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超常ポリスは眠らない〜異世界警察と天蠍の王女〜  作者: 白谷毛虫
第一章 ようこそアストラへ
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第十九話 『VSアルゴ〈前編〉』

「ウスノロさんお尻ぺんぺーん!」


 ヨハンセンはアルゴに向けて尻を出し挑発しては自慢の俊足で逃げ回っていた。

 そうやって二組の戦闘が終わるまで時間稼ぎをしていたのだが、今回ばかりは運が悪かった。


「いでっ!」


 戦闘で出来た床板のめくれに躓き派手に転んでしまったのだ。


「散々馬鹿にしたくれたな」


 アルゴがゆっくりと迫る。


「離れろ!」


 すかさずハンセンがアルゴの足を鞭で捕らえ足止めしようとするが、体重差があり過ぎて逆に引きずられてしまう。

 マルタンもエニグマ銃で死角から援護射撃をするものの、どういう訳かアルゴはそれを察知し全身を鉛色に硬化させた鎧で弾き返してしまう。


「これが最後の通常弾だ⋯⋯」


 ——そろそろまずい。サクの旦那はまだか⋯⋯。


 ヤンセンは後ろを振り返る。どうやらサギッタとの戦闘は決着が着いたようだ。


「ブハァ! 潰れちまえっ!」


 硬化を解いたアルゴはヨハンセン目掛けて跳躍すると空中で全身硬化し、巨大な鉄塊となって落下する——。


「もう限界だぜ旦那ァ——!」


 ヤンセンは思わず叫んでいた。

 

 その直後、突風が吹き抜ける——。次の瞬間にはアルゴの胸部を両足で蹴り飛ばすサクの姿がそこにあった。


 アルゴは空中で強烈な蹴りを受け、硬化したまま弾丸の様に吹き飛んでいく。その巨体はカウンターを押し潰し真っ二つに粉砕した。


「すげぇ! さすが旦那だぜ!」


「よく頑張ってくれたな! ヤンセン、ハンセン、ヨハンセン」


「サクさんすまない。私ではアルゴに対して無力のようだ⋯⋯」


「あの鎧の能力ですからね⋯⋯。『竜骨』って言ってましたっけ? 俺の蹴りも恐らくダメージは無いでしょう」


 そこへ遅れてアイソポスとゴーリキも合流する。


「隊長、お怪我はありませんか?」


「ああ、ヒヤリとする場面はあったがヤンセン一家に助けられたよ」


 その時、崩れたカウンターが宙に跳ね上がり立ち昇る土煙の中に巨大な人影が浮かび上がった。


「ブハァ、準備完了だぜ!」


「ひえぇぇぇー。旦那、ここからはバトンタッチってことで!」


 アルゴが全くの無傷で姿を現すと、ヤンセン一家は部屋の隅に一目散に避難していく。 

 それと交代する形でサク、アイソポス、ゴーリキがアルゴの前に立ちはだかった。


「おや選手交代かい? それじゃあ試合開始と行こうぜ」


 と、アルゴは流れるような右左のフックからアッパーのコンビネーションで三人を襲う。

 しかし、サクはその巨体故の大振りなモーションを容易に見切っていた。


「軌道確認!」


「シールド!」


 同様にアイソポスとゴーリキも自身の能力で危なげなく回避する。


「ギア上げてくぜ。メインセイル!」


 と、さらにアルゴは踏み込んでいく——。


「速い!」


 先刻までとは別人のようにアルゴの俊敏さが増していた。

 アルゴは踏み込みつつ右のミドルキックを放つ。見せ技の初段が空を切るとくるりと旋回しながら、


「トップセイル!」


 と、さらにギアを上げて左回し蹴りを繰り出した。蹴りはその巨体からは想像もつかない速度で綺麗な弧を描き、アイソポスの手からエニグマ銃を弾き飛ばしていた。


 宙を舞った銃が音を立てて床に転がる。


「馬鹿な! 予測を超えたというのか?」


 アイソポスはアルゴの蹴りの予測線を視認し確実に躱せる筈だった。しかしそれが追いつかない程にアルゴの技が変則的に加速されたのだ。


「しかし、それよりもあれは何だ?」

 

 回避が遅れた理由はそれだけでは無い。アルゴがギアを上げる度にその背に現れる輝く板状の物体に注意がそれてしまったのだ。

 それは背中から垂直に生え、まるで背びれの様だ。


 ——セイル? ⋯⋯そうか、あれは帆か。帆を張り加速する能力。だとすればその推進源はいったい⋯⋯?


 サクはその間に、転がったままのエニグマ銃をダッシュで拾い上げ思案に耽るアイソポスに手渡した。


 それを見たアルゴが嬉々と反応する。


「さっきも思ったんだがよ、兄ちゃん相当なスピードだな。どうだ俺様とスピード勝負しねぇか?」


「俺が勝ったら大人しく捕まってくれるか?」


「それは呑めねぇ相談だなっ——」


 そう言うなり突然両手で摑み掛かるがサクはそれを目にも留まらぬステップで避ける。


「面白ぇ、トガンセイル!」


 アルゴはギアをまた一つ上げ追いかける。が、スキップを踏むように前方へジグザグに逃げるサクを捉えることはできない。


「まだまだ! ロイヤルセイル!」


 執拗に追いかけるアルゴが少しずつ距離を詰め始めている。


「何段階あるんだよ!」


 と、サクは叫ぶと壁走りで追尾の難易度を上げた。もはや二人だけの鬼ごっこの様相だ。

 一方、アイソポスはアルゴの変化の遷移を能力で観察していた。


「もう少しだな、スカイセイル!」


 アルゴはさらに推進力を上げる事で、巨体による壁走りのハンデを解消し目の前のサクに手を伸ばす——。


「捕まえた!」


 遂にその手は跳躍したサクの左足を掴むことに成功した。その直後、アルゴが急激に失速していく。


「おっと推進力切れだ」


 その時、アイソポスはアルゴの変化に気付く。ギアを上げ五枚まで増えた背中の帆は、推進力が切れるとみるみるうちに消えてしまったのだ。


「——離せ!」


 サクは右足でアルゴの顎を蹴り上げ離脱すると距離を取った。


「ブハァ! いい蹴りだっだぜ!」


 と、竜骨を解いたアルゴにゴーリキが仕掛ける。


「ヴォルティカルシールド!」


「待てスクトゥム! 攻撃するな!」


 アイソポスが慌てて制止するがその声はゴーリキに届かない。高速回転する盾の連撃をアルゴは避けもせず竜骨で受け止める。


「あいつめ⋯⋯! 見てくださいサクさん!」


 アイソポスはサクの手を取ると能力視の共有を求めた。

 不意にサクの視界に飛び込んできたもの——それはゴーリキの攻撃を受ける度、アルゴの背中に一枚、また一枚と背びれが伸びていく予想外の光景だった。


「——何ですかあれは⁉︎」


「背中に帆を張り加速する。——それが奴の能力だったんです。その推進源は見ての通り竜骨中に吸収したエネルギーでしょう!」


 ゴーリキは全ての攻撃を防がれると、荒く乱れた息を整えながらアイソポスに振り返る。


「ハア、ハア、なんだって⁉︎ ってことは自分は⋯⋯!」


「その通り! お陰でチャージはイイ感じだ! さあ、見せてやるぜ俺様の真の速さをよ。ムーンセイル!」


 アルゴはトップギアを解放し、六枚目の帆を背中に展開する

 すると、それまで能力視でのみ確認できたアルゴの帆が目視可能になっていく。帆が完成されたことでより一層輝きを増したようだ。


 アルゴは跳躍すると屋内を縦横無尽に飛び回りながら、三人を攻撃するタイミングを見計らっている。

 それを警戒してアイソポスは最大限の能力視で監視し、ゴーリキは防御態勢を取っていた。


「ワハハハ! 避けられるかな? ムーンレイカー!」


 と、壁を蹴るや竜骨を発動させ巨大な弾丸と化してゴーリキを襲う。咄嗟にシールドを展開して防ぐゴーリキだがその質量に堪らず吹っ飛ばされてしまった。


 さらにアルゴは空中で不自然に方向を変えアイソポスに向かって飛んでいく。

 その瞬間、アルゴの変化を察知し横っ飛びで直撃を回避したアイソポスだったが脇腹に被弾し転倒した。


「ゴホゴホッ! まさかまだ能力が⁉︎」


「ブハァ、そうさ。俺様は四つの能力を持つ『選ばれし者』だからなぁ!」


 アルゴは一度滞空した後、今度はサクを目掛けて急降下する。


「兄ちゃんも驚けよ! えぇ——?」


 サクは静かにアルゴを見上げていた。


 ——集中しろ! アルゴの速さに対抗するにはどうしたらいい⋯⋯?


 すると、思考が異常に加速し脳中が熱を帯びていく。その速度は網膜に映る像が脳に到達する時間を遥かに上回り、時が止まって行くような感覚に陥る。


 ——アムネジアの村の時と一緒だ⋯⋯。


 サクはふと思った。

 その意識下では不思議と焦燥感が消え去り、穏やかに、そして冷静に世界を俯瞰することができた。


 視界の先にいるアルゴの血走った眼、剥き出した歯茎、飛び散る唾の飛沫まで鮮明に視認できる。


 ——今まさに竜骨を発動しようとするアルゴの腹部はガラ空きだ。


 周りには、床に倒れたアイソポスとゴーリキが苦痛に顔を歪めている。


 背後には戦闘を静観しているマルタン。

 部屋の隅ではヤンセン一家が両手を組んで勝利を祈っていた。


 ——この人達の力になりたい!


 そう願った刹那、無意識に身体が動き出していた。

 対空ジャンプから放った右拳は硬化が未完全なアルゴの腹部に突き刺さる。


「————!」


 アイソポスは目の前で起きた出来事に我が目を疑った。サクが金色の光そのものと化す瞬間を自身の能力視ではっきりと確認したのだ。


 もはやそれは能力者とは別次元の、世界と同化できる者の力だった。


「まるでアナマリア様じゃないか⋯⋯」

 

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