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超常ポリスは眠らない〜異世界警察と天蠍の王女〜  作者: 白谷毛虫
第二章 超常警察官
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第十四話 『AUSPU』

「サク、君を警視庁巡査『超常警察官』に任命する」


 獅堂と二人だけの署長室で、スーツ姿のサクは辞令と警察手帳を受け取った。それらを左脇に抱え直し、一歩下がって頭を十五度に傾斜して敬礼する。


 テレビドラマでお馴染みの手刀を額に掲げる、いわゆる『挙手敬礼』は着帽時のもので、実際それを私服姿ですることはない。


「千光寺朔太朗は謎の失踪、表向きには『超常被疑者』絡みの事件として捜索中。代わりに今日から君は『獅堂サク』という別人の警察官だ」


「獅堂?」


「苗字が無いのもおかしいだろう? 私からのプレゼントだよ」


「あ、ありがとうございます⋯⋯」


 それなら自分で考えたかったなと、サクは一瞬思ったが、すぐに気持ちを切り替えた。仮初の名前など正直何でもいいし、貰った名前もそう悪くはない。署長の親族だと勘違いされそうではあるが⋯⋯。


「サク君としての記録は所属に存在せず、また人名簿上にも詳細は記載しない事になる。それから君の経緯は警察上層部も認知済だ。少々時間が掛かったが、SATの報告書が証明になったよ」


「わかりました。⋯⋯それで俺はどんな仕事を?」


「早速きたね。それじゃあ行こうか!」


 獅堂は待ってましたと言わんばかりに目を輝かせ、意気揚々と部屋を後にする。サクは慌てて後を追いかけて地下へ続く階段を降りて行った。

 しかしその先は警察車両用の車庫に通じる通路しかない。


「あの⋯⋯」


 声を掛けかけたその時、前を行く背中が不意に立ち止まった。通路途中のそこには重そうな扉が一つあり、どうやらここが目的地のようだ。


「ここは⋯⋯確か倉庫でしたよね? 以前片付けを手伝ったことがあります。ってあれ?」


 よく見ると、扉にはプレートが取り付けられていた。サクはそこに書かれたアルファベットを辿々しく読み上げる。


「 えっと⋯⋯AUSPU?」


ANTI()  UNKOWN(未知犯) SUPER(超常) POLICE(警察) UNIT(部隊)、通称『オスプ』だ。ここが君のオフィスだよ」


「オスプ⋯⋯」


「さあ入った入った!」


 扉を開けた獅堂が棒立ちのサクの背中を押す。ドンと押し出される形で部屋に足を踏み入れると、室内の様子が目に飛び込んできた。

 備品といえばホワイトボードにキャビネット、五つのデスクを合わせた島の上に警電が一つ——驚くほど殺風景だ。

 さらに遅れて室内の匂いが鼻腔を突いた。


「うわっ⋯⋯カビ臭!」


「——そう言うなよ、ここの片付け、大仕事だったんだぜ!」


 振り返ると、鼠入が壁に背をもたれ立っていた。


「先輩! どうしてここに?」


「ははは。実は今日から鼠入君もオスプのメンバーなんだ! 事情を知っている人間がいる方が君もやり易いだろう?」


「という訳だ。よろしく頼むぜ千光寺!」


 そんな鼠入の何気ない挨拶に獅堂が敏感に反応する。


「おっとそれだ! これからはお互いの呼び方に注意してもらわねば。彼はもう千光寺君ではないのだからね」


「「確かに⋯⋯」」


 思わず二人は顔を見合わせた。


「さて、オスプは組織図上は署長である私直属のユニットだ。『超常被疑者』絡みの事件専任の独立部隊だが、緊急時には各課に応援に行く事もあるだろうから承知しておいてくれ」


「メンバーは何人でしょうか?」


 鼠入がデスクを見ながら質問する。


「しばらくは君達二人でのテスト運用になる。これからはお互いの背中を預けるパートナー、『バディ』って奴だな」


「「バディ?」」


 と、二人は再び顔を見合わせた。


「でも、坂の下交番一係から二人も減って大丈夫なんでしょうか⋯⋯?」


 脳裏に但馬の顔が浮かんで、サクは何だか申し訳ない気待ちになった。


「安心してくれ。活きのいい卒配を充てておいたよ」


「そうですか。それなら良かった」


「おっと、そろそろ朝礼の時間だな。サク君には着任の挨拶をしてもらう予定だ。くれぐれも素性は明かさないように注意してくれよ」


「サク、これからはちょっとクールなキャラでいった方がいいぜ。話しすぎるとボロが出ちまうかもしれないからな!」


 と、鼠入が忠告する。どうやら呼び方を『サク』に変えたらしい。


「そうですね。以前、絵麻達に遭遇した時も勘付かれないように無愛想に徹したんですけど、そのノリでいこうと思います。嫌な感じでしょうけど⋯⋯。ところで、先輩の事は何て呼んだらいいですか?」


「明でいいぜ。なんせ俺達はバディだからな!」


 鼠入はサクの背中をバンバンと叩いて笑った。



 訓示室には既に大勢の署員が並び獅堂の到着を待っていた。ほぼ半数を内勤が占めるものの、地域課からも後発の交代組が参加しており、その中に但馬と絵麻の姿があった。


 そんな彼らから突然どよめきが沸き上がる。


「え? なになに?」


 絵麻は状況が呑み込めずうろたえるが、どうやら原因は入口に現れた人物にあるらしい。列の後方に並んだ事を後悔しつつ何度もその場で飛び跳ねている。


「係長、誰か来たんですか?」


「あいつは⋯⋯」


 絵麻の隣で長身の但馬が呟いた。署員の視線が訓示室の中央に移動したところで獅堂の声が響き渡る。


「みんな! 最初に本日着任した仲間を紹介する。さあ⋯⋯」


 獅堂はそれだけ言うとサクに発言を促す。


「——獅堂サク。よろしく」


 列の隙間からやっとの事で顔を出した絵麻は我が目を疑った。

 そこに立っていたのは鋭く冷たい目をした金髪の青年——絵麻を救い、『化け蟹』を倒した『自称警察官』だったのだから。

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