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超常ポリスは眠らない〜異世界警察と天蠍の王女〜  作者: 白谷毛虫
第一章 ようこそアストラへ
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第七話 『アムネジアの村』

「こいつらは縛り上げとけばいいんですね?」


「ああ、ありがとう。すぐに王都の司法局に身柄の引致をしてもらえるよう伝書鳩を飛ばすよ。私はエニグマ・ワース。この村の長だ」


「あの、助けて頂いてありがとうございます! 私、アガーテ・R・ワースです。すごくお強いんですね!」


「あはは、俺の力じゃないですよ。俺は〜えっと、サク。サクって呼んでください」


 その後、朔太朗改め『サク』は村の入口付近に建てられているエニグマの家に招かれていた。


「それで、何が起こっていたんですか?」


「私はこの村で『アムネジア』の保護と社会復帰の支援をしていてね。それに反対する者達も少なからず存在する訳さ。まあ、あの男達は雇われ人だろうがね」


「アムネジア?」


 エニグマは軽く頷くと説明を続ける。見たところ五十代前半といったところのスキンヘッドで貫禄のある男性だ。


「本来この世界へは人間界での生を終えた魂が生まれ変わることでやってくるんだがね、稀に生まれ変わりを経ずに迷い込んで来てしまう者がいる。彼らは例外を除いて記憶を失っていることから『記憶喪失者(アムネジア)』と呼称されているんだ」


「なぜ記憶を?」


「恐らく彼らは人間界で死亡した際、偶然この世界の波長とシンクロして迷い混んでしまった存在だと考えられる。肉体と同時に生前の記憶も失ってしまうのだろう」


「なるほど、それで保護している訳ですか」


「ああ、アムネジアはこの世界での生き方が分からず住人とトラブルを起こしやすい。それが長い間社会問題となっていたんだ。それで私達が王都から離れたこの未開の地を開墾して自給自足をしながら彼らの社会復帰の手助けをしているという訳さ。今ではここは『アムネジアの村』と呼ばれているよ」


「私も元はアムネジアなんです。小さい頃お義父さんに保護してもらったのが縁で養子になりました。行く宛もなかったのでとても感謝しています」


 アガーテは運んできたお茶をテーブルに置きながら嬉しそうに話す。

 水色のサラサラのロングヘアーと長いまつ毛が印象的な女性だ。服装は田舎娘らしく地味だが正統派な美少女に間違ない。


「サクさんは人間界の人だね?」


「え――! そうなんですか?!」


 座ったばかりのアガーテが立ち上がって驚くと、サクはそのリアクションに照れながら答える。


「はい、まあその前にここが死後の世界的な場所であることに驚きなんですが……。どういう訳か二つの世界を行き来しています。自由なタイミングでとはいかないけど。でもそれってどういう存在なんです?」


「サクさんも広義にはアムネジアに含まれるんだが、先程話した例外の部類だね。――それも例外中の例外だ」


「例外中の例外?」


「ああ、人間界での生がありながら魂だけが自我を持ってこの世界に訪れている稀有な存在……。『来訪者』だ」


「来訪者?」


「そう呼ばれる彼らはこの世界の理から外れた存在であることを意味している。それが故、自身のイメージを体現することが可能なのだそうだ。先程見せてもらったその力のようにね」


 エニグマはサクの肩に手を置くと話を続ける。


「この世界にはその悠久の長い歴史の中で幾人かの来訪者が現れている。そして極僅かながらにその血筋を引き生まれがらにして超大な能力を持つ者が存在する」


「継承者……」


 アガーテが口を開く。


「この国、いいえこの世界を代表する継承者こそが『アナマリア=アストラ』様。我がアストラ王国の王女様です。この先王都に行くこともあるでしょうから覚えておいてくださいね」


「それから最後にサクさんはこの世界で痛みを感じたことはないかい?」


 エニグマはサクの向かいに腰を下ろし問いかける。


「あります……。夢なのに変だなと思っていたんですよね」


 サクは森を彷徨っていた時や修行でのことを思い出した。


「それは魂が傷ついているからだよ。この世界に定着して実体を得たアムネジアと違って、サクさんは剥き出しの魂のままの存在なんだ。しかしそれは強力な力を持つ反面、とても危険な状態でもあるんだ。もしこの世界で死んでしまうような事があれば、人間界へも帰れず生まれ変わる事も出来なくなるだろう。十分注意してほしい」


「マジか……。結構無茶していたかも」


 サクは夢だと思っていたこの世界がどうやらそんな生易しい場所ではない事を理解し始めていた。


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