第118話 それが僕らの生きる道
驚異を前に、不思議と僕は落ち着いていた。
相手が何者かは知らない。だが相当の強者であり、容赦をしない男だというのは、見ていれば分かることであった。それでもーー
「『滅』」
火炎が大和大蛇の顔へ直撃し、煙が大和大蛇の顔を覆う。だが、大和大蛇は煙を息で吹き消した。
「大和大蛇。お前は僕が、倒す」
「かっこいいな。お前、見込みがありそうだ。だがーー」
「『滅拳』」
政宗は火炎を纏わせた拳を大和大蛇の顔面へ叩き込む。だが大和大蛇はそれを避け、政宗の腹を蹴り飛ばす。
「まだ子供だ。そんなやわな腕じゃ、敵わねえよ」
大和大蛇は転がった政宗の腹を蹴る。政宗は激痛を味わい、気絶寸前だった。
ーー痛い痛い痛い痛い痛い。
だが、政宗は立ち上がり、大和大蛇の腹に蹴りをいれる。
「『滅脚』」
政宗は足に火炎を纏わせ、その足で大和大蛇の顎を蹴り飛ばす。
だが大和大蛇はすぐに顔を下ろし、目線を政宗へと向ける。
(まずいな……。さすがに、勝てねえよ)
どんな攻撃をしようとも、子供の彼では攻撃はやわなものとなってしまう。
政宗は地べたに尻をつけたまま、起き上がれない。
大和大蛇は二本の剣を政宗の首目掛けて突き刺す。が、大和大蛇はその寸前で剣を止めた。
政宗は目を見開き、喉元で止まった剣を見る。
「平等院政宗。お前を殺すにはまだ惜しい。次の空間、そこで生きていられれば、強いお前と戦うことができる」
大和大蛇は政宗をお姫様抱っこし、光が差し込む場所へと放り込んだ。政宗はその光に吸い込まれるように大和大蛇の視界から姿を消していった。
独りとなった大和大蛇の前に、少年が現れる。
「大和大蛇。なぜあいつを逃がした?」
「まだ子供が残っていたか」
大和大蛇は剣を構え、現れた少年へ斬りかかる。
「まあ聞け」
大和大蛇が振るった二本の剣を、現れた少年は素手で掴む。剣を掴み、少年は大和大蛇の握る剣を軽々と粉々に砕いた。
少年は大和大蛇へと歩み寄る。
「お前。子供か?」
「お前たちは最強の陰陽師の力を継承する子供を探しているのだろう。だったら俺のように強い子供が一人くらいいてもおかしくないだろ」
「名は?」
「王孫。もし俺がそいつの力を継承したら、お前、俺の仲間にならないか?」
王孫は大和大蛇へ手を差し伸べる。
大和大蛇はその手を掴み、ゆっくりと立ち上がった。
「お前、どれほどの未来を見ている?」
「百年後」
大和大蛇は堪えきれずに笑ってしまった。
だが、王孫の真っ直ぐな目を見て、その少年の真剣さを知る。
「王孫。もしお前が彼の力を継承すれば仲間になってやる」
「ああ。じゃあ先へ行っておく」
王孫は光の先へと進んだ。
その光の先に、一体何が広がっているのかーー




