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超常ポリスは眠らない〜異世界警察と天蠍の王女〜  作者: 白谷毛虫
第二章 超常警察官
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第十六話 『奇妙な同居』

「署長⁉︎」


 『新しい部屋』だと案内された建物から、思いもよらない人物——獅堂署長が姿を現してサクは頭が真っ白になっていた。建物よりも何よりも彼の赤いエプロンに目が釘付けだ。


「おかえり。さあ入って」


 獅堂はそんなサクの手を引いて屋内に招き入れる。


「お、お邪魔します⋯⋯」


 訳も分からずリビングに通されると、テーブルに豪華な料理が並んでいた。


「今日はサク君の歓迎会だ。お腹が空いただろう? さあ座って座って!」


「ちょ、ちょっと待ってください! ここはどこですか?」


「私の家——署長公舎だ。そして今日からは君の家でもある」


「署長公舎に俺も住むんですか?」


「警察上層部に君を監視するように言われてね。つまりそれを兼ねた同居——君もオスプも私一人の責任下という訳さ」


「そんな事、言っていいんですか?」


「一馬の息子を信じているからね。さあ、食事にしよう」


 それから二人でテーブルに向かい合わせに座った。料理は前菜に人参サラダとポテトサラダに生ハムの盛り合わせ。スープは甘海老のビスクスープ。メインはスペアリブのマーマレード煮だ。レバーパテとパンも添えてあった。男の料理としてはなかなか手が込んでいる。

 

「美味い! これ全部署長が作ったんですか?」


「私の趣味なんだ。久しぶりに腕を振るう相手が出来て嬉しいよ」


「あの⋯⋯署長のご家族は?」


「妻に先立たれてね。見ての通りのやもめ暮らしだよ」


「すみません⋯⋯」


 予想外の言葉にサクは思わず瞳を伏せる。


「気にしないでくれ。妻が生きていたらきっと彼女も喜んだだろう。私達は子宝に恵れなかったからね。⋯⋯なんだか湿っぽくなってしまったかな。さあ、どんどん食べてくれ!」


「じゃあ遠慮なく!」


 サクはモリモリと食事を口に放り込んでいく。やがてたっぷりとパテを塗ったパンを食べたところで突然肩を震わせて笑い始めた。


「ふふふ⋯⋯」


「どうした、お口に合わなかったかい?」


 獅堂が不思議そうに声をかける。


「いえ、アストラのエアストブールという街ではパテが名物なんです。生地に包まれているパテなんですけど、それをヤンセン達が奪い合うように口一杯に入れている姿を思い出してしまってつい⋯⋯」


「ヤンセン一家⋯⋯。確かアストラでの一連の事件の関係者だったね」

 

「ええ。騒がしいけど気のいい奴らなんです。元気にしてるかな⋯⋯」


「サク君、君が羨ましいよ。私も行ってみたいものだ。異世界アストラに」


「署長が迷い込んだ際にはご案内しますよ!」


「はははは! よろしく頼むよ!」



 食後はサクの部屋へ案内された。

 向かった先は階段を上った三階の一室。横長の八畳間の奥の窓際にベッドとチェスト、手前の扉寄りの壁際に液晶テレビが設置されている。もちろんエアコン完備だ。


「必要最低限の家具類は用意しておいた。他に何か必要なら遠慮なく言ってくれ」


「十分過ぎるくらいですよ!」


 そう言ってベッドに腰を下ろすと、そこには真新しいタオルや下着、ジャージが畳まれていた。


「それも良かったら使ってくれ。サイズが合えばいいんだが⋯⋯」


「ありがとうございます! でも、なんでここまでしてくれるんですか?」


 あまりに至れり尽くせりでサクの口から思わずそんな言葉が漏れる。


 しかし獅堂は少し微笑んだ後、


「風呂を沸かしておいた。入浴したら今夜は早めに就寝した方がいいだろう。明日は早いからね」


 と、言い残して部屋を後にした。



 入浴を済ませたサクは獅堂に挨拶をして床に就いていた。しかし、横になったは良いがなかなか寝付けない。

 出世街道を歩んで来たであろう獅堂。きっとその経歴に彩られた幸せな家庭があると当たり前の様に思い込んでいた。しかし現実は、妻を亡くし警察幹部として異動を繰り返しながら赴任先の官舎で一人寂しく生活している。そんな彼の胸中を考えてしまうのだ。

 普段は感情を表に出さない獅堂が、今夜はとても嬉しそうだったのも印象的だった。


 ——署長が喜んでくれるなら、この奇妙な同居も意味があるのかもしれないな⋯⋯。


 そう心の中で結論付けたところで、深い眠りの穴に落ちていった。




 翌朝、サクは着替えを済ませて一階に降りた。早朝だというのにリビングの電気が点いている。


「さすが署長、早起きだな⋯⋯」


 と、ドアを開けて室内に入った途端、サクは盛大にズッコケた。ソファで我が家のように寛いでいる赤い髪の少女が獅堂と楽しそうに談笑しているのだ。


「ちょ、アナマリア!」


「起きたかサクよ!」


「起きたかじゃないよ。何やってんの!」


「署長殿がアストラについて知りたいと言うからの、我が王国の素晴らしさを教えてやっておったのじゃ!」


 と、満足げに腰に手を当てる。


「そういう事じゃなくて⋯⋯。姿を見せていいのかって事!」


「署長殿はサクの理解者じゃろう? 信じるに値する人物かは魂を見れば一目瞭然じゃ」


 同時に獅堂が壁掛け時計を見上げるなり慌てて立ち上がった。


「しまった! もうこんな時間か。すまないサク君、すっかり王女の話を聴き込んでしまって朝食が出来ていないんだ。もう出発かい?」


「はい。でも大丈夫です。コンビニで適当に買って行きますから!」


 そのやりとりにアナマリアが不思議そうな顔をする。


「おや、サクは何処へ行くのじゃ?」


「訓練だよ。機動隊で。っていうか勲章を通して全部聴いてる訳じゃないんだな」


「妾も暇じゃないのじゃ。アムネジアの村で三馬鹿を扱き使わねばならんしな」


「暇じゃないかそれ! 一体向こうで何が起きてるんだよ⋯⋯。じゃあ、そろそろ俺行くから!」


「妾も長居し過ぎて疲れた。署長殿、御機嫌よう」


 サクは玄関を出発し、一方アナマリアは陽炎のように消えていく。


「いってらっしゃい!」


 そんな二人を獅堂は笑顔で見送っていた。

 

久しぶりの投稿になりました。

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