第129話 何も失わないために、少年は犠牲になった
安倍晴明は木の枝から降り、政宗の手が届く距離まで歩いた。
軽い挑発だ。それにのらず、政宗は平然と安倍晴明の目を見ている。
「平等院政宗。お前は私と何がしたい?」
「お前を殺せば、全てが終わるわけでもない。真実の過去は、変えることができないから。それでも俺は変えてみせる。変わるまで、何度も戦ってみせる」
「ならこい。返り討ちにしてやる」
安倍晴明が扇子を出してそれを横一閃に振るうと、政宗が抱えていた秋蓮が満開の花びらとなって風に流された。
「これで成仏はしーた。始めようか」
突如秋蓮が消滅させられ、政宗は冷や汗をかく。
「こっちからいくぞ」
安倍晴明が扇子を上から下へ振り下ろすと、政宗の全身には謎の重み生じ、その重さに潰されそうになる。片足の膝が地につくが、政宗はもう一方の片足に力をいれて耐える。
「そういえば気になっていたのだか、どうやって秋蓮に巨大植物が植えられていると分かった?」
「簡単だ。風呂で見たんだよ。秋蓮の背中に、異様に強調されている血管を。最初は見間違いかと思ったが、巨大植物に侵食されているのだとしたらあの血管が何なのか想像がつく」
力みながら話す政宗に、安倍晴明は「なるほど」とたった一言を放ち、扇子を後方へ引き寄せ、そして政宗の方向へと思いきり突いた。
暴風が政宗へと吹き荒れ、政宗の幼稚な体はいとも容易く吹き飛ばされる。
「俺が子供じゃなかったら……」
政宗は後方の墓石へと衝突し、意識が飛んだ。
「やわな体だ。未来のお前の方が強いんだろうな」
失った意識の中で、政宗は真っ白な脳内で自分自身と会話をする。
彼は何も失わないために巨大植物を身に宿した。
それがどうして何も失わない方法になるかって?
巨大植物は宿主を殺された際、殺した相手に再び核を宿す。つまり今は少年に核が宿っている。では少年は巨大植物に侵食されて死んでしまうのでは?
ーーそれは違う。なぜなら少年は、努力と才能で掴み得た五行という力を有しているから。
何度も倒れた少年は、歯を食いしばって立ち上がった。
「まだ立つのかよ」
「安倍晴明。俺は、もう負けないと決めたんだ」
失ってきた者たちへ償うために、
「うぉぉぉおおおおおおお」
護れなかった者たちを静かに眠らせるために、
「『滅界』」
これが、俺の全力だ。
周囲を火炎が覆い、安倍晴明と政宗はその空間で二人きり、閉ざされることとなった。
「お前。この程度の火炎で私をとどめられると思っているのか?」
「火炎だけだと思うか?」
安倍晴明は火炎の中になにかを感じ、薄目を凝らして火炎の中を覗く。
火炎の中には、太い緑色の長い何かが火炎の中に無造作に散りばめられている。
「なんだい?これ」
「巨大植物の根だよ」
「へー。君も面白いこと言うんだね。でもそんな冗談が私に通じると思うのかな?」
軽くあしらう安倍晴明であったが、
「ではかかってきてよ。そしたら俺が巨大植物の力を有していると解るから」
「そうかそうか。では遠慮なく殺そう」
安倍晴明は扇子を後ろへと振りかざし、横から一直線に前方の政宗を斬るようにして振るう。
「『切断』」
政宗の体は胴体を軸として、真っ二つに斬られた。上半身は地へと転がり、下半身は静かに膝をつき横たわる。
安倍晴明は扇子を口元に当て、その光景を見て優雅に微笑む。
「あーあ。殺せって言うから、殺しちゃったよ」
哀れ、と心の中で思っていると、安倍晴明の側頭部に突如蹴りが炸裂する。安倍晴明は顔から吹き飛び、頭部を後方の木へと激突させる。
「安倍晴明。お前は五行を知らなすぎる」
安倍晴明の側頭部を蹴り飛ばしたのは、先程体を真っ二つに斬られたはずの平等院政宗であった。
「な、なぜ……!?」




