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超常ポリスは眠らない〜異世界警察と天蠍の王女〜  作者: 白谷毛虫
第二章 超常警察官
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第十八話 『街の異変』

 五日間の訓練を終え東都署に戻ったサクと鼠入は、朝一で署長室に報告にやって来ていた。


「立川での訓練、ご苦労だったね。二人とも優秀だったそうじゃないか。安心してこれを貸与できるよ」


 獅堂から手渡されたのは、もはや見慣れた自動式拳銃——USPだ。訓練した甲斐もあってよく手に馴染む。


「ウヒョー!」


 よほど嬉しいのだろう、鼠入はまるで新しいおもちゃを与えられた子供のように手中のそれをいろいろな角度から眺めている。


「もう一つ装備が届く予定なんだが、それはまた後でだな⋯⋯」


 その時、背後からコンコンとドアをノックする音が響いた。


「どうぞ」


「失礼します」


 オフィスに入ってきたのは刑事課長、大狼だ。突然の彼の同席に不思議そうな表情の二人。


「君たちが署にいない間にいろいろとあってね⋯⋯。あとは大狼課長からよろしく頼むよ」


 獅堂に促され、大狼が口を開く。


「刑事課長の大狼だ。金髪とは初対面だな。実ぁ、この一週間で管内の犯罪が爆発的に増えちまってなぁ」


「窃盗団か何かですか?」


「いやそうじゃねぇ。強盗、傷害、窃盗、性犯罪⋯⋯幸い殺人にこそ至っちゃいねぇがあらゆる犯罪が増えている。お陰で留置管理は大忙しさ。しかも俺達の頭を悩ませてるのが、被疑者がテメエの犯した罪を覚えてねぇって事だ」


「否認しているのでは?」


 サクの言葉に大狼が首を振った。


「そう思うだろう? しかし調べを進めりゃあ皆が皆気を失ってたって言うじゃねぇか! こんな事ぁ俺の刑事人生でも初めての事だ」


「酔っ払いじゃねえの?」


 すかさず鼠入が突っ込む。


「酩酊もしてなけりゃ精神疾患でもねぇ。それなのに犯罪事実どころか、現場や犯行に至るまでの経緯一切の記憶が無いときてる。酷い奴だと丸一日記憶が無かったなんて奴もいたな」


「それが本当なら責任能力が問われるな⋯⋯」


「ああ⋯⋯。俺達ゃ刑事は被疑者の動機や心理、犯罪事実をまとめて身柄を検察に送るのが仕事だ。とはいえ彼らが嘘をついているとは思えねぇだけに強引に事実を認めさせるやり方はしたくねぇ⋯⋯」


「結構ちゃんとしてるんですね。それで? 何故俺達にこんな話を?」


 サクが本題に切り出した。


「こいつは俺の勘だが、彼らは『あの男』と似た状態だったんじゃねぇかと思ってる」


「あの男?」


「名前はなんつったか⋯⋯失踪した地域課の『ゴンゾウ』が格闘した男だよ!」


「⋯⋯千光寺朔太朗」


「そんな名前だったな。で、あの『超常被疑者』も意識があるのかないのか虚ろな感じだったろ。そして金髪のお前ぇさんはその成れの果て——SATも手を焼いた化け物を魔法みてぇに消し去った⋯⋯」


「何が言いたいんです?」


「俺ぁ仕事柄オカルトの類は信じちゃいねぇ。いねぇが⋯⋯この山の真相を暴けるのはお前さんだけかもしれねぇと思ってるんだ。——力を借してくれねぇか!」



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※  ※



「で? どうするんだよ。引き受けたからには当てはあるんだろ?」


 オスプのオフィスに引き上げるなり、ドカリと椅子に腰を下ろした鼠入が言った。


「ないですよ」


「ないんかい!」


「とりあえず各現場の調査と聴き込みからですね。資料はもらいましたから一つずつ潰して行きましょう」


 サクの口から放たれた無慈悲な言葉に、この先の地道な捜査活動が脳裏に浮かんで鼠入がすがる様な声を上げる。


「マジかぁ! 何かないのかよ、こう⋯⋯ヒントみたいのはよう!」


 その時、サクの左胸がスーツの上からも分かる程光り輝いた。


「——ヒントは『石』じゃな!」


「うわっ!」


 いきなり死角から声を掛けられた鼠入が驚いて床に転がった。


「誰っ!?」


「アナマリア。昼間も出て来れるんだな」


 オフィスの空デスクに音もなく現れたのはアナマリアだ。


「妾はお化けか。月が出ていれば昼も夜も関係ない。まあ月光が少ない分、活動時間は三分が限界じゃがな⋯⋯」


「ふーん。光の戦士みたいで大変だな」


 そんな二人のやりとりを見て鼠入が我に返ったように呟いた。


「アナマリア⋯⋯? えっ、え? もしかしてこの子が異世界の王女様の?」


「ひどい間抜け面じゃ。こんなのがサクのパートナーとはな⋯⋯」


 アナマリアは鼠入にまるで汚物でも見るような眼差しを向ける。ところがそんな素ぶりが逆に鼠入のツボだったらしい。


「めっちゃ美人じゃねぇーかぁぁぁ! テメェちょっと来い!」


 と、鼠入は飛び上がるなりサクの首根っこを掴んで部屋の隅に連れて行った。


「あんな美人に見初められて? 向こうの世界じゃ英雄様だぁ? 姿が入れ替わっちゃって可哀想だあ⋯⋯なんて思った俺が馬鹿だったよ!」


「ちょ、ちょっと何怒ってるんですか!」


「怒ってねぇよ! 羨ましいんだよ‼︎」


「何なんですかもう⋯⋯。それでアナマリア、『石』っていうのは?」


 サクは面倒くさい鼠入を放置することにした。


「どうやら所持者の潜在能力を爆発的に引き出す代物らしい。『上級情報局』の捜査で、スコーピオン——サーソク卿も同様の石を持っていた事が判っておる」


「それって王宮直属の捜査機関だよな。マキネンさんが言ってたよ。一体どこからそんな石が?」


「出処はここ数年で台頭し始めた教団『ゾディアーク教』じゃ。キャンサーが現れた以上、石がこちらの世界に持ち込まれたことは間違い」


「一体何のために⋯⋯?」


「それを解明するのが其方の仕事じゃろ。妾はそろそろ時間切れじゃ」


「あ、ちょっと待って!」


 サクはアナマリアに素早く耳打ちする。その内容に不服そうな表情を見せた彼女だったが、サクのお願いポーズに折れた様子で鼠入に近づくと徐にその手を取った。


「——明。そちの働き、期待しているぞ!」


 普段より高めの声色で笑顔の激励。


 効果は絶大だった。

 それまで僻みモードマックスだった鼠入は一転ひどく興奮した様子で雄叫びを上げた後、


「鼠入明、貴女のために漢になります!」


 と、とびきりの顔を作って応えている。


「これでよかったか?」


 戻ってきたアナマリアがサクに悪戯っぽく耳打ちしてウィンクした。


「はは⋯⋯ちょっとやり過ぎかな」


 陽炎のように消えていく彼女を見送りながらサクは一人苦笑していた。

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