第五話 『超常被疑者』
翌朝、朔太朗と鼠入は警察病院にやってきていた。
昨日の捕り物劇に参加した職員全員に念のため精密検査が受けられるよう警務課が取り計らってくれたのだ。
「お前、すっかり有名人だな」
待合室の大型テレビを見ながら鼠入が呟く。
朔太朗と男の格闘動画はSNSを通じてあっという間に拡散され、マスコミ各社も便乗してテレビを賑わせていた。
各局とも現実離れした男の動きに焦点が当てられ『化け物』『怪人』といった様々な表現で呼びつつも、依然として街を跳梁している現実に視聴者に対し注意喚起している。
中には先日の兎澤襲撃事件や発砲の是非に始まり、男を取り逃がした警察の失態を追及するようなコメンテーターも見受けられた。
「まったく⋯⋯。勝手な事言うよな」
と、鼠入が憤りを見せる。
「確か、もうすぐ記者会見ですよね」
朔太朗は腕時計に視線を落とした。
そんな世間の反応に応えてか、東都署は急遽記者会見を開く事になっていた。
間も無くテレビはスタジオから生中継の映像に差し代わり、画面に獅堂署長の姿が大きく映し出される。
「東都警察署長の獅堂です。さて、昨日東都商店街に現れた男ですが、先日本署の警察官を襲撃した被疑者と同一人物である事が判明しました。 皆さん、既にSNS等でご覧になっているかと思いますが⋯⋯被疑者の動きは常軌を逸しています。高層ビルからの無傷の着地。百メートルに達する跳躍力。数十メートルを一瞬で移動する瞬発力⋯⋯。恐らく人間ではないでしょう」
記者席からざわめきが起こる。
「私はこの様な相手に対して拳銃の使用は適正であると考えております。優先すべきは市民と職員の安全であり、彼らの生命、身体、財産を脅かす存在には実力を行使する必要があるのです。——ところで、巷ではこの被疑者の事を、『怪人』や『超人』はたまた『化け物』と呼んでいるようですが、我々警察では呼称を統一する事にしました」
「——それは何ですか⁉︎」
と、一人の記者が声を上げる。
すると、獅堂はゆっくりと記者席を見渡し口を開いた。
「『超常被疑者』です」
その途端、記者席から無数のフラッシュが焚かれる。
「結果的にこの『超常被疑者』を取り逃がしたのは確かに失態かもしれません⋯⋯。ただご理解頂きたいのは我々も人外の者を相手にする事自体初めての経験なのです。拳銃の弾丸でさえ効果の薄い『超常被疑者』に対してどの様な手段が有効なのか検討する必要があるでしょう」
そこまで話すと獅堂は水を一口飲んだ。その表情には強い決意の色が見える。
「だからといって対象を野放しにするつもりはありません。我々の威信にかけて必ずや『超常被疑者』を逮捕するとお約束いたします!」
獅堂の話の後には質疑応答の時間が設けられていた。
そこで『超常被疑者』や捜査方針ついてのやりとりが一通り済むと、記者の興味は自然に朔太朗へ向かっていく。
「読切新聞の須田です。その⋯⋯『超常被疑者』と対等に戦っていた若い警察官。彼は何者なんでしょうか?」
「一警察官の個人情報はお答えしかねますが、交番勤務の巡査です。現場には応援で臨場していたようです」
「何か格闘技の経験があるとか?」
「その様な経歴はないと聞いています」
さらに別の記者が質問をする。
「その巡査は今日この場には居ないのでしょうか?」
「彼は昨日の格闘に伴い念のため検査入院しています」
「後日改めて取材させて頂きたいのですが⋯⋯」
「被疑者の性質上、個人が特定されると本人及び家族に危険が及ぶ可能性がある為取材はご遠慮ください。⋯⋯他にご質問が無ければ本日の記者会見はこれで終わりにさせて頂きます」
そのまま記者会見は御開きとなった。
病院で一部始終見終わった鼠入がドカリと背もたれに身を放り投げる。
「おいおい、面倒くさい事になってきたな。マスコミはお前に興味津々じゃねぇか」
「はは⋯⋯。しかし署長も大きく出ましたね。本当に逮捕出来るんでしょうか⋯⋯」
「何言ってんだよ。今んとこお前だけが頼りだぜ?」
「やめてくださいよマグレですって⋯⋯」
「おお、居た居た。千光寺に鼠入、お前ら二人今日の当直休んでくれ」
と、近づいて来るのは同じく検査に来ていた但馬だ。
「え? どういう事ですか?」
「ルールを守らないマスコミや一般人が本署や交番まで押しかけて来ちまうんだよ。今日のところは検査入院していて欲しいと上からの指示だ」
「係長、俺もですか?」
鼠入が不思議そうに質問する。
「鼠入は昨日の面子の中で一番ダメージがありそうだからな。ついでに徹底的に検査してもらえるよう上申したんだ」
「それじゃ今夜交番が⋯⋯」
「犬飼さんと二人だが、なんとかなるさ!」
そんなやり取りをしていると、朔太朗と鼠入は早速検査に案内される。説明によると、より精密な検査の為一泊二日のコースになるらしい。
「先輩、おかしな事になりましたね⋯⋯」
朔太朗と鼠入は顔を見合わせた。




