晴明は二人の政宗に目が釘付けになる。
「何をした!?」
「よく勘違いをする奴が多くいるんだが、"金"は硬化する力ではあるが、それだけではないんだよ。"金"は自在に変形させる技。つまりは硬化もできるし、背中から羽を生やすこともできる。さらには猫耳や尻尾を生やすことも可能だ。五行を極めれば、お前に勝てる」
政宗は多くの経験から、多くの技術を得た。それが、安倍晴明の首を追い詰めている。
「なあ安倍晴明。俺は、子供だ。だけど、もう失いたくない。だからここで、お前を討たせてもらうよ」
政宗は木に寄りかかって座り込む安倍晴明へ、硬化させた拳を獲物を喰らう鷹のように進ませる。が、その瞬間、上空から降ってわいた何者かにより、火炎の空間が一瞬にして破壊された。
砂煙が煙幕の代わりを成し、政宗は目元を手で押さえ、砂が目に入らないように防ぐ。
「すまん。助かった」
「誰だ?」
政宗は肩に痛みを感じ、肩に視線を送ると、肩には小さな針が肩に刺されていた。しかもその針には毒が塗られており、政宗の意識は遠退いていく。
「ふざけるな……」
政宗は針を抜き、肩に手を当て、"水"で毒の硬化を薄める。
とは言っても、毒が完全に消えたわけではない。
砂煙が消えた頃、既に政宗の周辺には安倍晴明と襲撃者の姿はなくなっていた。
政宗は膝から崩れ落ち、地面を叩く。
「くそー」
政宗はゆっくりと立ち上がり、四国の町を見てみると、なぜか一面赤い何かーー火炎、のようなもので破壊されている。
「一体……何が……!?」
焦土と化した町を見て、政宗は頭痛を感じる。
頭を押さえ、再びしゃがみこんだ。
一人では抱えきれないほどの痛みが、一気に自分を襲っているのだ。この痛みに平等院政宗は吐き気を覚えてしまうほどに苦しいと感じている。
「駄目だ……意識が…………」
遠退いていく意識を堪えきれず、政宗は墓場で横たわった。
「すまん。秋蓮……」
政宗が倒れたちょうどその頃、西願寺に一人の少年が向かっていた。
虫のような足音とともに、少年の背後には剣を腰に提げ、蛇の髪をし、腰からは蛇の尻尾を生やした妖怪が歩いている。
「さあて、行くぞ大和大蛇。ここにいるであろう、あの島の生き残りを拐い、仲間にするぞ」
「了解です。王孫様」
少年は西願寺の門を足で蹴り飛ばし、龍の叫び声のような轟音とともに破壊した。
崩れ去った石片を踏んで歩き、西願寺の中へと乗り込んだ。
「さあさあ、どこにいるのかな?」
少年は躊躇いなく、西願寺の中を暴れまわって暴虐の限りを尽くす。
その音に気づき、紫陽花がその場所に駆けつけてみると、一人の少年が返り血を浴びながらも西願寺の陰陽師を蟻のように踏み潰している光景が目に入った。
「何を、しているのですか?」
紫陽花は怯えながらも、その者たちに言い放った。
だが、紫陽花に王孫は憤怒の視線を向ける。
「大和大蛇。その女を黙らせろ」
「解りました」
大和大蛇は閃光の如く腰の剣を抜き、紫陽花へと襲いかかった。
"水"しか使えない紫陽花は戦う術を持たず、顔を腕で隠すように護り、来るべき死を刻一刻と待ち拒む。
(死にたくない。死にたくない。誰か……」
紫陽花の脳裏には、走馬灯のように政宗の顔が思い浮かんだ。
「政宗……」
大和大蛇の剣閃は、横から割って現れた女性の刀閃によって受け止められた。
「危ない危ない。危うく、陰陽師を一人死なせるところだった」
紫陽花をかばったのは、
「貴様、誰だ?」
「覚えていないか?島で会っただろ。まあ大人になった私の姿を見て、私が誰だか気づくことは無理だがな」
その女性は刀を振り払い、大和大蛇を数歩後方へと吹き飛ばす。
二人は互いの間合いが届かないギリギリの距離で着地をし、両者は武器を構え直す。
「私は八幡宮空戦。あの島の生き残りだ」




