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超常ポリスは眠らない〜異世界警察と天蠍の王女〜  作者: 白谷毛虫
第二章 超常警察官
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第六話 『月下の再会』

 朔太朗は一日目の精密検査を終え、案内された個室でぐったりとしていた。

 採血に始まり全身CTから頭部MRIまで最新設備を駆使した検査項目全てを終えるのに長い時間を要したのだ。


「おう、千光寺。先に終わってたか」


 そこへ少し遅れて検査を終えた鼠入がドアの隙間からヒョイと顔を覗かせる。


「先輩お疲れ様です。胸の怪我はどうでしたか?」


「思った通り肋骨の骨折だ。幸い軽く済んだがしばらくはバストバンドで固定だってよ⋯⋯」


「大事に至らなくて良かったです。しかし明日はどんな検査があるんですかね?」


「ほとんど今日ので終わりらしい。明日は診察がメインみたいだからな。⋯⋯さて、飯にしようぜ!」



 それから二人は夕食をとるためレストランへ足を運んでいた。窓際のテーブル席からはすっかり日の暮れた都会の景色が眺望出来る。

 やがて健康に配慮された食事が運ばれて来ると二人は『頂きます』とそれを食べ始めた。


「そういえば兎澤もここに入院しているんだったよな?」


「ええ⋯⋯。お見舞い出来るか訊いたんですけど、ICUは家族のみの面会に制限しているそうです」


「そうか⋯⋯俺達も紙一重だったな。一人であんな奴を相手にした兎澤は勇敢だよ」


「そうですね。あんな奴といえば⋯⋯『超常被疑者』が気になる事を言っていたんです」


「気になる事?」


「はい。『俺の体はどこだ』って⋯⋯」


「ハァ体? 意味が解らねぇな。⋯⋯いや待てよ。少し前に『何かを探している不審者』の扱いがあったよな。千光寺と部長が現場に行ったんだっけ?」


「俺もそれを思い出していたんです! もしかしたらあの時の奴なんじゃないかって」


「あの跳躍力があれば、ほぼ同時刻にあちこちに出現したのも納得がいくな⋯⋯」


「はい⋯⋯」


 それきりこの会話は終わりになった。朔太朗は『超常被疑者』が『来訪者』に近い存在だと確信していたものの、これ以上踏み込んだ話を鼠入にする訳にもいかなかったのだ。


「じゃあ、朝食行く時声掛けるから起きとけよ」


「わかりました。おやすみなさい」


 食事を終えた二人は部屋に戻って行く。


 鼠入と別れた朔太朗はベッドに仰向けになってスマホを触っているうちに次第に睡魔に襲われ眠りこけてしまっていた。



 時刻は零時を回っていた。


 ——⋯⋯ク⋯⋯サク。


 ——『来訪者』サクよ。


 意識の外でもう一人の自分の名前を呼ぶ声がする。どこか懐しい聴き覚えのある声だった。


 ふと目覚めると視界に飛び込んで来る見知らぬ天井。


「⋯⋯そうか病院だったっけ」


 と、朔太朗は頭を整理しながら起き上がる。すると枕元に置いていた『プリンセスナイト』の勲章が淡く発光している事に気が付いた。


「これは⋯⋯どうしたんだ?」


 と、手に取った途端、勲章が眩い光を放つ。


「うわっ!」


 思わず手放した拍子に勲章は床に転がって垂直に光を放射すると、映し出した人影がみるみるうちに実体と化していった。


 そこに現れたのは透き通る様な美しさに威圧の鎧を纏った女性——アナマリ=アストラに間違いなかった。


「サクよ⋯⋯久しいな」


「本当にアナマリア? どうしてここに?」


「言ったじゃろう。いつでも一緒じゃと」


「でもなんで今更? もっと早く現れてくれれば⋯⋯。俺、アストラに帰れなくなっちゃったんだよ!」


 するとアナマリアは窓を見上げる。月明かりに照らされた彼女の横顔がまるで絵画のよう幻想的で、朔太朗は思わず息を呑んだ。


「月じゃ」


「え?」


「この世界とアストラ。二つの世界の境界線は絶えず変化しておる。そしてその扉を開ける鍵が月なのじゃ」


「よく解らないけど⋯⋯」


「正確には月の満ち欠けじゃな。精神世界たるアストラへの入口は満月の夜に大きく開き、逆に新月には固く閉ざされる」


「——そういえば、俺が初めてアストラに来た日も満月の夜だったっけ⋯⋯」


「じゃろ?」


「確かに合点がいく⋯⋯」


 朔太朗はこれまでの経緯と照らし合わせすっと謎が解ける思いがした。すると立て続けに『超常被疑者』への疑問が心をかすめる。


「もう一つ、アナマリアに訊きたい事があるんだ。実はこっちの世界に俺——『来訪者』みたいな奴が現れたんだよ。俺の仲間もそいつにやられちゃって⋯⋯。こっちでは『超常被疑者』と呼ばれているんだけど、そいつはアストラからの侵入者なんじゃないか?」


 それを聞くなりアナマリアの眉がピクリと動いた。


「『超常被疑者』か⋯⋯。まさかとは思うたが、人間界の波長の乱れはそれが原因か。サクよ非常にまずい事になったぞ」


 アナマリアは落ち着かない様子で病室をゆっくりと歩きながら話を続ける。


「そもそも人間界での生を終えた者の魂がアストラに転生するのが絶対の原理原則。間違っても逆流してはならぬのじゃ」


「逆流したら?」


「人間界に迷い込んだ魂はアストラでの姿のまましばらくは存在出来るじゃろう。もはや人間界の理から外れた存在故、『来訪者』と同様超人的な芸当をこなせておかしくは無い」


「思った通りだ⋯⋯」


「しかし、それもせいぜい持って四十九日。『来訪者』と違い帰る体も無く転生も叶わず存在を維持できなくなった魂は⋯⋯崩壊を始め遂には爆発する」


「——何だって⁉︎」


「考えてもみよ。人間界にあるはずのない高次の存在が爆発するのじゃ。それは時空に歪みを発生させ、やがては二つの世界の境界線をも侵食していくじゃろう。そうなれば⋯⋯夢と現実の境界線、人間界とアストラの境界線が無くなり全てが融合してしまう」


「そんな⋯⋯。一体どうすれば?」


「『超常被疑者』が爆発する前に浄化せねばならぬ」


「浄化⋯⋯? アナマリアの『ヘルヴァーナ』のような?」


「左様。浄化し全てを無に帰す。それしか方法は無い。しかし困った事にそれが出来そうな者が其方しかおらぬのじゃ⋯⋯」


「俺? アナマリアがやればいいじゃないか?」


「無茶を言うな。妾は人間界で具現化するだけで精一杯なのじゃ。その点、どちらの世界にも存在出来る『来訪者』が都合が良い」


「俺に出来る訳ないじゃないか⋯⋯」


「そんな事は無いぞ。妾と同じ『星の運命(さだめ)』を持つ其方なら可能な事じゃ」


「『星の運命』? 何だよそれ?」


「其方の光の力そのものじゃ。まだ未熟ではあるがな」


「光の力って⋯⋯向こうの俺(サク)じゃないか!」


「そこが問題なのじゃ。妾も『魂送り』は本職では無いのでな。一度限りの術になってしまうじゃろう」


「つまりどういう事?」


「『サク』を人間界に召喚する。つまり『入れ替わり』じゃ。その代わり二度と元には戻れない」


「そんな⋯⋯」


 重い沈黙が室内を覆う。


 朔太朗の脳裏に浮かぶ大事な人達——実家の母と妹。仕事の仲間に同期に友達。そして気まずい別れ方をしたままの絵麻。


 ——みんなに迷惑を掛けるな⋯⋯。でも俺が居なくなる訳じゃない。そんな事よりも世界が壊れてしまったら意味が無いじゃないか!


 朔太朗は覚悟を決め顔を上げる。


「やると決めた顔じゃな⋯⋯。こちらの世界での其方の顔もなかなかどうして妾のタイプじゃぞ」


「プッ⋯⋯この状況でその台詞?」


 と、思わず吹き出した後、朔太朗は静かに頷いた。


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