第114話 僕は、無力だ。
巨大植物の核に侵食されるくうせん。
そんなくうせんを、俺はただ眺めていることしかできなかった。
「くうせん……」
全身が巨大植物に埋まってしまった彼女。
何もできないまま、彼女は巨大植物と一体化してしまった。
巨大植物は暴れだし、巨大な根が地面を削り、政宗を遥か後方にあった壁に激突させた。
政宗は壁にぶつかり、血を口から吐いて意識を失いかける。というよりも、政宗は既に戦意喪失している。
薄目でくうせんが核となった巨大植物を静かに眺めている。
「どうして……どうしてこうなった……。巨大植物は、核となっている者を殺さない限り、その暴走を止めることはできない。つまり……くうせんを殺さなければ、くうせんは……救えない」
政宗が傍観者の如くくうせんを眺めていると、巨大植物の根が政宗の脇腹を貫いた。
血飛沫があがり、政宗は横たわってぐったりとする。
そんな政宗へ、再び根が進む。その根は政宗を貫く前に焼失した。
「大丈夫か?少年」
政宗を助けたのは、鼠のお面を被った一人の者。
彼は火炎で根を焼き払い、ここら一体にある根をいとも容易く焼失させた。
子神は巨大植物の根を焼き払っている最中、その核となっている一人の女性を見つけた。
「そうか。君の……式神だったな。だがすまんな。殺さなければ、被害は拡大してしまう。だから、ここで終わらせる」
子神が両手をくうせんに向けてかざし、両手に火炎を込める。
それを見ていた政宗は、子神の足にしがみついてそれを止めさせる。
「やめてくれ……。それだけは……くうせんは俺の大切な人なんだ」
「すまないな。それでも、多くの犠牲を出すくらいなら、ここで奴を食い止めるしか、他に方法はないんだ」
「違う。巨大植物を殺しても、巨大植物の核は殺した者へ乗り移る。だから……」
子神は腕を下げる。
彼女を殺したところで、また犠牲者が出るようでは意味がないと悟ったからだ。だがこのままでは巨大植物の暴走は止められない。
「なあ。もし巨大植物の核を殺し、尚且つ殺した者が死ねば、巨大植物はもう暴れずにすむのか?」
突然、一人の少年が政宗に話しかける。
「そ、そうだが……」
「鼠の面の者よ。そこの少年とともにここから去ってくれないか?」
「何をする気だ?」
「悟ってくださいよ。二人とも」
子神は何かを察知し、その男の言う通り、政宗をかついでその場から離れた。
「待ってよ。くうせんが。くうせんがまだ、取り残されているんだ」
「すまないが、君の式神は……死んだよ」
政宗の表情は、酷く曇ってしまった。
涙すら枯れ、政宗の表情にはどんな感情も失われてしまった。
そして、謎の男は一人の式神を召喚した。その式神は根を全て凍らして、動きの一切を封じた。
男は、核となったくうせんを眺める。
「霞姫。あとは僕がやる」
「寺雷。お前は……それでいいのか?」
「ああ。我が一族のアホが招いたことだ。その責任をとるのは、僕しかいないだろ」
「地雷。では、ご冥福をお祈りしておるぞ」
「ああ」
霞姫は破壊された壁から外へと出る。
くうせんと寺雷の二人きりとなった戦場で、寺雷は一歩ずつくうせんへと近づく。
「束縛されし魂よ、今、こも刀を持って、その命日に未来をもたらそう。『輪廻一閃』」
寺雷は刀でくうせんの心臓を貫いた。
巨大植物の暴走は止まり、塔のがれきを支えていた根が動きが止めたことにより、塔は崩壊していく。
巨大植物の核は寺雷の心臓へと埋め込まれていった。
寺雷は自らを『霞姫の霊符』で凍らし、『地雷の霊符』で自らを爆発させた。
「八幡宮空戦。お前を止めるのは、あの少年しかいないな……。頼んだぞ。未来の英雄よ」




