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陰陽術の使い方  作者: 総督琉
真実の過去編ーー陰陽戦編
105/161

第105話 その男ーー凶器である

 二回戦第二試合は終了し、第三試合が始まろうとしていた。


 先に会場に入ってきたのは、先端に二つの鈴がついている短い棒を持ち、白化粧をして麗しく輝く深紅の唇が特徴的な女性。舞妓を連想させ、赤が中心の着物を着た女性はーー


「うちは虚月。さあ、参らんせ」


 麗しのその女性は悠々と歩き、敵対する者を見る。


 虚月の正面の入り口から入ってきたのは、金髪碧眼の男。

 男は腰に鋭利で鋭い細剣を下げ、その剣先からは血がポタポタと滴り落ちている。


「おや。その血、なるほど。あんたが噂の陰陽師殺しか」


「俺は江戸城雪片(ゆきひら)。十二氏族の一人だよ」


 ※※※


 大会に参加している陰陽師が休憩しているその一室で、鬼鶴が寺雷を部屋の外に連れ出す。


「どうした?」


「まずい。十二氏族の裏切り者、江戸城雪片が……この大会に参加している」


 それを聞き、寺雷は耳を疑った。

 目を大きく見開き、彼は今起きている事態に困惑をしていた。


「鬼鶴。間違いないのか?」


「ああ。今、雪片は戦っている真っ最中だ」


 ※※※


 会場に漂う空気。それは、一回戦第六試合で相手の陰陽師を殺した者に向けられる視線。

 誰もがその男に恐怖し、悲鳴を喉元で堪えている。

 涙する者、恐れる者、逃れる者。

 そんな会場を察知していた雪片であったが、彼は目の前の敵に集中する。


 虚月は目の前にいる男から感じる並々ならないオーラを感じるも、ここで諦めるわけにはいかない。

 式神をもたない陰陽師にとって、この大会は二度もない利益。ここで諦めては一生悔いが残る。


「さあ、始めよう」


「『結』」


 たった一瞬。たった一瞬で勝負はついた。

 虚月が霊符を取り出したその瞬間に、虚月の体は凍りついた。


「何を……したんだ!?」


 観客は何が起きたのかを理解することはできなかった。

 目の前で一瞬にして凍りついた虚月を見て、声すらあげられない観客。


 観客席では土蜘蛛と僧旻だけが冷静に話をしていた。


「土蜘蛛。何が起きたと思う?」


「さあな。だが五行のどの技をどう応用しようと、氷を生み出すことは不可能なんだ。つまり、あの技は五行ではなく、妖怪の術である可能性が高い」


「そうだろうな。だが、式神などどこにも見えぬし、たとえ姿を見えなくしていたとしても、あれはあの男がやったに違いない」


「だが、そしたら彼はなぜあんな術を使える?」


「もしやとは思うが……いや、あの術は禁忌の術。容易に使っていい術ではない」


 僧旻はとある事件を思い出した。

 忌まわしい過去の記憶は、その記憶は忘れようとしても忘れられない悲しい記憶。


「土蜘蛛。三回戦は……」


「ああ。勝ち残った三人による勝負。この勝負、もしやあの男が一瞬にして二人を氷漬けにしてしまう可能性がある。だとすれば、というより結構前に流れた放送で、陰陽師殺しが出たという。そのせいで出場者は格段に減った。もしその犯人があの男なら、まずいかもな」


 土蜘蛛と僧旻は最悪の事態を想定し、額から汗を流す。


 そして陰謀渦巻く戦場にて、三回戦が始まった。


「では、開始」

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